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『サガ エメラルド ビヨンド』が提案する昨今のRPGと“真逆”のプレイ感─極限までに研ぎ澄まされた戦闘と物語から得られる充実感は唯一無二【レビュー】

インサイド / 2024年4月24日 21時0分

ゲームボーイで初のRPGとして華麗なデビューを飾った『サガ』シリーズは、時代とともに着実な歩みを見せ、平成~令和と長きにわたって愛され続けました。


その勢いは近年も衰えることなく、2016年にはシリーズ完全新作となる『サガ スカーレット グレイス』をリリースし、ここ数年は数々の新要素を加えた過去作のリマスター化が好評を博しています。


そして4月25日には、『サガ スカーレット グレイス』から数えて約8年ぶりとなる完全新作『サガ エメラルド ビヨンド』が、ニンテンドースイッチ/PS5/PS4/Steam/iOS/Androidにリリースされます。


『サガ』シリーズは、ざっくりとカテゴライズするならば「ターン制コマンドRPG」です。しかし、一般的な同カテゴリの作品とは大きく異なっており、独自の進化を遂げています。そんなシリーズの最先端に位置する『サガ エメラルド ビヨンド』もまた、非常に個性的な作品に仕上がっていました。


発売に先駆けて本作の体験版が配信されており、その魅力の一端に触れた人も多いことでしょう。ですが、体験版でプレイできるのは「御堂 綱紀編」(PS5/PS4)、「アメイヤ編」(スイッチ)、「ディーヴァ ナンバー5編」(Steam)に限られており、残り2組の主人公「シウグナス編」と「ボーニー&フォルミナ編」は試遊できませんでした。


特徴的なバトルシステムなどを味わえる反面、主人公たちがそれぞれの世界とどのように関わるのかは、製品版をプレイしないと掴み難い面もあります。そこで本稿では、製品版でお目見えする「シウグナス編」を通して、群像劇の一端や製品版における『サガ エメラルド ビヨンド』のレビューをお届けします。


■戦略性は高く、制御はしやすい『サガ エメラルド ビヨンド』のバトル


『サガ エメラルド ビヨンド』のゲームシステムは、長く遊んだ際の奥深さなどは別にして、基本となる部分は配信済みの体験版で味わうことができます。また、それらの特徴的な要素は、先日のプレビュー記事でも紹介しました。


そのため、ゲームシステムの詳細な解説は今回省きますが、前述のとおり本作はRPGといえども一般的な作風とはひと味もふた味も違います。普通のRPGは、パーティといっても戦闘中の行動はそれぞれ個別で、仲間を回復したりバフをかけるといった内容を想像する人が多いでしょう。


しかし本作の場合は、仲間同士の息を合わせる「連携」が戦略の基本となり、多彩な技や術をどのように組み合わせるか、頭をひねる場面が多々あります。各術技は、威力はもちろん、カウンターや身代わり、そしてその解除、ガード無効に行動順の遅延など、それぞれ異なる効果を持っており、「どのタイミングで」「どの術技を」「誰に使うか」が非常に重要です。


しかしながら、術技の効果は逐次確認可能な上、行動順を示す「タイムライン」上で連携の可否が視覚的に確認できるので、関わる要素が多いものの複雑ではありません。分かりやすいのに戦略的、というバトルを『サガ エメラルド ビヨンド』は実現しているのです。


■1戦ごとのバトルは「重め」、しかし全般的には負担を抑えた作りに


戦略的で奥深いバトルを実現したことの影響で、『サガ エメラルド ビヨンド』の戦闘は一般的なRPGと比べると長くかかります。


他作品もボス相手だと長期戦になりますが、道中の雑魚戦は2~3ターンもあれば片付くことがほとんどです。しかし本作の場合、ボス以外でも基本的にターンはかさみがちで、常に戦略を意識して立ち回る戦闘になります。


「戦略性が高いのはいいけど、雑魚相手でも油断できないのは疲れそう」と不安視するユーザーもいるかもしれません。確かに昨今のRPGは、雑魚戦だと短時間でカタがつく爽快感重視のバランス調整がしばしば見られます。そうしたゲームに慣れていると、毎回戦略を組み立て、油断できない本作のバトルは、少々「重め」に感じることでしょう。


ですがゲーム全体を見た場合、『サガ エメラルド ビヨンド』のバトルにおける要素は、過度に重いわけではありません


一般的なRPGの場合、雑魚戦は負担が小さく、ボス戦では逆に負担が増します。本作もボス戦は更に手ごわくなりますが、それ以外のバトルもしっかり戦うことが多く、バトル全般が常に侮れません。


しかし、これは1戦単位に絞って見た話です。一般的なRPGだと、ボスの元へたどり着くには幾度もの雑魚戦が待ち構えています。1戦ごとの負担は小さいものの、こなす数が多いため、全体で見ると雑魚との戦いも相応の負担といえるでしょう。


また、メインストーリーもサブクエストも、常に段階的に進行することも大きな特徴といえます。その最中に戦う回数は決まっており、「ボスにたどり着くまで雑魚と延々戦う」といったRPGにありがちなシチュエーションとは無縁です。


本作のバトル自体は確かに「重め」ですが、戦闘回数自体は少なく調整されているように感じたので、全体的に見れば負担が大きいという印象は受けません。


「1戦1戦の負担は少ないけど、ボスにたどり着くまで何回戦うか分からない」のが一般的なRPGとすると、本作は「ランダムなエンカウントはなく、1戦ごとに全力を注ぐ」というゲームシステムだといえます。


同じターン制RPGでも、その在り方やプレイのテンポは全く違っており、この点だけでも本作が持つ個性的な一面がうかがえるはずです。


■「心」を探し求めた「ディーヴァ ナンバー5編」の旅路


さてここからは、物語面を含めたプレイ全体の手触りについてまとめていきます。本作は、6人5組の主人公たちがそれぞれの理由や目的で、17の世界を巡っていきます。詳細や後半の展開はネタバレになるので伏せておきますが、道中で主人公同士が出会うこともあり、群像劇としても目を見張るものがあります。


以前のプレビューで紹介した「ディーヴァ ナンバー5編」では、歌うことを封じられた歌姫のメカが、別のボディへ意識を移し、自分の「心」を問う旅路が描かれます。その旅の始まりとともに様々な「世界」の扉が開きますが、どこへ向かうのかはプレイヤーが自由に選択可能です。


この時筆者が最初に選んだのは、3つの一族が統括する「デルタベース」と呼ばれる世界。異なる世界からやってきた彼女は厳しく問い詰められますが、喪失感を引きずるディーヴァ ナンバー5は「処分していただけるのなら、幸せです」と、むしろ受け入れてしまいます。


幸い、監視役をつけての保留という判断が下された彼女は、各部族のトラブルを手助けし、「心」探しもいくらかの収穫がありました。この時のプレイでは、特に「黄一族」と深く関わり、少々苦い結末を辿ったのも印象深く覚えています。


その後もディーヴァ ナンバー5として多彩な世界を渡り歩きました。例えば、闇の王の復活を望む「ドロレス」の願いに合わせ、なぜか墓石からディーヴァ ナンバー5がその世界に迷い込んだこともあります。


元歌姫が闇の王に奉られるなど、訪れる世界ごとに多彩な展開を見せてくれた本作ですが、今回は主人公を「シウグナス」に変えて挑んでみました。


■「シウグナス編」を通して見えてくる展開の変化


「シウグナス編」では、その世界を統べる闇の王である彼が、突然の来訪者に襲撃され、死せる英雄が戦いに身を投じる世界「ブライトホーム」で目を覚ます展開から始まります。


プレイヤーキャラのひとりが闇の王で、幕開け直後に襲われ、そして別の世界で目覚める……と、序盤から濃密な展開の目白押し。歌姫がその立場を失い、異なる世界へ旅立った件といい、本作の物語は基本的に展開が早く、物事がスピーディに進んでいきます。


また興味深いのは、先ほど触れた「ディーヴァ ナンバー5が墓石から出てきた経緯」が、シウグナスの物語と繋がっている点です。時系列的には、まずシウグナスが襲われ、殺されたと思い嘆き悲しんだドロレスが主人の蘇りを祈り、その墓石からなぜかディーヴァ ナンバー5が登場。闇の王が復活したと喜ぶドロレス……という流れが推察できます。


世界が数多いだけでなく、各主人公の世界に別の主人公が訪れ、このように奇妙な形で関わることも珍しくありません。こうした交錯も、6人5組の主人公を擁する『サガ エメラルド ビヨンド』の醍醐味です。


ともあれ、まずは「ブライトホーム」で「混沌」との戦いに挑むシウグナス。「哲人」や「戦士」、「人斬」に「王者」といった仲間たちを率いて、数々のバトルを繰り広げます。


「ブライトホーム」の物語を詳しく語るとネタバレが避けられないので省略しますが、この仲間らと共に、世界を跨ぐ旅路が始まりました。


そこで、ディーヴァ ナンバー5の時と同じように、どの世界へ行くのか複数の選択が与えられます。ただし、その様子は少し異なっており、「哲人」や「戦士」などそれぞれの仲間たちがいた各世界を示していました。つまり「シウグナス編」では、仲間たちの過去を辿るという側面もあるのです。


試しに「哲人」がいた世界を選んでみると、そこは──ディーヴァ ナンバー5のプレイで最初に訪れた、3つの一族がいる「デルタベース」でした。


■主人公が変わると、出会いも変わる!?


3つの一族の対応は、シウグナス相手でも変わることなく、警戒と監視の目が向けられます。ですが、半ば流されていたディーヴァ ナンバー5とは違い、「私の眷属となるべき存在がどこかにいるので、探させてもらおう」と、自分の立場を同等と主張します。


このように、同じシチュエーションでも主人公によって変化するため、一度ならず体験した世界でも新鮮な気持ちで楽しめます。むしろ、主人公ごとにどんな変化があるのか、その違いを知りたい気持ちが沸き立つほどです。


加えて、「シウグナス編」では同行メンバー──「デルタベース」では「哲人」──の過去や関係性が浮かび上がるため、興味深さは二重になります。


ちなみに今回の「デルタベース」では、緑の一族と深く関わる道を選びました。その結果、「哲人」が過酷な過去を思い出し、緑一族の族長の所業も発覚します。なかなかヘビーな過去なので、何があったのかはぜひ製品版をプレイして体験していただきたいところです。


このほかにも、シウグナスが闇の王として君臨していた世界で、彼の部下として活動していた「強欲の塔主」との再会(ゲーム的には初対面)を果たすなど、前回のプレイでは出会えなかった展開を味わえました。主人公ごとにこうした違いがあり、それを楽しめるのも本作ならではの魅力といえるでしょう。


■主人公同士の出会いも『サガ エメラルド ビヨンド』の醍醐味!


さらに別の世界へ足を運び、そこで出会ったのは、主人公のひとり「御堂 綱紀」。各主人公の世界へ行けるだけでなく、主人公同士が遭遇し、関わる展開もあるのです。


そこは、仲間のひとり「人斬」がいた世界でもありますが、選択肢で2択を迫られ、御堂と共に行動する道を選びました。そのためか、「人斬」の過去に直接触れることはなく、御堂と手を組んで世界を守る戦いに明け暮れます。


ここでは情報を集める機会が多く、シウグナスは魅了のような能力で数々の話を聞き出します。彼ならではの立ち回りですが、「別の主人公だったらどうするんだろう?」といった想像が膨らむことも。こうした刺激が、ささやかながらも別主人公をプレイする意欲へと繋がっていきます。


また、世界を無事に救った後、選択次第で御堂がパーティに加わります。これまでは進行上の仲間(ボス戦ではゲスト参戦)でしかなかった彼が、今後はパーティメンバーのひとりとして活躍してくれます。別ルートの主人公が仲間になる展開も、群像劇ゆえの醍醐味です。


ちなみに、シウグナスの魅了のおかげか、御堂だけでなくお嬢様の「若 七緒実」も仲間に加わりました。主人公によって加わる仲間に違いもあり、パーティ編成の楽しさを各主人公ごとに味わえます


シウグナスが仲間の過去を巡る旅はこの後もまだまだ続きますが、このように主人公ごとに異なる体験や展開が味わえるのも、『サガ エメラルド ビヨンド』の特徴です。


敵味方で攻撃や妨害、技に術が飛び交う戦闘は、その流れを見極める戦略性に富んでいます。その攻防は「タイムライン」で視覚的に表現されており、「連携」の組み立てから戦局まで一目瞭然です。


そのため1戦1戦に重みがあるものの、全体の戦闘回数は抑えられており、メリハリの利いた構成のおかげで過度の負担は感じませんでした。手ごわいボス戦では何度もやり直す場面もあったものの、再戦が容易なので、ストレスを軽減する配慮も嬉しいポイントです。


それぞれの世界は、フィールドという意味では狭く、一般的なRPGのような広大な冒険感は薄いかもしれません。しかし、その分道中に費やす時間が不要で、「物語の進行」と「待ち受けるバトル」がテンポよく噛み合い、RPGにありがちな中だるみの時間はほぼ皆無といってもいいほどです。


主人公が変われば、各世界に影響を及ぼし、そのルートでしか見られない展開も多数あります。また、その後の流れが大きく変わりそうな選択肢もたびたび出てくるので、主人公を変えたり、同じ主人公でも周回したくなったりと、プレイ意欲を後押しするゲーム性になっています。


昨今のRPGは、寄り道要素が多いもののメインストーリーは1本道で、エンディング分岐はあっても終盤で分かれる程度。世界は広大で冒険のし甲斐があり、しかしプレイは1回だけで大体味わい尽くせるものが主流です。


そうした一般的な作品と比べると、『サガ エメラルド ビヨンド』はほぼ真逆に位置する、個性が際立つ作品です。そのため、標準的なRPGの楽しさやプレイテンポを期待すると、肩透かしを食らってしまうかもしれません。


しかしそれは、RPGが持つ面白さを独自の形で進化させ、大胆な取捨選択を行った結果、辿り着いたひとつの境地に過ぎません。本作の圧倒的な魅力や足りない部分は、長所短所で分けるよりも、スタンスの違いと考える方がより正解に感じます。


本作を一通りプレイし終えた後は「RPGを遊んだ」といった手応えではなく、「『サガ エメラルド ビヨンド』を遊んだ」という充実感で満たされました。周回プレイもしやすいので、今後も引き続き新たな主人公との旅路を楽しもうと思います。


『サガ エメラルド ビヨンド』公式サイト


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