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年間家賃収入「5億円」の75歳大地主、承継半年で社員が大量離散…選んだ後継者「48歳猫かぶり長男」の強欲【元メガ・大手地銀の銀行員が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月18日 9時15分

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(※画像はイメージです/PIXTA)

地主の相続において、後継者選定は非常に難しい問題です。承継前までは上手く準備が進んでいると思い込んでいても、承継後に想定外の事態となるケースも少なくありません。本記事では白川家(仮名)の事例とともに、地主の相続における後継者選定の注意点について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

資産管理会社の活用で、大地主白川家は安泰!?

株式会社白川(仮名)は、名前のとおり白川家の資産管理会社であり、都心部における収益性の高い不動産を複数所有している。

もともと白川家は地主一族であるが、不動産事業においても大きな成果を出しており、不動産市況が悪化したタイミングにおいて現金で優良不動産を購入し、いまでは株式会社白川の年間家賃収入は5億円程度まで成長している。ただし、不動産賃貸業が主業であることから一族のほか社員は経理や総務が数名と営業が数名の小規模な家族経営の会社である。

代表取締役の白川秀広は、65歳のときにその10年後の75歳で第一線から退くことを決め、承継の対策を進めてきた。長男の一成(48歳)にはすでに株式の30%を移転しており、秀広の保有する70%分を今年中に譲渡することを決めている。承継に向けた株価引下げ対策を5年前から本格的に取り組んでおり、移転に向けた準備を専門家らとともに入念に進めてきた。

白川家においては、原則として代々長男が100%株式を所有することを決めており、私が承継した際においても、このルールを遵守したことから弟や妹とも揉めることはなかった。承継する資産の割合という点では、長男である秀広が当然大きくなることから弟や妹も取締役として事業に参画してもらい役員報酬として生活に困らないような手当を継続して行ってきた。

承継の準備が整った、とある日に、長男の一成に対して2人で大切な話をしたいので社長室に来るように指示をした。承継にあたってのスケジュールについて、以下のとおり伝えた。  

・秀広の保有する株式70%については今夏、一成へ譲渡を行う ・譲渡と同時に一成を代表取締役「社長」とし、秀広は代表取締役「会長」に就任する ・取引先が多岐にわたることから社長交代に伴う挨拶状を送付するとともに、当面は主要取引先への対応は引継ぎを兼ねて原則として2人で行う ・早ければ2年程度、長くても5年以内には承継を完了させ、秀広は代表取締役も外れ「相談役」として一定の報酬を得ながら経営からは距離を置く

一成からは「喜んでお受けいたします。いままで社長としての職務をまっとういただきありがとうございました」と頼もしい言葉があり、安心して任せられそうだと安堵した。

その数日後には長男以外の子供3人(長女、次男、三男)に対しても、同様の内容を伝え、長男をしっかりと支えるようにと伝えた。次男からは「兄貴は社員や取引先からも評判が芳しくないが、本当に社長にして大丈夫なのか」との話があったが、代々長男が承継することが白川家の取り決めであり、「余計な意見をするな」と釘を刺した。

議決権

地主の相続対策において資産管理会社の活用は有効であり、金融機関や税理士、コンサル会社などが設立の提案を行うケースも多いと思われる。

会社は株主の議決権割合によって、会社に対する影響力が異なる。議決権の2/3以上を保有していれば単独で特別決議が可能であり、過半の保有であっても普通決議が可能となる。したがって、実質的に2/3を保有していれば会社は当該保有する株主の意見を通すことができる状況となり、いままで秀広が70%を保有していた理由もそのためである。

秀広の株式をすべて一成に移転したことで、現状の株式会社白川は一成のコントロール下となった。

相続対策にともなう承継においては、「種類株式」を導入して拒否権を残す方法や、役員選任権を残して人事面での影響力を残す方法がとられることがある。また、資産管理会社のような非公開会社においては「属人的株式」を導入して、1株の議決権を増やすことで後継者にほとんどの株式を移転させたとしても会社をコントロールする権限までは移転させないといった方法も採用される。

これは、後継者として相応しいかどうか見極めるまで、権限を与えることを阻止することが目的である。当然、当初から後継者として問題ないと判断していればすべての株式を承継させることも妥当な選択である。

「親父は金輪際、会社にかかわるな」

株式の承継が完了したのも束の間、一成から「今後、親父には会社に関与してもらいたくない」と一方的に伝えられた。取引先への挨拶状も一成の代表取締役社長就任のみで、秀広は代表取締役を辞任したとする内容に差し替えたうえで昨日発送したとのことであった。

また、叔父(弟)や叔母(妹)についても同様に役員を辞任するように適宜伝えていくとともに、それぞれに役員退職金を支払うことで今後会社から報酬は一切支払いを行わないこととし、一切会社にかかわることも禁ずる方針とのことである。

一成の弟や妹についても、今後役員や社員として会社に入れるつもりもなく、代わりに妻を副社長として就任させるとのことであった。

秀広は一成がすべての株式を所有していることから、取締役解任が可能であることは理解していたが、なぜこのような対応を取ったのか質問した。一成からの回答は、不動産賃貸業においては取引先をしっかり監視しておけば基本的には経営は可能であり、かねてからたいして仕事をしていない親族の人件費が重荷になっていると感じていたことから、コストカットの一環として実施するに過ぎないとのことであった。

取締役である秀広の弟や妹のことを考え訴訟することも頭をよぎったが、大切な取引先に対して「お家騒動」を明らかにすることは長期的な目線でマイナスに働くであろうと考えを改め、強い憤りを覚えたが大人しく従うことにした。それと、同時に次男からの「兄貴で本当に大丈夫か」との助言を遮ったことを深く反省した。

横暴な経営を続けた結果

社員・取引先から次々に愛想を尽かされ…

その後、半年程度経過したが、いままでいた社員の多くが会社を去った。一成のやり方に意見した者は容赦なくクビを宣告されるのだ。一成のやり方に愛想をつかして自ら会社を去った者も大勢おり、そのなかには、長く勤め会社の核となっていた社員らもいたようである。

多くの社員が秀広を頼って相談に来たが、権限もないため「なにもできず申し訳ない」と謝罪するのみ。解決を図ることはできなかった。

一成は新たに社員を採用しているようだが、一成のやり方についていけずに、雇ってもすぐに退職しているようであり、離職率が極めて高いそうだ。秀広はこれまで社員のことを家族同然に接し、ビジネスパートナーとして大切にしてきたが、一成はあくまでもコスト程度にしか考えていないようである。

取引先である管理会社などに対しても管理費の引き下げを高飛車な態度で要求することが多く、管理会社のほうから契約を打ち切りたいとの申し出が多く来ているそうだ。一成に対しては常々、社員はもちろんのこと取引先についても「共存共栄」が大切であり、多くの関係者によって株式会社白川が成り立っていることを伝えていたつもりであった。しかし、一切心に響いてはいなかったことがわかった。

このままでは、いままで大切にしていた多くの関係者が去っていき、一成自身、孤独に陥っていくことは必至であろう。

家族からも距離をとられる一成一家

秀広は、いまからとるべき相続対策として、自身の所有する個人資産については一成以外の子供たちに承継させることを公正証書遺言で作成した。さらに、一成については「相続廃除」によって法定相続人から外すことを検討している。ほかの子供たちも、一成からは距離を空けるようになってしまったようである。正月に親族で集まった際においても、一成一家のみ顔を出すことはついになかった。

――最近になり、秀広はかつての取引先から株式会社白川のことを聞く機会が増えてきた。

黒幕の存在

話によると、一成の妻が実質的な社長のように振舞っているようだ。また、社名の変更も検討しているという。

一成は、どちらかといえば以前からあまり表立ってリーダーシップを発揮するタイプではなく、言われたことをそのとおりに実行するような性格である。代表取締役に選任した理由も、自ら会社をコントロールしようとすることはないであろうとの判断からであった。

振り返って考えると、嫁が裏で糸を引いていた可能性が高いといまでは思っている。

まとめ:後継者の選定はじっくり慎重に

・円滑な承継を志して実施したものの後継者から思わぬ対応を取られることがある ・長男などに拘らず人望のある適性の高い人物を後継者に据える必要がある ・遺産分割の際にも問題になるが、長男の嫁(または娘の夫)などが裏で糸を引いているケースがある ・「種類株式」や「属人的株式」の導入も検討し、しばらく様子をみることも対策のひとつである ・後継者の選定にあたっては独断で決めずに、多くの助言を得たうえで判断することも必要である ・仮に、株式を子供たちに等分で承継させる場合には将来的な争いのもとを作ることになりかねないことから基本的には1人に承継させるべきである

地主の相続における後継者選定にあたっては、以上のポイントに注意したい。

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

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