レフェリーはDFよりもかわいそうな立場 海外に大きく劣る待遇に潜む“流出”の懸念【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年4月23日 14時20分
■レフェリーはミスだけが記憶に残り続ける
DFとはかわいそうなポジションだ。ミスをすれば記憶に残る。その一方で、いい判断でボールをカットしたり、あるいはサッとポジションを修正して相手にパスを出させなかったりしても、なかなか記憶には残らない。
GKはミスが記憶されることがあっても、例えば凄いセーブなども語り継がれる。まれにゴールを奪うと伝説クラスの話になる。一方でFWは注目の高い場面でシュートミスをすると長く批判されることはあるが、それ以上にゴールが称賛され続ける。何回決定機を外しても、最後に決勝ゴールを挙げればヒーローだ。
もちろんDFも勝負どころでゴールを奪えば、いつまでも語ってもらえる。だが、それは本来の役割とは違う部分での活躍。自分の職責を果たした部分では、例えば「クリーンシートが何試合続いた」などの数字の部分で、サッカー通からは評価されるにとどまる。
だが、そんなDFよりもかわいそうな人物がいる。ミスだけがずっと記憶に残り続ける。しかも記憶に残らないことが最も価値がある。試合のあとに語ってもらえることはほとんどない。文句を言われ続けるだけに見えてしまうのが、レフェリーだ。
試合がすべてスムーズに終わった時、人々は選手のプレーぶりに話題を集中させ、勝ちをもたらした選手の奮闘ぶりや、負けた原因などに思いを馳せる。だがそのうしろでゲームが滞りなく進むように力を尽くした人のことは、ほぼ忘れ去られる。
特にそう思わせてくれたのが、今シーズンのここまでの戦いで言えば延期されていた第3節、横浜F・マリノスvsガンバ大阪の試合(4月10日開催)だった。
■飯田主審の判定には選手たちも納得
この試合でまず目に付いたのは、日産スタジアムのピッチ状態の悪さだった。所々芝がはげていて土が見えており、真っ直ぐなパスのはずなのにボールが跳ねる。しかも足元があまり固そうには見えず、選手は止まるのに苦労しているようだった。
こんな状態の時は予想外のところにボールが動き、それを追う選手の接触が増える。また走ったあとのストップが効きにくければ、必要以上に激しいあたりになってしまう。プレーとともに選手の怪我の心配があった。
シュートは合計32本。これは第8節まで終えた時点で全チームの合計シュート数が1618本、1チームあたり1試合10本であることを考えると、普段のゲームよりもゴール前のシーンが多かったことを意味する。つまり両チームとも上下動を激しく繰り返した、体力を消耗する試合だったと言えるだろう。
それでも両チームの直接フリーキック(FK)が合計19回で済んでいるのは、お互いのレベルの高さというのが影響しているから。また飯田淳平主審がしっかり接触プレーを判定し、流せるものは流していたからだとも考えられる。
実際、この試合で両チームが主審に詰め寄ったり文句を言ったりする場面はほぼなかった。もちろん両チームとも審判に対する敬意をいつもちゃんと表現しているし、特に横浜FMはほかの試合でも、主審がビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)と更新している時はその場を離れ主審の決定を尊重する姿勢を見せている。加えて飯田主審が選手からの不満が出てこないような裁き方をしたという点も見逃してはいけない。
2021年Jリーグ最優秀主審賞を受賞した飯田主審は、近年最も好調なレフェリーの1人だ。ポジショニング、判断の速さ、正確性がより磨かれているが、何より凄いのは、飯田主審が判断を下すと選手たちが納得するということだ。今年のアジアカップでも飯田主審は笛を吹き、1試合に2回PKがあるという難しい試合になった。だが、外国籍選手たちも飯田主審の判定には素直に従っていた。
■日本のレフェリーたちは本当に報われているのか
もちろん飯田主審にもミスはある。横浜FMvsG大阪でも一瞬判定が遅れ、選手たちが戸惑う場面があった。ただし、そこでの主審から選手への説明に説得力があるのだろう。選手はすぐ次のプレーに移っていく。
極論を言えば、判定が正しかろうが間違っていようが、選手が納得して次に進むのが一番いい。それはサッカーらしいと言える。元々サッカーという競技にはレフェリーが存在せず、両チームで話してどちらのファウルか決めていた。だんだんそれでは解決できなくなってきたためレフェリーが生まれた。レフェリーは当初、ピッチの横に座っていて、両チームから決めてほしいと言われた時に判定を下していた存在だったのだ。
飯田主審は長い期間かけて選手たちからの信頼感を得て、プレーしている選手、観客がゲームに集中できるよう、淀みないゲームコントロールができるようになったのだろう。もちろん過去には物議を醸した判定があった。だが、非常に上手く裁いた試合もある。そして問題になった判定だけが人々の記憶や記録に残っている。
そして、果たしてそこまでの役を担っているレフェリーたちが本当に報われているのか。J1リーグの主審は1試合12万円、副審は6万円、第4の審判は2万円、VARは6万円、AVARは3万円だ。J2になると主審は6万円、副審は3万円、第4の審判は1万3000円。J3ともなると、主審が3万円、副審は1万5000円、第4の審判が1万円という報酬になる。
もしJ1の主審を38試合、さらに2試合カップ戦を吹いたとすると、その報酬は480万円。プロフェッショナルレフェリーはそれ以外に月額の保証がある。プロでないレフェリーはほかに本業を持ちながら続けている。ただ、いずれにしても日本のレフェリーでは年収1000万円を超えれば高給取りだと言えるだろう。一方、2018年のスペイン紙「マルカ」が報じたところによれば、ラ・リーガの主審は年俸29万6000ユーロ(約4870万円)に達している。
日本のレフェリーは国際大会でも難しい試合を任されるなど評価されている。だが果たして、国内ではどう扱われているのか。まだまだレフェリーについての見る目は養っていかなければならないのではないだろうか。そうでなければ、選手と同じようにレフェリーも海外を目指すようになってしまう日が来るかもしれない。(森雅史 / Masafumi Mori)
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