大学等高等教育無償化は、中間層の国立大学進学者にとって実は、改悪!?
ファイナンシャルフィールド / 2018年11月21日 3時0分
現在、政府で検討されている大学等教育無償化は、大学等の入学金や授業料を減免などするものです。 一方、従来から国立大学には授業料等の減免制度があり、こちらの所得基準のほうが大学等高等教育無償化案に比べて緩やかです。 大学等高等教育無償化により、現在の国立大学の授業料等の減免制度がなくなるのであれば、中間層にとっては厳しい改正となります。問題提起をしたいと思います。
国立大学の授業料の推移
文部科学省の資料によると、昭和50年度の授業料は3.6万円でした。
10年ごとの推移をみると、昭和60年度は25.2万円、平成7年度は44.76万円、平成17年度は53,58万円となっています。
入学料は、昭和50年度は5万円でした。昭和60年度は12万円、平成7年度は26万円、平成17年度は28.2万円となっています。
現在、国立大学の入学料は28.2万円、授業料は53.58万円です。これは国の示す標準額です。
省令で、国立大学の授業料は標準額の120%までの範囲で大学が決めることができるとされています。
文部科学省によると、国立の学士・修士・博士課程で初めて、東京工業大学が標準額を上回る設定をしたようです。
2019年度から東京工業大学や東京藝術大学が授業料を、それぞれ、63万5,400円、64万2,960円へと大幅な値上げを行います。
国立大学等の授業料等の減免制度の家計基準は意外と厳しくない
全ての国立大学等では、意欲と能力のある学生が経済状況に関わらず修学の機会を得られるようにするため、授業料の免除・減免措置を行っています。
平成28年度予算では、国立大学320億円、国立高等専門学校4.7億円の予算措置が取られました。
予算上の免除員数等は、学部・修士課程5.4万人(10.8%)、博士課程0.6万人(12.5%)となっています。
授業料等の減免を受けるには学力基準と家計基準を満たす必要があります。
選考基準の運用に関しては、文部科学省「授業料免除選考基準の運用について(※)」に詳しく記載されています。
ここでは、大学・短大の家計基準について見てみましょう。
世帯人員が4人の場合、全額免除に係る収入基準額は175万円、半額免除に係る収入基準額は334万円となっています。
ここにいう収入とは学生の属する世帯の1年間の総所得金額をいいます。
総所得金額の算定方法によると、総所得金額は、1年間の総収入金額から、必要経費と特別控除額を差し引いた金額をいいます。
例えば、給与所得者の場合の必要経費は、収入金額が200万円超653万円以下では、収入金額×0.3%+62万円で計算した金額になります。
収入金額が600万円であれば、必要経費は242万円になります。なお、給与所得者が2人以上いる場合、この計算は各人別に行います。
特別控除額は、母子・父子世帯、就学者のいる世帯、その他特別の事情がある世帯で控除できます。
例えば、特別控除額は、母子・父子世帯49万円、私立高校生(自宅通学)1人について41万円などとなっています。
なお、学生が奨学金を受けている場合には、総所得金額に加算するとともに、本人の授業料相当額を特別控除の対象としないことになっています。
学力基準に関しては、大学等により異なりますが、国立大学に入学できる学力であれば、よっぽど怠けない限り、問題はないのではないでしょうか。
※文部科学省「授業料免除選考基準の運用について」
大学等高等教育の無償化で現行の授業料等減免制度はどうなる?
両親と本人・中学生の4人家族の場合、年収380万未満の世帯を対象に収入に応じて入学金や授業料を減免する案が2020年度実施を目途に検討されています。
検討案によると住民税非課税世帯(年収270万円未満)は国立大学の入学金(約28万円)と授業料(約54万円)が全額免除されます。
非課税世帯をベースに年収300万円未満は、3分の2,380万円未満は3分の1が免除されます。
さらに、生活費についても、返済不要の給付奨学金が支給されます。
学生の成績状況は毎年確認され、下位4分の1に低迷するなどの場合は警告され、連続して警告を受けたり、停学や留年などしたりした場合には、支給が打ち切りになります。
一方、現行の国立大学等の授業料減免は、低所得世帯でなくとも利用できます(特に、半額免除)。
例えば、埼玉大学の場合、家計基準は、家族構成が、父(所得者)・母(無職)・本人(自宅通学・奨学金なし)・弟(公立高校生・自宅通学)の4人世帯では、父が給与所得者の場合659万円以下、事業所得者の場合401万円以下となっています。
仮に、大学等高等教育無償化の成立により、現行の国立大学等の授業料減免が廃止あるいは家計基準が厳しくなったら、中間層にとっては厳しい改正となります。
逆に、非課税世帯にとっては、生活費も給付されるのでうれしい改正といえます。
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
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