物件オーナーが「賃料」と「共益費」の増額請求→借主が拒否。訴訟へ…裁判所が下した判決は?【弁護士が判例を解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月23日 10時15分
※画像はイメージです/PIXTA
エレベーターや廊下などの共用部分を管理するための費用「共益費」について、本来なら毎月実費で清算すべきところ、事務的な煩雑さから、実際には毎月定額での支払いとする賃貸借契約が多いといいます。では、本来は実費負担の性質がある「共益費」についても、家賃と同じように増減することは可能なのでしょうか? 弁護士の北村亮典氏が判例を解説します。
賃貸借契約の「賃料は増額(または減額)しない」という契約は“無効”
共益費について、借地借家法に基づく増額または減額請求は認められるか?
建物の賃貸借契約においては、借地借家法により、賃料の増額または減額の請求が認められています(建物について借地借家法32条)。
この規定は、強行法規とされています。すなわち、契約書で「賃料は増額(または減額)しないこととする」と定められていたとしても無効であり、賃貸人または賃借人は増額または減額の請求ができることとなります。
ここで問題となるのは、建物の賃貸借契約において、賃料とは別に契約書で定められることが多い「共益費」名目の費用についても、上記借地借家法の規定の適用により、増額または減額の請求ができるか、という点です。
この問題は、共益費の性質をどのように捉えるかによります。
共益費は、一般的には、共用部分(エレベーターや廊下等)の管理に要する費用として定められるものです。そして、管理の経費として本来であれば実費(実額)で毎月清算すべきところを、事務的な便宜のために毎月定額として契約時に定められるという扱いが実務的には一般的です。
上記のように、共益費は、
①毎月(または一定期間)実額で清算されるか
②契約当初に一定額が定められているか
のいずれかとなりますが、実務的に圧倒的に多い②の場合、共益費は、賃料と同視して考えられるべきものと解釈されます。
したがいまして、上記②の場合は、賃料と同じく、借地借家法の適用があり、増減額請求が可能であると解釈されます。
この点について解釈した判例が、東京地方裁判所平成元年11月10日判決の事例です。
裁判所の「判断理由」とは
この事例は、賃貸人側から、借家法(旧法)に基づいて賃料と共益費の増額請求がなされたという事案です。
この事案は、上記②のように、契約当初に共益費も定額で定められていたというものですが、共益費についても借家法の適用があり、これに基づいて増額請求が可能であると、解釈しました。
裁判所の判断理由は以下の通りです。
「原、被告間の賃貸借契約には、被告は冷暖房費、電気、瓦斯、給排水、清掃費、町会費及び共益費又は管理費の諸費用を分担するものとし、原告の計算する割合の毎月分の金額を賃料と共に支払うものとするとの約定があることが認められる」
「原、被告間においては契約の当初から共益費及び清掃費につき当事者間の合意により実費精算の方法によらず毎月定額をもって請求及び支払がされて来たことが認められる」
「共益費、清掃費は、本来実費負担の性質を有するものであるが、事務的便宜等のため、契約上一定額をもって支払義務を定めることは世上普通に行われているところであり、本件における右のような定め及び合意につきその効力を否定する理由はない。そして、共益費、清掃費についても、物価、公共料金、人件費その他の要因によりその増減の必要を生ずることは賃料の場合と変りがないから、本件の共益費及び清掃費についてはその増減の請求につき賃料の増減額に関する借家法の規定の準用を認めるのが相当である」
この記事は2020年4月19日時点の情報に基づいて書かれています(2024年4月12日再監修済)。
北村 亮典 大江・田中・大宅法律事務所 弁護士
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