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正直納得いかない…! 10年前に別居し、他の女性と内縁関係を続けていた夫が死亡→同居中の女性が〈死亡退職金〉を受け取る流れにモヤッ【弁護士が解説】<br />

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月16日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

10年前に別居し、他の女性と内縁関係を続けていた夫。別居中も私(相談者)と子の生活費は送金してくれていました。そんな夫が亡くなり、勤務先から死亡退職金の支給が決まったのですが、どうやら同居中の女性へと支給されそうです。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「死亡退職金の受給権者の範囲と優劣」について解説します。

死亡退職金の受給権者の範囲と優劣

亡くなった夫は、妻である私と10年前に別居し、他の女性と内縁関係を続けていましたが、別居期間中も勤務先の給与の中から、私と子の生活費を送金してくれていました。夫の死亡により勤務先から、死亡退職金が支給されることになったのですが、どうやら同居中の女性の方に支給されそうなのです。夫には見るべき財産はなく、死亡退職金が唯一の財産です。

紛争の予防・回避と解決の道筋

◆死亡退職金は、支給規定等による受給資格に基づき遺族が自己固有の権利として取得する

◆死亡退職金の受給権者は、死亡当時、本人の収入により生計を維持していた遺族であるかどうかが有力な基準となる

◆死亡退職金の受給は、共同相続人間の実質的公平を図るために、特別受益として認められることもある

チェックポイント

1. 死亡退職金に関する支給規定の有無と内容を確認する

2. 受給権者の特定のために、生前の本人および遺族の収入、生計の状況等について確認する

3. 死亡退職金の受給が相続人間の公平を害さないか、遺留分の侵害にならないかを検討する

解説

1. 死亡退職金に関する支給規定の有無と内容を確認する

(1) 死亡退職金の法的性格

死亡退職金は、本人の死亡により受給権の発生する退職金で、賃金の後払や遺族の生活保障の性質を有するものですが、受給権者と民法上の相続人の順位とが必ずしも一致しないことがあるため、その法的性格について、相続財産なのか、受給権者の固有財産なのかについて見解の対立がありました。

これについて、最高裁昭和55年11月27日判決(民集34・6・815)で、特殊法人の規程で定められた死亡退職金について、「受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なった定め方がされているというのであり、これによってみれば、右規程は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当」であると判断されました。

そして、その後の、特殊法人以外の団体の死亡退職金に関しての最高裁判決(最判昭60・1・31裁判集民144・75)でも、自己固有の権利であって相続財産ではないとの判断がなされていることから、死亡退職金は相続財産ではないとの見解が主流になっています。

(2) 本事例での対応

本事例では、夫と私は別居していましたが法律上の婚姻関係を解消していないため、私は夫の相続人となります。また、私の子が、夫の実子であるまたは養子縁組をしている場合には、私の子も夫の相続人になります。

他方、夫と同居していた他の女性は、法律上の婚姻関係にはなく、相続人にはならないので、夫の遺産を相続することはできません。

しかし、上記(1)のとおり、死亡退職金は相続財産ではなく、勤務先において死亡退職金の支給に関する規定がある場合には、その規定に基づいて受給権者が決まることになりますので、相続人の私が受給権者になるとは限りません。

ですので、死亡退職金の有無や、受給権者の特定のために、まずは夫の勤務先の死亡退職金の支給規定の有無とその内容を確認する必要があります。

2. 受給権者の特定のために、生前の本人および遺族の収入、生計の状況等について確認する

(1) 受給権者の判断基準

本事例は、法律上の婚姻関係にある私と内縁関係にあった他の女性のどちらに、夫の死亡退職金が支給されることになるのかが争いとなる事例です。

この点、役員退職慰労金について、別居中の妻と内縁関係にある女性のいずれが支給対象者になるのか争われた広島高裁平成12年2月16日判決(判タ1087・239)が参考となります。

この事案は、会社代表者が死亡したため、会社から遺族に対して退職慰労金を支払う旨の株主総会決議がなされたところ、内縁関係の女性と別居中の妻との間で退職慰労金の請求権の帰属が争われたものですが、上記判決では、まず、株主総会決議で退職慰労金の支給対象者が「遺族」とされたことから、相続財産ではないと判断しています。

次に、退職慰労金の支給対象者について、会社の退職金規程5条では「従業員が死亡した場合の退職金は、死亡当時、本人の収入により生計を維持していた遺族に支給する。2 前項の遺族の範囲及び支給順位については、労働基準法施行規則第42条から45条の定めるところを準用する。」とされており、株主総会決議では同規定を適用して退職慰労金の受給者を決定すべきであるとされていたことが推認でき、役員退職慰労金の性格から見て役員死亡の場合に同規定を適用することが不合理であるとは認められないから、退職金規程を準用しその趣旨を尊重することによって支給対象者を決めるのが相当であると判断しました。

そして、労働基準法施行規則、厚生年金保険法および同法施行令、地方公務員等共済組合法および同法施行令等から、死亡者と生計を同じくしていた者であっても、社会通念上死亡者とは別に独立して社会生活を送るに足りる十分な収入を得ている者は「生計を維持していた者」からは除かれるものと解するのが相当と判断し、死亡者の会社の取締役として936万円の収入を得ていた内縁関係の女性ではなく、死亡者の厚生年金に頼る生活を送っていた別居中の妻を死亡者の収入により生計を維持していた者と認める判断をしました。

その上で、労働基準法施行規則42条1項は、「遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。)とする。」と規定されていることから、受給者は配偶者であることを要するところ、別居中の妻は、死亡者との婚姻関係を解消することを合意したとは認められず、別居中の妻と死亡者の婚姻関係が実体を失って形骸化したとまではいえないとして、別居中の妻が支給対象者であるとの結論を導いています。

(2) 本事例での対応

仮に、本事例でも、上記裁判例と同様の退職金規程が存在するとした場合、私と他の女性のどちらが「本人の収入により生計を維持していた配偶者」であるかの問題となります。

すなわち、私は夫と法律上の婚姻関係にあり、他の女性は夫と同居して内縁関係にあることから、労働基準法施行規則42条1項にいう配偶者に両者該当するため、夫の収入により生計を維持していたのはどちらであるかが問題となるわけです。

本事例では、夫と他の女性が同居して同一の生計を営んでいた一方、他方で私は夫から生活費の送金を受けていたので、上記裁判例のように他の女性が独立して社会生活を送るに足りる十分な収入を得ていた場合ではない限り、いずれも本人の収入により生計を維持していた者に該当しうることになります。

そこで、夫から私に送金されていた額はいくらなのか、夫からの送金以外にも私に収入があるのか、それはいくらか、安定的な収入なのか等について調べる必要があります。

他の女性についても同様に、他の女性は夫の収入で生活していたのか、夫の収入以外にも他の女性に収入があるのか、それはいくらか、安定的な収入なのか等の調査をした上で、比較検討する必要があります。

そして、私も他の女性も、夫の収入のみで生活していたということであれば、可能であれば生前受領していた生活費の比率で死亡退職金を按分するという解決を検討した上、合意が難しくいずれか一方に決定される場合には、微妙ではありますが、生計を共にしていた他の女性が受給権者として認定される可能性がやや高いのではないかと考えられます。

3. 死亡退職金の受給が相続人間の公平を害さないか、遺留分の侵害にならないかを検討する

(1) 実質的公平を図るための検討課題

死亡退職金が相続財産ではなく、受給権者の固有の財産であるとすると、死亡退職金を受け取った相続人とそうでない相続人との間では不公平が生じます。

また、本事例のように、相続財産がほとんどないにもかかわらず、相続人以外の者に死亡退職金が支給される場合にも、受給権者に対しての相続人の不公平感は否めません。

そこで、この不公平感を是正するため、死亡退職金が相続財産でないとしても、その受給を、特別受益として観念できないか、遺留分の侵害として構成できないかとの検討課題が生じます。

(2) 特別受益としての持戻しの当否

死亡退職金の支給は、民法903条に定める生前贈与、遺贈に該当せず、同条が直接的に適用されないことは明白です。しかし、死亡退職金の受給権者が相続人である場合において、民法903条を類推適用して特別受益として持ち戻すことにつき、相続人間に著しい実質的不公平が生じている点を重視してこれを肯定する審判例も存在します。

よって、本事例で私が死亡退職金の受給権者となった場合には、共同相続人である子との関係で、相続人間の実質的公平の観点から特別受益の主張がなされて争われるという可能性もないとはいえません。

(3) 遺留分侵害の主張の当否

他方、相続人以外の者に死亡退職金が支給される場合については、死亡退職金の支給は遺贈や生前贈与に該当しないことから、通常は、相続人の遺留分を侵害したと認定することは困難です。

しかし、相続人には何も相続する財産がないのに、相続人でない者が多額の死亡退職金を受給するような極端な場合には、上記(2)で特別受益が認められるケースと同様に、遺留分侵害の主張が可能であるとの考え方もありうるところです。

よって、本事例で他の女性が死亡退職金の受給権者となった場合に、私の立場からは、死亡退職金について、その賃金後払の側面と相続人の生活保障を図るとの観点から、相続財産を構成すると観念した上、遺留分侵害を主張して争うことも検討に値します。

〈執筆〉 吉田和美(弁護士) 平成25年 弁護士登録(東京弁護士会)、東京弁護士会非弁護士取締委員会委員 〈編集〉 相川泰男(弁護士) 大畑敦子(弁護士) 横山宗祐(弁護士) 角田智美(弁護士) 山崎岳人(弁護士)

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