【トヨタ ヴィッツ試乗】ハイブリッド20年の歴史は伊達じゃない!走りの質感が大幅アップ
&GP / 2017年3月4日 18時0分
【トヨタ ヴィッツ試乗】ハイブリッド20年の歴史は伊達じゃない!走りの質感が大幅アップ
トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」が、去る1月にマイナーチェンジを行いました。今回の最大のトピックといえば、新たにハイブリッド仕様が設定されたこと。
現行モデルのデビューから7年目を迎え、ついに、トヨタが誇る低燃費の基幹技術が投入されました。2017年は折しも、トヨタ初のハイブリットカーである初代「プリウス」の発売から20年目という節目の年。ついに、コンパクトカーの中核を担うヴィッツに加わったハイブリッド仕様は、どんなモデルなのでしょうか?
■エンジニアのこだわりが随所に光る新型ヴィッツ
新しいヴィッツを見て、まず気づくのは、前後のデザインが改められ、精悍さを増したエクステリアでしょう。フロントは、グリルやバンパー形状が変更されたことに加えて、ヘッドライトにライン発光式のLEDクリアランスランプが組み込まれました。
また、リアはコンビネーションランプが拡大され、リアゲート側にも発光部が設けられています。
デビュー当時、そのエクステリアは保守的な印象でしたが、今回のディテールのブラッシュアップにより、トヨタ最新の顔立ちに生まれ変わりました。モデルチェンジのサイクルが短くなってきたヨーロッパ車に対し、かつては4年ごとが一般的だった日本車のそれもサイクルが長くなってきています。ゆえに、時折こうしたリフレッシュを行うことが欠かせませんが、最新ヴィッツはキリッと引き締まった表情に加え、高級感もアップしており、ベーシックカー的な簡素さを払拭できていると思います。
インテリアも同様。テストドライブに連れ出したのが、ハイブリッド仕様の上位グレード「U」ということありますが、ステッチがあしらわれたシートやステアリング、シフトノブなど、上質さをさりげなくアピールします。
シートのカラーコーディネートや表皮の感触も、ひとクラスに引き上げられた、とはいい過ぎかもしれませんが、従来モデルからの進化が感じられる部分といえるでしょう。ダッシュボードにも“塗装+レーザー表面処理”が施されたインパネオーナメントが備わるなど、質感の向上に取り組んできたことが理解できます。
ハイブリッドという言葉を聞くと、何やら近未来的なエクステリアやインテリアを想像してしまいがちですが、意外や王道、かつコンサバな手法でまとめてきたな、という印象です。
それもそのはず、開発を担当したエンジニアの方によると「トヨタにとって、もはやハイブリッド車やそのメカニズムは特別なものではありません」とのこと。「確かにトヨタ、ハイブリッド車をたくさんラインナップしていたな…」と思い、改めてその乗用車ラインナップを眺めてみると、確かにそのとおり!
現在、軽自動車を除くと、トヨタの乗用車は「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」のような兄弟車も含めると、全部で46モデル。この内の実に24モデルに、ハイブリッドとPHV(プラグインハイブリッド)が設定されているのです。
もちろん、ハイブリッド化によって燃費性能の向上が図れますし、販売店やユーザーからも「ヴィッツにハイブリッドを!」というリクエストがあったのも事実でしょう。しかし、ハイブリッドという響きにあぐらをかくことなく、クルマとしての魅力を底上げしよう、というのが、今回のマイナーチェンジの目的なのでは? と考えます。
例えば、トヨタのハイブリッド専用車「アクア」や、日産の「ノート e-POWER」、ホンダ「フィット ハイブリッド」など、低燃費をウリにするクルマには、いわゆる“燃費最優先仕様”が用意されることが珍しくありません。しかしヴィッツ ハイブリッドでは、それをあえて設定しなかったとのこと。カタログに記載されるJC08モードでの燃費は、34.4km/Lと十分な値ではありますが、あえてスペック上のクラストップを狙わず、一般的な装備のグレードにおける実用燃費にこだわったそうです。車両重量でみると、同じくハイブリッド仕様のアクアが1080kg(Gグレード)、ヴィッツが1110kg(ハイブリッドU)という値ですから、アクアと同程度の実用燃費は期待できるのではないでしょうか。
一方で、同グレードのガソリン車と比べると、車重が100kg増となるため、走りへの影響が気になるのもまた事実。搭載されるパワーユニットは、74馬力を発生する1496ccの直4ガソリンエンジンに、61馬力の交流モーターを組み合わせた“THS II”(トヨタ・ハイブリッド・システムII)で、小改良が施されているものの、基本的にはアクアと共通です。
しかし、重量増による走りや乗り心地への悪影響は、全くといっていいほどありませんでした。むしろ、乗り心地は大幅に向上している、というのが正直な感想です。
“クルマは軽い方がイイ”というのは事実ですし、いまや自動車メーカーはグラム単位での軽量化に取り組んでいます。とはいうものの、ヴィッツのハイブリッド車については、プラス100kgが重量バランスを適正化、しっとり落ち着きのある乗り心地と操縦安定性が向上につながったようです。担当エンジニアの方は「ハイブリッド化による重量増をただ受け入れたわけではなく、2014年のマイナーチェンジ時にもボディ剛性を強化しましたが、今回はさらに入念な改良を施した」といいます。
ボディのスポット溶接箇所を増やし、さらに、インストルメントパネル周辺の骨格も剛性をアップ。また、バッテリーが搭載されるリアシート下部の構造も見直しています。さらに、ショックアブソーバー内のバルブを新開発するなど、改良の手は細部にまで施されました。
コンパクトカーやベーシックカーでは、グレードによる装飾の差こそあれ、製造コストを抑えるべく、見えない部分で部品の共通化を図り、かつ構造をシンプルにする、というのが、メーカーにとって大きな課題となっています。しかし新型ヴィッツでは、車重やエンジン形式などに合わせ、細かく仕様を変えているとのこと。さらに、フェンダー内部の樹脂部品の形状を変更、走行中の安定性向上を図ったとのことです。
今回の試乗コースは、市街地と、のどかなカントリーロードがメインでしたが、荒れた路面や舗装の継ぎ目を通過しても、不快な振動がフロアやシートに伝わることはありません。短い区間のドライブではありましたが、高速道路においても車体のシッカリ感、静粛性ともに向上していることを確認しました。「キミもヨーロッパ車かぶれか?」といわれそうですが、多くの方が想像する欧州プレミアムコンパクトカーを思わせる走りを具現している、といった感じでしょうか。少なくとも、ヴィッツ ハイブリッドは“ベーシックカー”ではなく、走りの質感を追求したコンパクトカーへと成長を遂げているのは事実でしょう。
加えて、ハイブリッドモデルの魅力として挙げておきたいのが、痛快な加速です。エンジンとモーターの制御は、さすが“ハイブリッド20年の歴史”を感じさせる秀逸さ。特にゴー&ストップの多い市街地では、モーターによる力強く滑らかな加速が心地良く、赤信号でたびたび停車してもストレスを感じることがありませんでした。
今回はさらに、ハイブリッドの上位グレード「ハイブリッドU“スポーティパッケージ”」もドライブしました。スポーティパッケージでは、ルーフスポイラーが備わるなど、エクステリアがスポーティな仕立てとなるほか、タイヤサイズが185/60R15から195/50R16へと変更。16インチサイズのアルミホイールも標準となります。
ドライブしてみると、快適性や安定性こそベースとなったUグレードと変わりはありませんが、スポーティな操舵感といいますか、ワインディングロードではキビキビとしたハンドリングを楽しめます。走りの質感だけを見れば、ハイブリッドU“スポーティパッケージ”はベストな選択かもしれません。
とはいえ、この感触の差は好みの範疇。ひとつだけ指摘しておかなくてはならないのが、最小回転半径がハイブリッドUの4.7mに対し、ハイブリッドU“スポーティパッケージ”では5.6mと大きくなること。駐車時などには少なからず影響がありそうですので、“車庫入れ苦手だな…”という方は、一度、ご自宅のガレージなどでチェックしてみることをオススメします。
ともあれ、ヴィッツのハイブリッドモデルは、マイナーチェンジ、追加モデルという響きから想像する以上の進化を遂げていました。価格は181万9800円〜と、ガソリン車と比べると高めの設定にはなりますが、ヴィッツ ハイブリッドの魅力を「コンパクトなボディながら、シッカリとしたボディや走り、もちろん燃費性能も譲れない」と考えるなら、積極的に選ぶ価値アリと思います。
<SPECIFICATIONS>
☆トヨタ ヴィッツ ハイブリッドU
ボディサイズ:L3945×W1695×H1500mm
車両重量:1110kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:74馬力/4800回転
エンジン最大トルク:11.3kg-m/3600~4400回転
モーター最高出力:61馬力
モーター最大トルク:17.2kg-m
価格:208万7640円
(文&写真/村田尚之)
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