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調達購買改革の新しい基軸/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年12月27日 10時0分

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野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

ここ数年、毎年末に翌年にかけての調達購買の動きについて書いてます。今年も今回の記事で年内最終となりますので来年以降の動きについて私の考えを述べていきましょう。

ここ数年調達・購買分野に対する経営者からの期待やそれに対する調達・購買部門の動向を一言で言うと「とても静かだった」です。リーマンショック後暫くは調達・購買部門に対する期待は高まり部門の強化も積極的に進められました。それが一段落し、静かな進化が続いているように感じます。別の言葉を使えば目立った進化がない、とも言えるでしょう。しかしこういう時期だからこそ、今までの改革の延長線上ではない新しい基軸の改革が進んでいます。特に一部の先進企業においてその傾向が出てきているのです。

2017年の調達購買改革のキーワードは「行動指針」と「キーワード型改革からの脱却」の2つを上げます。

昨年は「調達基盤の確立」というキーワードを上げました。その中で「調達購買部門の本来の役割・目的は『サプライヤとの強固な信頼関係づくり』であり、『サプライチェーン全体で競争力強化に貢献すること』である」と述べています。しかし企業毎にこの「調達基盤の確立」の方向や方針は異なってくるでしょう。そこで重要な役割を果たすのが「行動指針」です。

「行動指針」とは永劫的に共有する価値観や心構え、行動の指針となるもので、クレド(信条)に近いもの。このようなクレド(信条)を作成することで部門長が考えている「ぶれない芯」を多くの部員に対して伝えていくことが行動指針作成の目的です。

「行動指針」作成のポイントは3つあります。1点目は「シンプルで分かりやすい」こと。行動指針というと耳障りがよい言葉をたくさん並べたくなりますが、分かりやすく伝えやすいものとするためには「シンプルで分かりやすい」ものがいいでしょう。
2点目は「調達部門のコアミッションを提示」することです。調達購買部門の「コアミッション」は各企業によってちょっとずつ異なります。ある企業は「テクノロジー」にフォーカスしTQCDの順番に優先順位を定義しています。つまり調達購買部門の仕事をテクノロジー開拓と位置づけ、日々活動をしているのです。またある企業はサプライヤを単なる取引先として捉えるのではなく、パートナーとして捉え、真の意味で共存共栄を図ることを目的と捉えています。
3点目は「部門長の思い」を伝えること。すぐれた行動指針は部門長自らの思いをバイヤーに共通の価値観として伝え、その価値観を共有することができます。

ここでは、調達購買改革に力を入れて約10年程経つ企業の調達部門の行動指針を例にとり説明してましょう。この企業は10数年前に調達部門を強化し組織化、人員増強して集中購買を進めてきました。最初の数年間はコスト削減にフォーカスし、その後は業務効率化と共に社内統制の強化を推進してきたのです。ところがここにきて社内関連部門からはかなり評判が悪い部門となっていました。トップダウンで上から目線になっているとか、面倒なことばかり言ってくる、とか。
そこでこの企業はユーザー、サプライヤから声を吸い上げ、それを元に調達部門長を中心に行動指針を作りました。行動指針策定の過程では部門長が中心となって各グループマネジャーが喧々諤々と議論を行いながら進めていき、最終的にはとてもシンプルな「社内ユーザーへの貢献」を一義にすることが結論となったのです。
「社内ユーザーファースト」の視点です。そしてこの行動指針を共通の価値観として部門全員に動機づけを進めていきました。

このようにその企業の置かれた状況や事業環境、歴史的な背景など、によって調達購買部門に求められる価値観は異なります。これらを理解した上で行動指針に落とし込み業務推進していくことが今後多くの企業に求められていくでしょう。

もう一つの調達購買改革キーワードは「キーワード型改革からの脱却」です。

この10数年間調達購買改革は「キーワード型改革」が主体でした。例えば「『集中購買』推進で『サプライヤを半減』しXX億円の『コスト削減』」」とか、「『マルチソース』で『リスクマネジメント、BCPを推進』」などなど。

シンプルなキーワードによる改革推進は改革初期段階では強力な推進力につながります。そのため必ずしも悪いことではありません。しかし多くの企業では、ある程度調達購買改革が進んでいるために、キーワード型改革はリスクや弊害につながりやすいです。以下のような調達購買改革がその代表的なものになります。

1.「集中購買」で「サプライヤ集約」して「コスト削減」を実現する
2.「サプライヤ評価」をやれば「サプライヤマネジメント」ができる
3.「複数社発注」で「リスクマネジメント」を実現する
4.「部品集約」で「コスト削減」を実現する
5.「競争化」で「コスト削減」を実現する

これらのキーワードは良く考えてみると必ずしも等式では結びつきません。優秀な調達購買担当者や改革推進者は理解しています。これらのキーワードが一人歩きすることで手段が目的化してしまうことも少なくありません。

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キーワード型改革から脱却する上で重要なポイントは品目を層別して捉えるということです。品目を層別しその品目にあった改革手法やコスト削減手法を検討していくことが重要となります。品目の層別化に基づきバイヤーが購買品目の供給市場やその他の特徴を分析し、品目の特徴に合わせてコスト削減や他の施策につなげていくことが求められるのです。

「キーワード型改革からの脱却」は1つ目のキーワードの「行動指針」にもつながります。「行動指針」は業種、企業毎に異なった環境下で何を重視しゴールとして調達購買活動を進めていくかというものです。一方で「キーワード型改革からの脱却」は調達購買品目毎にその品目を取り巻く環境や特徴を理解・分析した上で、品目別戦略を決めていくことを求めます。

このように考えるとこれらのキーワードに共通する考え方は「層別化」「重点志向」です。

「層別化」「重点志向」は自社や自分が担当している品目についてその環境や市場、技術などの状況を理解・分析し、それにあった戦略を作成し、施策に落とし込んで実行していくこと。「行動指針」により共通の価値観を醸成することは個々のバイヤーに対するエンパワーメント(権限移譲)を可能にします。また、戦略策定や意思決定のレベルアップやそれを達成するためのバイヤー個々の能力を高めることにつながるのです。
私はこれを「考えられる組織作り」と呼んでいます。そのためには、「行動指針」だけでなく自律型人材の育成がその要件となってくるでしょう。

「行動指針」と「キーワード型改革からの脱却」。この2つのキーワードの前提は「調達・購買部門が果たすべき価値観やゴールの多様性」が企業毎、品目毎に異なっている、ということです。

これは考えてみれば当たり前な話でしょう。

今までの調達購買改革は乱暴な言い方をすれば、「何をやっても効果が出ました。」つまり第一ステージの改革です。そのためにはシンプルなキーワードを使うことで改革プロジェクトの推進力を高めることができました。しかし第二ステージの調達購買改革は新しい基軸が求められます。この段階では企業や調達購買担当者は「層別化」「重点化」の考え方で自律的に改革を進めていくことが求められるのです。

そして2017年は調達購買改革が新しい基軸へ移行する新たなスタートの年となるでしょう。

それでは皆様良いお年をお迎えください。

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