ラーメンと兄弟と仮面ライダー鎧武/ガイム!
インフォシーク / 2013年12月10日 17時30分
20年近く前の話なので書いてしまうことにする。
当時、大阪ミナミのラーメン屋で深夜バイトをしていた。場所柄時間柄、色々な客がやってきたのだが、その日はピンクジャージを羽織った酩酊おじさんがやってきた。片手をジャージのポケットに突っ込んでいる。
店に入ってきたと思ったら、入口でジッと立ち止まり、「オレは何すっかわからんぞぉ」などとブツブツ言っている。と思ったら2~3歩前に出て、また立ち止まり、ブツブツを繰り返す。「あらら…今夜も変な人が来ちゃったかな?」と無視していた。すると、ピンクおじさんは、おもむろにこうつぶやいたのである。
「人を…殺してきた…」
な、なにぃ????!
ひとまず、私とピンクおじさんは話をし始めた。さきほど人を殺してきて、今、手を突っ込んでいるポケットに銃がある、ということだった。店の奥で、もうひとりいたバイト店員が、ブルブル震えて隠れているのがわかった。
ピンクおじさんは、自分の生い立ちや、実の兄貴が医者であるが大嫌いだ、などということを私に話し始めた。と、店のピンク電話に歩いていき、10円玉をジャラジャラと取りだして、「どうせ人を殺したんや! 今までのことを散々文句言ってやる!」と、故郷の兄貴に電話をし始めたのである。
真夜中ながら相手は電話に出たようだ。ピンクおじさんはまだ酩酊ながらも、「オレは頑張ってんや!」とウソぶいた。が、そのうち泣きだした。「…うん…うん…」と、兄貴の電話にうなづくだけだ。説教をされているようだった。10円玉が無くなり電話は切れたが、ピンクおじさんは受話器を置いても、まだ泣いていた。
私はなんとなく、見ないフリをしてドンブリを洗った。
突然、パトカーのサイレンが聞こえてきた。気がついていなかったが、いつの間にか、もうひとりのバイト店員が店から消えていた。警察を呼びに行ったのだ。
ピンクおじさんは慌てて逃げようとし、しかしピタリと立ち止まって、クルリと私の方を振り返った。そして私の手をしっかりと握りしめたのだった。
「兄ちゃん、兄ちゃんはええ奴や、オレは一生忘れん…」
ピンクおじさんは裏口から去っていった。ぼんやりしていると、間もなく店の入口からドカドカドカドカッ! と警察が乱入してきた。
…話はここまでである。あのピンクおじさんにとって、兄貴はどういう存在なのか。そのあたりを突然知りたくなり、長々と思い出話を書いてしまった。
それもこれも、日曜朝に放映されている、仮面ライダー鎧武/ガイムの第9話を見たからである。
仮面ライダー鎧武には、ある兄弟が出てくる。兄弟は仮面ライダー鎧武たちが住む街を支配する組織の御曹司で、兄はすでに組織のキーマンだ。エリート意識が強く、他人を蔑み、街で楽しそうに踊るダンスチームの若者たちを「クズ」と言い放つ。
弟は兄に内緒で、街のダンスチームに所属している。人当たりが良く、頭が切れて、そのうえ優しいので、周囲から信頼を集めている。彼はほぼ毎日、仲間と夜まで楽しく過ごしてから家に帰る。
この弟にとって、兄貴はどういう存在なのか。なぜ、ダンスチームに所属するのか。ひそかな反発心は持っているだろう。兄とは違う価値観のもとに生きたい様子は伺える。
しかし反発心というのは、場合によってはその者へのただの甘えという面もあるのだ。20年前に出会ったピンクおじさんを思い出すと、兄貴への甘えの取り違えで反抗し続けていただけのように思う。しかしいざ追い詰められたときに、素直に兄貴に甘えたくなったのではないだろうか。子供の頃のように。
残念ながら、どの兄弟も、子供の頃に戻ることはない。そして、大人になっていく過程で、色々なしがらみを抱えていく。いずれそれは、相続などのようなことで本気で憎しみ合ってしまうこともある。
なんだかやけに、仮面ライダー鎧武の兄弟の行く末が気になり始めた。特にこの兄弟は、実はそれぞれに仮面ライダーである。お互いに、まだその事実を知らない。きっとここから先、兄弟はその事実に驚愕しながら、兄弟揃って命がけの闘いをしていくことになるのだろう。
そのドラマの過程において、どのような兄弟愛が表現されていくのか。楽しみである。大人になってしまった者としても、ぜひ注目したい。
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。MC。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターTV」(インターネット)の製作、映画の宣伝などをしている。
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