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【インサイトナウ編集長鼎談】 残念なDXからいかに抜け出すか DXにはマーケティングが欠落している?/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2023年11月10日 13時30分

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INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:マーケティングコンサルタント金森努様×人材開発コンサルタント富士翔大郎様


猪口 本日は金森さんと富士さんをお招きして、「残念なDX」についてお話を聞いていきたいと思います。まず、何が残念なのでしょうか。

残念なDXとは

富士 新しいことをする時、日本の企業は成功か失敗かの判定を明確にできていないことが多いです、いい意味ではチャレンジが大切ということでもあります。最近、DXが成功したかどうかが分からないまま、「なぜ失敗したのか」や「成功事例」といった話がやたらと出てきます。ところが、そんなわけで成功や失敗の基準を明確に答えられる人がいない。

猪口 本当にそうですね。目標や目的もない。以前にも記事にしましたが、大手企業がDXで大きく成功したことはペーパーレスだそうです。経営者はそんなことを求めていないですよね。

富士 頑張っているが、成功も失敗もしていない成果の見えない状態、特に側からは失敗に見えるのが「残念なDX」です。もっとも厄介なのは、本人たちはそれを成功と思っていることです。

猪口 マーケティングにおいては、デジタルマーケティングなどと言われますが、他の職種と比べて進んでいるのでしょうか。

金森 デジタルマーケティングに関してはKPIがはっきりしているので、成功と失敗の判別はしやすいと思います。デジタルマーケティングの場合、KPIの先のKGIが「売り上げを伸ばすこと」など明確です。KGIがはっきりしていて、KPIが設定されているのであればわかりやすいですよね。ただし、デジタルマーケティングは、マーケティングという名前はついていますが、やっていることの多くはプロモーション領域です。マーケティング全体で見れば一部の展開で、そこがうまくいった、いっていないと評価しているだけにすぎません。

猪口 残念なDXの場合、KGIがないということでしょうか。

富士 DXは、「とにかくやろう」と始める場合が多く、KGIも軽めのものです、我々コンサルもまずは取り組むことが重要と助言していますので、仕方がないところです。ただ問題なのは成功したかどうかわからなくても、最終的に成功というステータスに持っていってしまいがちな習慣です。例えば売り上げ目標に届いていなくても、「でも我々頑張ったよね」としてしまう。システム導入後に打ち上げをして、そこで「素晴らしかった」となれば、その後に成果を上げたかどうかの分析がお座なりになりがちです。営業での失注分析という宝の箱が開かれにくいのと同様に日本企業はシステム化に関しては昔からそうですね。大きな失敗がなければ成功だったりします。

やらなければまずい??

猪口 世の経営陣はDXを通じて何をやりたいのでしょうか。

富士 日本では、一つは今は「やらなければまずい」からです。日本はデジタル後進国になってしまったと言われています。だからD Xの推進は国を挙げての最重要事項です。そこでD Xレポートを初めとして政府主導となっているのが実態です。その結果、経済産業省等がDX認定のような枠組みを出す度に、日本企業が必ずそれに合わせにいくという繰り返しになることです。皆一斉に横並びで、皆がやっているからうちもやろう、というところはあると思います。社内全体にDXが差し迫っているというわけではないので、危機感も社内の部門によって違うのかもしれません。枠組みに合わせようとするのでは、そこからイノベーションが生まれるとは思えません。

金森 まずいと思うのは国が言っているからと、あとは株主です。ステークホルダーとして大きいのは株主なので、株主から「DXはどうなっている」「それで売上が上がるのか、業務を効率化するのか」と言われたくないからやる、というところが大きいのではないでしょうか。

猪口 上位マネジメント層も経営者も、「DXで新しいイノベーション起こす」「部門プロセス刷新する」と口では言います。では、その先の具体策のイメージを持っているのでしょうか。どこに問題があるのでしょうか。

富士 一番の問題はユーザーが不在になっていることです。これは仕方がないことで、私自身コンサルにあたっては、D Xを理解することよりも、まずは手がけることで走りながら学ぶ、考えるよりも参加することに意義があるといったスピード優先でお話ししてきました。私が手がけた「D X検定」もまずは言葉を身につけて理解を加速させる手法を実体化したものです。D Xを正確に理解するのが困難で遠回りだと考えたからです。しかしそのせいで、とにかくD Xを取り組まないと取り残されると言う状況となり、目的や効果が曖昧なまま進み始めた企業が多かったと思います。

身近な例で言うと、例えば、セルフレジの導入が進んでいます、人材不足→自動化というD Xの王道でありお金さえかければ導入は簡単で、人員削減という成果が目に見えます。

しかし、私は母親に付き合い実際に使ってみると高齢者には難しいように思います。使い方が表示されていても見にくいし、どこに何を入れていいかわかりにくい。お札も水平に入れるのに慣れていたのに縦に入れるものも増え入れる場所がわからなかったりします。

このようにユーザーインターフェースがあまりよろしくないのは、それが人手不足を補うための施策になっているからだと思います。これまで企業は、お客様にとってどれだけメリットがあるかが重要だと学んできたはずです、ユーザーメリット、バリューを出さなければなりませんし、ホスピタリティも顧客満足ひいてはL T Vに繋がること、そしてDXが結果的に世の中にプラスになることが大事だと思います。つまり、変革を起こすということ。変革の先は社内を良くするためではなく、世の中を良くすることだったはずですが、今のD Xにはなぜかこの点が欠けて見えることが多く感じます。

金森 経済産業省が令和4年9月にまとめた『デジタルガバナンス・コード2.0』によれば、DXの意味として、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。ここで注目すべきは、「顧客や社会のニーズを基に」と、明記されていることです。決して「モノ・サービス=ウォンツ」や、「技術=シーズ」から考えるのではないということです。「顧客のニーズを明確化して、深掘りすること」は、マーケティングの「基本のき」なのですが、実に多くの人が「ニーズ」と「ウォンツ」を取り違えています。

私が研修でよく使うネタなのですが、砂漠をさまよい歩いて足元はフラフラ、汗だくで今にも倒れそうな男の絵を見せて、「彼のニーズは何か?」という質問をします。すると、ほとんどの人が「水」と答えます。しかし、水はニーズではありません。男のニーズは「喉の渇きを癒したい」であって、ウォンツが「水」なのです。

ウォンツやシーズ、つまり「システムや技術ありき」でスタートして、ユーザーのニーズに応えていない、ユーザーを幸せにしていないのであれば、それは間違いなく「残念なDX」です。例えば、ユーザーのニーズが「早く帰ってプライベートの時間を増やしたい」なのに、なぜだかシステムを導入して業務が複雑化し、残業時間が増えてしまうようなことが起きてしまうわけです。とてつもなく残念DXですが、こういうことはよくありますよね。

富士 残念ながら、一見最新技術が目につくD Xは日本が得意とする技術優先のプロダクトアウトを助長し、マーケティングを後退させているように見えます、その結果導入したのに社員やお客様に評判が良くない、売り上げにつながらない「残念なD X」を量産しているのではないでしょうか?

金森 もう一つの注目ポイントは、先ほどの定義が「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し」と始まっていることです。「マーケティングがわからない・難しい」という人の多くは、「マーケティングの流れ(体系)」が頭に入っていない、断片的にかじっているようなレベルです。マーケティングというと「4P」が有名で、そこから考えてしまうことが多いし、そこから始まっているマーケティングの本も多いですが、「マーケティングの流れ」で言えば、4Pは最後の「打ち手」です。

マーケティングの流れとは、「環境分析→戦略立案→施策立案(打ち手)」です。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応」するためには、世の中の、または自社の属する業界の、さらには自社の競争環境が明らかになっていて、「こうすれば勝ち残れるだろう」という戦略の方向性がわかっていなければ、闇雲に戦うだけになってしまいます。自社を取り巻く環境を明らかにして、戦略の方向性を導き出さなければいけません。「まずはこのシステムを入れよう」「まずはAIを導入しよう」というように、いきなり「打ち手」から入っているDXも散見されますが、それも「残業なDX」です。

猪口 今まで良かったことを消してしまう可能性もありますよね。お客さんはその会社の職人芸を欲しかったのに、なまじデジタル化、標準化したばかりにその良さがなくなってしまう。

富士 日本企業は技術からきている成功体験が多いので、サービス企業がこれだけ増えていても、欲しいものが何かという分析が甘いところがあります。かつての技術大国日本=マーケティング小国でもあり、海外の企業の経営者にいつの間にか、「もっとマーケティングを学びなさい」と指摘されているという話もあります。

経済産業省の「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」もわかりにくいと思いました。「2025年の崖」で、レガシーシステムからの脱却とDXの先の未来がどう関係するのか分かりにくくなっています。皆が何をし、何を目指したらいいかわからないまま、DXという言葉が独り歩きして、それをチャンスとばかりにコンサルティング会社がDXコンサルを始めています。我々が5年ほど経った今、提示したい処方箋は単純で、D Xであっても「今までやってきたビジネスをきちんとやればいい」と言いたいです、急にデジタルや技術に惑わされて、これまで積み上げてきたノウハウを忘れないでほしいのです。

DXにはマーケティングがない?

猪口 俗に言われるDXには、マーケティングがないということなのでしょうか。

富士 まずはマーケティングを学ぶことが前提です。ところが、DXで一番の鍵を握る多くのエンジニアがマーケティングを積極的には学んでいません。学ぶべき技術が多すぎて、エンジニアが学んでいるのはギリギリ問題解決です。なぜならシステム化=問題解決だからです。問題解決の手順と、できればマーケティングまでを含めて、まずは基本をもう1回見直して、DXだからといって特別な技術導入の進め方にするのではなく、今までやってきたことの延長上にDXを乗せるだけでいいと思います。Google社が動画サイトを作り、金に物を言わせて最新で便利なサイトでYouTubeなど他サイトを圧倒しようとしましたが、最後まで勝ち切ることはできず、Googleは世の中が求めているものが、最新の技術を駆使した便利さだけでないと気づき、勝負を諦め買収に動き、世界中に衝撃を走らせたのは有名な話です。とかくM&A部分に注目が集まりましたが、Googleが白旗を上げたという事実が忘れられません。これは素晴らしい事例だと思います。Googleのスーザン・ウォジスキ氏が「誰でもクリエイターになれるし、人々は様々なクリエイターの作品を見たがっていると気づかされた。」と語っているが、これこそが世界のニーズでした。そしてビデオサイトを持つ多くの企業がこれに気づいていなかったということなのです。これに気づかず莫大な投資をしてもGoogleは勝つことができなかったのです。このエピソードはまさに「イノベーションは、成功するまでその姿を誰にも見せない(事前にわかるものではない)」という私の持論にピッタリですが、だから何もしないのではなく、ビジネスの基本である「マーケティングを学び、問題解決のスキルを生かす」。この二つを確実にすれば、「残念なDX」ではなく「羨望のD X」にかなり近づいてくのではないでしょうか。できあがった時にいらなかったとはならないはずです。問題解決をしっかりやらないと、問題が起きた時に手順が分からず、いきなりソリューションに飛んでしまったり、さらにそのソリューションがイマイチだったりもします。だからこそもう1回基本に返って「D X推進のフローをビジネスの進め方」として見直すことが処方箋なのです。

猪口 今までのマーケティングを使ったバリューチェーンのプロセスと、DXが絡むバリューチェーンのプロセスは異なりますか。

金森 先ほどのDXの定義の話に戻りますが、「製品やサービス、ビジネスモデルを変革」「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革」と、「変革」という言葉が二度繰り返されています。大事なことなので2回言いますという感じで、変革すべきポイントの例が列挙されています(笑)。しかし「残念なDX」の多くは、真の「変革ポイント」が特定されずに取り組みが始まってしまっているように思います。

「DXという流行りに乗り遅れないように」するあまり、「変革をする」という目的と「DX(システム)」という手段が逆転してしまうのも、「残念なDX」です。DXがシステムを導入するプロジェクトになっているのもよくある話です。

「マーケティングの流れ」的に言えば、自社を取り巻く外部・内部、マクロからミクロまでの環境を明らかにして、その中で、ユーザーのニーズ及びニーズギャップを明らかにする。そして、業界内での勝ち残りの方法(KSF:Key Success Factor)という戦略の方向性を抽出して、その実現のための「真の変革ポイント」に手を入れていく方法を考えるということです。最低限のフレームワークで考えるなら、3C分析をして、KSFを出して、それを実現するためのバリューチェーン分析をするという流れです。つまり、技術やシステムを考える手前で、「マーケティング思考」が必要になってくるのです。

猪口 もともとマーケティングの中に変革志向があるということですね。イメージとして、マーケティングというと、現在のリソースを最大限にどう活用するかという発想になりがちです。

富士 DXという技術一体型ビジネスの言葉が大流行したことで、マーケティングがないがしろになって、技術先行の文化になり始めています。私はD X検定をリリースした後に、営業部門で展開しようとしたところ、業務とのフィッティングが悪いことに気づき、新たに「D Xビジネス検定」を提唱しました。これは私の中で大革命でした、「D Xは技術ではなくビジネスである」ことを発見したのです。ずっと「D Xはイノベーションである」と言っていたのですが、人財育成のプロとして、「D Xがビジネスである」ということにすぐに気づけなかったのは、私自身マーケティングが抜けていたという反省でもあります。だからこそ言いたいのは今こそマーケティング、問題解決についてリスキリングするべきだということです。AIやプログラムの勉強をする人が多いですが、ニーズ不在の技術を磨いているように見えます。さらに、経営者やマネージャー層がD X推進にあまり深入りしない、できない環境になっているところも多いようです。一方、現場は成果を出さなければいけない。これが今の日本企業の実態で、その結果、お客様や社会貢献よりも目先の利益に走ってしまうのではないでしょうか?

猪口 レビットのドリルと穴の話から何も変わっていないですね。

富士 ドリルと穴の話をしてもわかってもらえなくなって、それがAIやDXの話になりました。

金森 私がマーケティングを大学で習ったのは80年代で、当時、教授に「マーケティングがわかっていると儲かる」と言われました。今は違います。「マーケティングがわかっていないと生き残れない」です。儲けるための手法ではなく、生き残りの手法に変わっているわけです。位置づけが変わっているのに、世の中にはまだマーケティングは「ものを売る手法」という認識が広いですよね。特に技術者、開発者にとっては「マーケティング」と聞くと、「自分の業務とは遠い」と思われるのですが、きちんと学べば、「自分の業務にも必須なんだ!」と気づけて、業務への取り組み方が変わります。

そのために、昨今、弊社では「技術者・開発者のためのマーケティング研修」のご要望が多く、それにお応えして多数実施しています。内容的には、「マーケティング基礎」のカリキュラムをベースに、「顧客やユーザーのニーズをどうとらえるか?」や、「技術をどうやって市場のニーズとつないでいくか?」という部分を厚めにやるパターンが一つ。もう一つは、「マーケティングDX研修」として、マーケティングの基本のきである「ニーズの明確化と深掘り」、「マーケティングの全体像」に続けて環境分析として、3C分析、KSFを出して、それを実現するためのバリューチェーン分析という流れで、ある企業を例にしたグループワークを行ったりするパターンもあります。いずれのコースでも、受講者からは、「DXにマーケティングが必須であることがわかった」という声をいただいています。そのようなトレーニングをすることが、残念なDXにならないための一つの処方箋になると思います。

富士 「残念なD X」という観点では、今のD Xが成功なのか失敗なのか分からない状態で良いのかという警鐘を鳴らしたいというためのお話でしたが、成功するためには推進の取り組みの中に「マーケティングと問題解決」は当たり前のスキルとして取り込むべきであるということが最も大事だと思っています。「アイデア募集」などで社員やお客様にD Xのテーマを求めるのも悪くはないでしょう。ただこれまでも現状の調査や分析を通じてニーズを把握し、本当に求められているもの、これから求められるであろうものなど潜在ニーズにまで踏み込んで進めていたマーケティングはこれからも変わらないはずですし、その実現方法の手段としてD XやA Iといったツールが手に入ったと考えるのが自然でしょうということです。

今、さまざまなD Xが進められていますが、本当に社会やユーザーの利便性が変革でき、喜んでいるいただけるものなのか?オーバースペックで誰も使わなくなったりしないのか、そもそも利用頻度が高いのかなど、これまで通りの必然的なチェックが行われているかが重要だと思います。

猪口 マーケティングと問題解決の抜け以外に問題はありますか?

富士 日本にとってはさらに、重要な課題として「グローバル視点」を高める文化の醸成が必要だと考えます。私は今ChatGPTなどの生成A Iの講演が増えていますが、そこで話すのは、それらが世界中を席巻していますが、開発したOpenAIは200人前後のベンチャー会社であり、大企業だから有利ではないことを証明していることです。日本人はもっと世界を基準に物を見る習慣があってもいいと思います。外国人が日本に旅行する際に、日本人が知らないような名所を見つけて訪ねるのを見るたびに、自分の視野の狭さに愕然とします。世界戦略を基本にとまでは言いませんが、狭い世界で考えることが日本の限界を招いているとも思えます、今回改めてマーケティングに注目しましたが、そのリスキリングをするのはもちろん、プラスして、視野をグローバルで考えるように社員全体で習慣化していく取り組みをしていくことが大切だと思います。

そういったことを含めて、やはり重要なのは「人財」と人材が活躍する「環境」です。ここは私の専門分野でもありますので、今後じっくりお話しできればと思います。

金森 努氏プロフィールページ:https://www.insightnow.jp/profile/kanamori_tsutomu

富士翔大郎氏 プロフィールページ:https://www.insightnow.jp/profile/jzpdbtta

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