新NISAで投資を始めたいのですが、 2024年6月の定額減税による税金の還元を期待して始めるのはダメですか?
ファイナンシャルフィールド / 2023年12月15日 2時10分
政府が2024年6月に行うと予定している、いわゆる所得減税が物議を醸しています。内容は、納税者と扶養家族1人当たり所得税3万円、住民税1万円、計4万円の定額減税による還元とされています。本来であれば減税は国民にとって喜ばしいはずですが、内閣の支持率は低下しているため、どうやら国民の多くは高く評価していないようです。 今回は、2024年から新NISAが始まることもあり、税金が戻ってくることの意味について、投資初心者向けに国内総生産(GDP)と税金の関係から簡単に考えていきます。 ※この記事は2023年11月30日時点の情報を基に執筆しています。
GDPとは何か
GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)とは、一定期間に国内で産出されたモノやサービスの付加価値の総額を意味します。これだけだと分かりにくいと思うので、自動車が消費者の手に届くまでの過程を例に説明します。
まず、自動車の生産に必要な鉄の採掘会社は、自社で採掘した鉄鉱石に利益(付加価値)を乗せて、鉄鋼などの鉄製品を作る製鉄会社に販売します。製鉄会社は鉄製品を自動車会社へ販売し、そして自動車会社が生産した自動車を消費者が購入することになりますが、それぞれの過程で利益(付加価値)が上乗せされています。このような一連の流れで生み出された、利益(付加価値)の合計がGDPです。
GDPは実額で示されますが、内閣府の速報では2023年第3四半期(7~9月期)は名目で588.5兆円、実質で555.1兆円となっています。
GDPを計算式で示すと、以下のようになります。
GDP(国内総生産)=C:消費+I:投資+G:政府支出+(X:輸出-M:輸入)
Cは消費で、企業や家計といった民間の消費を指します。Iは投資ですが、企業の設備投資や家計の住宅投資といった民間投資のことです。Gの政府支出には、政府が行う消費や投資が含まれます。そして、Xが輸出、Mが輸入です(輸出から輸入を差し引いたものが純輸出)。これらのすべてを足し合わせたものがGDP、国内総生産です。
GDPの計算式で考えると、税金の還元はほとんど意味がない
上記のGDPの計算式では、税金(tax)は記されていません。税金はGの政府支出の原資になるため、分かりやすくいってしまうと、そのなかに含まれていることになります。
政府が行おうとしている所得減税は、政府支出を増やすという意味です。計算式を基に考えれば、政府支出が増えればGDPは増えます。経済政策(ここでは財政政策)としては景気がよくなるわけですから、本来は好ましい方法といえます。
それでは、なぜ税金を還元しようとしているのに、国民からは評価されていないのでしょうか。この点についても、GDPの計算式で説明することができます。
政府は所得減税について、過去2年間で増えた税収の「国民への還元」「定額減税による還元」という言葉を使っています。還元ということは、国民が稼いだ結果、国に納めた税金を再び財布に戻すということになります。毎年の年末調整や確定申告では、所得控除などを通じて税金が還付されることがありますが、定額減税による還元はその年1回に限って、一時的に徴収した税金を元に還(かえ)すということです。
GDPの計算式に基づけば、税金を還元すると政府支出が一時的に増えることからGDPは増加しますが、その翌年は税金を還元した分の政府支出がなくなるため、前年と比べるとGDPは減ります。
世論では「払った税金の一部が戻ってきたとしても、その後は増税が行われるのだろう」という声もあるようですが、それは少しうがった見方で、可能性は否めないものの現状でははっきりとしたことはまだ分かりません。GDPの計算式で明らかなように、単年度で税金を還元した後、翌年は通常に戻るわけですから、定額減税にどれほどの効果があるのかも不透明です。
税金の還元を投資の観点から見ると
投資の観点で税金の還元を見た場合、たとえ一時的であっても国民の懐にお金が戻り、消費の下支えになる可能性があることから多少の期待はもてるかもしれません。
この点もGDPの計算式で説明することはでき、政府支出が増えることでGDPが増加するため、日本株は買いだということになります。ただし、税金を還元する目的は、物価の上昇から家計の悪化を和らげることにあるため、おそらくは消費の喚起にそれほどつながらず、積極的な株式の買い材料にはならないでしょう。
また、定額減税での税金の還元は2024年6月に実施が予定されていますが、日銀による経済の見通しを基に考えるならば、その頃には物価が下落している可能性もあります。
仮に物価が下落してきた場合、もはや物価対策ではなく、わずかな消費の下支え対策にしかなり得ないと見ておく必要があるでしょう。
このように考えると、税金の還元は投資において、ほぼ判断の材料にならない可能性があります。
まとめ
国が経済対策についてしっかりと話し合い、効果的に実行してくれなければ、国民の暮らしは豊かにならないでしょう。また、これから新NISAを通じて投資を始めようという方にとっては、株価を押し上げてくれるような経済政策がなければ、国内投資に魅力を感じるのは難しいといえます。
暮らしや投資に対して今後、どのように考えて動けばよいのか、私たちがマネーリテラシーを身に付ける意義は今のような時代に見出せるのかもしれません。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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