将来的な妊娠を見据えて広まりつつある「卵子凍結」の実態
日刊ゲンダイ ヘルスケア / 2024年4月13日 9時26分
昨年9月、東京都は将来の妊娠に備えて「卵子凍結」を希望する18~39歳の都民に対し、最大30万円の助成金を支給する方針を決めた。少子化対策の一環で、それくらい一般にも普及しつつある。医療法人オーク会の船曳美也子医師に聞いた。
卵子凍結は、将来に備えて卵巣から採取した卵子を凍結保存すること。抗がん剤治療による影響を避けるためがんの治療前に行う「医学的適応」と、健康な女性が将来の妊娠に備えて行う「社会的適応」の2つに分けられる。日本では、2013年に社会的適応に対するガイドラインが日本生殖医学会によって整備され、近年はがん患者だけでなく、キャリアプランやライフプランに悩む女性たちの選択肢として、卵子凍結が広まりつつある。
「晩婚化に伴い、第1子を希望される年齢も高くなっています。精子は年齢を重ねても妊娠能力に影響が少ないのに対し、卵子の場合、加齢に伴い老化して質も低下します。胎児の染色体異常のリスクも高まるので、なるべく若いときの卵子を採っておくことが望ましいのです。患者さんは30代に多く、オーク会では年間100~200人が卵子凍結を受けています」
船曳氏によると、社会的適応で卵子凍結を受ける理由のうち、3割は「現在パートナーがいないが将来に備えておくため」、残る7割は「パートナーがいるが、妊娠・出産の予定が立っていない」「パートナーが協力的でない」「今はキャリアアップを優先したい」など、人によってさまざまだ。
中でも、卵子凍結に踏み切るきっかけになりやすいのが、“卵子年齢”の検査だという。
「婦人科で行われている血液検査の項目に『AMH検査』があり、これは卵巣の中に卵子がどれくらい残っているか推測できる検査法です。AMH値が極端に低いと早期閉経のリスクが高く、閉経すれば妊娠は不可能です。またAMHが低値だと、1度の採卵で採取できる卵子の数も非常に少ない。20代からコツコツと卵子をためておき、30代で出産される方もいます」
都内に住む36歳の女性は、不妊治療をしていた姉の影響もあり、28歳のときに婦人科を受診。AMH検査の結果から、28歳時点での卵子の残存数が37歳相当と判定された。29歳で卵子凍結を決意し、2年ほど継続したのち34歳で凍結卵子を移植し、妊娠・出産に至った。
■妊娠率は体外受精と変わらない
卵子凍結の手順は、いくつものプロセスを踏んで行われる。
「1回の採卵でより多くの卵子を採取できるよう、月経の3日目から約1週間、卵巣を刺激する排卵誘発剤を服用または注射し、卵子が入っている卵胞を育てます。ただ、大きくなりすぎると排卵が起こりやすいので、排卵を防ぐ治療も同時に行います。手術当日は、まず超音波で卵巣の位置を確認し、静脈麻酔下で膣から長細い針を挿入して採卵し、液体窒素のタンクに入れて凍結保存します。妊娠を希望する際は、凍結卵子を融解し、顕微授精させて子宮内に移植する流れになります」
合併症を抑えるため、一度の採卵で採取する卵子の個数は最大15個程度までが望ましい。また、たとえ10個の卵子を採れたとしても、融解して使用できる卵子は2~3個ほどだという。
「ヨーロッパの統計では、1個の卵子から出産できる確率は、20代後半で13%前後、30代前半で10%前後、30代後半で7%前後、40代前半で5%前後で、体外受精と変わらない確率です」
費用は医療施設によって異なるが、社会的適応の場合すべて自費診療だ。オーク会では約35万円+卵子保管料約17万円(2年間)だという。晩婚化がさらに進めば卵子凍結もますます盛んになるかもしれない。
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