ボランティアと営利事業は両立する? 昔の「有料道路」が教えてくれる2つの側面とは
ファイナンシャルフィールド / 2021年2月1日 10時55分
高速道路、○○バイパス、△△ドライブウェイなど「有料道路」を利用した経験は、きっと誰にでもあるでしょう。
一般の道を走るよりも早く快適で時間も節約できる、そこを通ることでしか得られない風景や眺望が楽しめる、あるいはそこ以外にクルマでの通行ルートがないなど、料金を支払う代わりに得られるメリットもさまざまです。
有料道路の「ビジネスモデル」
そんな有料道路は、公的主体でも民間企業でも手間や資金を大がかりに投入して整備し、その費用は通行料で回収していく。そんな「ビジネス」(必ずしも純粋な“商売”ではないにしても)のモデルが明確です。
料金(普通車)は100円台もあれば、走行距離が伸びれば1万円台やそれ以上もあるなど、幅広くなっています。
日本の有料道路制度は、1871(明治4)年の太政官布告がルーツのようです(※1)。そして日本初の有料道路といわれるものは、複数(諸説)あります。その中には、先述のような「ビジネスモデル」とは一見イメージが異なるものもあります。
これも「有料道路」?
それは「青の洞門」(大分県中津市本耶馬溪町)です。小説『恩讐の彼方に』(菊池寛著)の舞台で、父の仇討ちの旅を続ける青年がこの地でようやく見つけた相手の男は、出家して行脚僧となっていました。
僧は、鎖場を伝って移動するしかない断崖絶壁で地元民が命を落とすこともある交通難所に、ボランティア精神で手掘りの洞門(トンネル)を作ろうと長年力を尽くしています。その姿を見た青年は、仇討ちを工事完成まで待つことにして工事を早めるため掘削を手伝います。
そして1年半後に工事は完了。僧が掘り始めてから21年目でした。僧は身を差し出しますが、洞門掘削のための長年の努力やボランティア精神に心を打たれた青年は、仇討ちの心を捨て僧の手を取って号泣するという結末です。
小説での仇討ちエピソードはフィクションですが、僧の活動はほぼ実話。越後出身の禅海和尚が長年かけて1750年に第1期を完成させた(全体開通は1764年)といわれています。
禅海がノミと鎚を使って1人だけで掘り進めたようなイメージもありますが、托鉢勧進で資金を集め石工も雇って工事を進めました。また、地元の中津藩も奉加帳をまわして寄付金を集めて支援したようです。
集めた資金総額は定かではありませんが、注目されるのは開通後の運営です。通行するには料金を徴収しました。その額は人4文、牛馬8文と伝わっていて仮に1文=20円とすると、人80円、牛馬160円となります。これが「日本最古の有料道路」の1つといわれる理由です。
断崖絶壁を鎖場伝いに移動するしかない危険な状況から人々を救う。そんな高邁なボランティア精神で始めたという印象が強いですが、別の面では「受益者負担」により資金回収がしっかりされていた現実もあるようです。
勧進や奉加に応じた人に通行料収入が還元されたかどうかも定かではありませんが、こうしたやり方で公共公益的な事業を進めたことは、今まさにブームとなっている「クラウドファンディング」の原形だったといえるでしょう。
明治の偉人との関わりとは
このトンネルが掘られた競秀峰は、「耶馬溪」といわれる景勝地の一角でした。明治時代には付近の山地が売りに出されたことがあります。絶景の樹木が伐採されて景観が損なわれることを心配し私財を投じて買収したのが、地元・中津藩士出身の福沢諭吉でした。
福沢は自分の名を表に出さず、少しずつ目立たないように3年かがりで約1.3ヘクタールを購入したようです(※2)。これは、今でもはやりの「ナショナルトラスト」「環境保全」の活動そのものでしょう。
なお、日本初の有料道路の1つに「箱根国道」も挙げられています。先述の1871(明治4)年の太政官布告に基づいた第1号とされ、建設した箱根湯本の温泉旅館主は、湯治で訪れた福沢諭吉に事業を勧められたそうです。
まとめ
財務諸表や会計仕訳の「借方」「貸方」が、実は福沢諭吉の翻訳によるものであることを以前に書きました。この明治の偉人が出身地の景勝地やその足跡の面でも、今日でも色あせないような先進的な経済活動に直接・間接に関わっていたことを実感させられます。
そして、高邁なボランティア精神と有料ビジネスが表裏一体となった「青の洞門」のエピソードは、ものごとには二面性があることを教えてくれます。いつもとは違った視点で眺めることも、たまには役に立つかもしれませんね。
[出典]
(※1)国土交通省「有料道路制度の概要」
(※2)慶應義塾大学出版会株式会社「慶應義塾機関誌『三田評論』2009年5月号」~「耶馬溪-福澤先生と環境保全・朝吹英二生家跡(大澤輝嘉)」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
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