専門家危惧「怪我する子増えている」 練習法は進化も…制限や禁止で狭まる“多様性”
Full-Count / 2024年5月1日 7時50分
■盗塁王指導の安福一貴氏が力説…運動量少ない子どもへの「ストレッチの重要性」
絶対的な運動量が落ちている近年の野球少年・少女にとって、ストレッチは怪我防止以上の効果がある。多くのプロ野球選手もサポートしている走りの専門家・安福一貴さんは、少年野球でもストレッチの重要性を強調する。体への負荷を3段階で上げていき、野球のパフォーマンスアップにつながるメニューを提案している。
プロトレーナーの安福さんは少年野球からプロ野球まで、さらに野球以外のアスリートも対象に、走りを中心としたトレーニングを指導している。過去には盗塁王のタイトルを4度獲得した元西武・片岡易之(登録名は当時、現・保幸)さんと二人三脚で走塁改造に取り組み、現在は巨人・中山礼都内野手や中日・村松開人内野手らをサポートしている。
科学の力によって、走る技術は確実に進歩している。陸上の短距離選手の記録が証明しているように、速く走る方法やトレーニング法は10年、20年前と比べて格段に進化した。ただ、安福さんは子どもたちの運動能力は全体的に落ちていると指摘する。
「トップレベルの選手は専門的なトレーニングで記録を伸ばせます。でも、子どもたちは運動量が減っているので、怪我をする子どもや、足が遅い、ボールを投げられない子どもは増えていると感じます。ひと昔前よりも運動量が減っているので、平均的な運動能力が落ちているのだと思います」
首都圏を中心に、子どもたちが自由に遊べる公園や空き地は減っている。しかも、遊具は危険とみなされて取り外され、野球をはじめとするボール遊びが禁止されているケースも少なくない。こうした環境で育った野球少年・少女たちは動きのバリエーションが減り、関節の可動域が狭くなるのは自然な流れで、野球のパフォーマンスにも影響する。
■お勧めは“3段階”「選手が順番にメニューを考えたりすると、飽きずに続けられる」
そこで、安福さんはストレッチへの考え方を改める必要性を説く。体を温めて怪我を予防するだけではなく、ストレッチで運動能力も向上させるのだ。安福さんは「今の子どもたちは股関節、足首、体幹など体の部位を固める力が落ちています。体が流れてしまうイメージです。ストレッチを運動の契機づけにすると良いと思います」と話す。
安福さんはストレッチを3段階に分ける方法を勧める。まずは、「静的なストレッチ」。アキレス腱を伸ばしたり、肩を回したりするメニューで関節や筋肉を動かすところから始める。次に「動的なストレッチ」。これは静的なストレッチに動きを加えるもので、ジョギングをしながら腕を伸ばすようなメニューとなる。最後に、野球の動きに合わせた「機能的なストレッチ」。例えば、右投手の投球フォームをイメージして、左足と右腕を同時に伸ばす。
「ウエートトレーニングは独自で取り組むと怪我のリスクがあります。一方、ストレッチは負荷が高くないので、関節が無理な動きをしなければ、チームや個人でメニューをつくれます。選手が順番にメニューを考えたり、季節によってメニューを変えたりすると、飽きずに続けられると思います」と語る。冬は動的なストレッチを増やして体を十分に温め、夏は機能的なストレッチに重点を置くとよいという。
もちろん、ストレッチは運動生理学的にも有効だ。筋肉を温め、心肺機能を安定させるなどの効果があるため、怪我の予防につながる。注意すべきは、寒い時期に洋服を着こんだり、使い捨てカイロを貼ったりして体を温めればストレッチは必要ない、という考え方。安福さんが説明する。
「外的要因ではなく、体を内側から温める必要があります。血液を運搬して運動する準備をするわけです。冬場に室内練習場で暖房をつけているから大丈夫というわけではありません。厚着した時も、それで終わりではなくストレッチで体の中から温めていかないと怪我のリスクが高くなります。原理原則を間違えないようにしてほしいですね」
目的意識を持たずに、何となく時間を過ごしがちなストレッチ。練習をスタートさせる際のメニューとなるだけに、怪我の予防やパフォーマンス向上に直結する重要な時間となる。(間淳 / Jun Aida)
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