【生命保険】告知義務違反により保険会社が契約を解除できない場合とは?
ファイナンシャルフィールド / 2023年8月15日 8時20分
生命保険に加入する際には、保険契約者間の公平性の観点から、通常、既往症など健康状態の「告知」を行う必要があります。この告知内容に誤りがあった場合、保険会社は生命保険契約を解除できます。 一方、一定の場合には告知義務違反による解除を問えません。どのような場合に、保険会社が告知義務違反を根拠として、保険契約を解除できないのか解説します。
告知はなぜ必要?
生命保険は、多くの人が保険料を出しあい、相互保障をする制度です。つまり、加入当初から健康状態のよくない方や危険度の高い職業に従事されている方等が無条件に加入できるとすると、保険料負担の公平性を保つことができません。
正しく「告知」をすることは、保険制度において健全な運営や維持のために重要となります。そのため、一般的に、契約の際、健康状態やそのときの職業、既往歴等を告知することが義務づけられています。
なお、保険の種類等により告知事項は異なります。告知事項にない項目については、告知する必要がありません。
告知義務違反による解除の効果
告知義務者が、故意または重大な過失によって重要な事実について告知せず、または事実と違うことを告げていた場合には、告知義務違反となり、保険会社はその契約を解除できます(保険法55条1項・84条1項)。
解除の効果は、将来に向かってのみ効力を生じます(保険法59条1項)。したがって、支払済み保険料は返還されませんし、未払保険料があれば、支払う必要があります。また、解除の効果は将来に向かってのみ効力を生じますが、解除されるまでに発生した保険事故については保険金を受け取ることもできません(保険法59条2項1号)。
ただし、告知義務違反の事実と保険事故の発生との間に因果関係のないときは、保険金を受け取ることが可能です。例えば、糖尿病を告知せず、交通事故で死亡した場合などです。
解除した生命保険契約に解約返戻金がある場合、法律上、保険会社は解約返戻金を返還する必要はありません(保険法63条)が、実務上、保険会社は解約返戻金を返還しています。また、未経過保険料も返還しています。
告知義務違反による解除ができない場合
以下の場合には、告知義務違反による解除はできません。
(1)保険契約の締結時に保険会社が告知義務違反の事実を知っていたか、または過失によって知らなかった場合は、保険会社は保険契約を解除できません(保険法55条2項1号)。
なお、募集人等(セールスパーソンなど)に告知しても、募集人等は保険媒介者に過ぎず、告知の受領権はありませんので注意しましょう。
(2)募集人等の保険媒介者が保険契約者等の告知を妨害したり、保険を契約する人に告知義務違反を勧めたりすることがあった場合、保険会社は解除することができません (保険法55条2項2号)。
例えば、被保険者等が既往症について告知書に記載したにもかかわらず、募集人等が無断で改ざんし、既往症なしとする告知書を保険会社に提出するケースなどです。
ただし、募集人等が事実の告知を妨げたときでも、その募集人等の妨害行為がなかったとしても告知義務違反があったであろうと認められる場合には、解除をできます(保険法55条2項3号)。
(3)解除原因を知ってから保険会社が1ヶ月間にわたり解除をしなかった場合は、解除権が消滅するため解除はできません(保険法55条4項前段)。
(4)保険契約締結時から5年(除斥期間)を経過した場合、解除はできません(保険法55条4項後段)。
保険約款の2年と除斥期間5年との関係
ちなみに、保険約款では、「保険契約が、責任開始の日からその日を含めて2年をこえて有効に継続したときは解除できません。ただし、保険金等の支払事由または保険料の払込の免除事由が2年以内に生じていた場合には契約を解除できる」となっています。
告知義務違反しても、2年以内に保険事故が発生せず2年を経過したときは、5年を待たずして保険会社は解除できなくなります。
これに対し、2年以内に保険事故が発生したときは、解除原因を知ってから保険会社が1ヶ月間に解除権を行使するという要件を満たせば2年経過後でも解除できますが、この場合でも生命保険契約締結から5年を経過していれば解除権は消滅します。
以上、生命保険の契約において、告知義務違反により保険会社が契約を解除できないケースをご紹介しました。ただし、保険契約時は告知を正確に行うことは「義務」ですので、十分気をつけましょう。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。
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