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コンセプチュアル思考〈第19回〉 コンセプトの精錬法[1]~結合・分離/村山 昇

INSIGHT NOW! / 2017年1月17日 7時0分

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村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング


このシリーズ記事では、「コンセプチュアル思考」における5つの基本スキルを順次解説しています。今回から数回にわたって、その4番目のスキルである「精錬」についてみていきます。


私たちは往々にして、自分のなかにいったん取り込んだコンセプト(本シリーズでは、コンセプトを字義的に「内に取り込んだもの」と広い意味でとらえ、いわゆる企画意図としてのコンセプトから概念、さらには観念的、信念的、理念的な意味合いまで含んでいます)を固定化させてしまう傾向があります。コンセプトは自分のなかの考え方の秩序をつくる骨格ですから、それを頻繁に変えたくない心理がはたらくためです。しかし、どんな概念も完全な終止形ではありません。コンセプトは考え出す本人が変わっていくとともに、また、環境が変わっていくとともに、変化が必至のものです。さらには、いまだ概念化されていないことが世の中には無数あり、あなたによってとらえられることを待っているかもしれません。



そういったことから、4番目のスキルは、物事を「しなやかに鋭くとらえる」ことにフォーカスします。物事のとらえ方を精錬していき、コンセプトを変更したり、新しいコンセプトをつくったりする能力についてみていきます。

◆商品や技術は磨かれたコンセプトを欲している
世の中にはコンセプチュアルな能力を研ぎ澄ませて仕事にしている人がたくさんいます。例えば、商品企画者です。ヒット商品の成功要因というのは、その具体的なアイディアが語られがちですが、実のところ、アイディアから入る企画者は単発的にヒットを当てても、継続的にヒットを生み出すことはできません。優れた企画者は、必ずと言ってよいほど、コンセプチュアル感覚を磨いて、まさにコンセプトづくりからしっかり始めます。担当する商品や技術、それを取り巻く環境を意図的に視点をずらしてながめたり、既存の概念や常識を否定したり、新しい枠組みを考えたりするなかで、アイディアをどうしようかと発想を巡らせます。

また広告制作の世界で活躍するディレクターやクリエイターたちも柔軟的で先鋭化したコンセプチュアル能力を発揮している一群です。昨今では、機能面や価格面での商品の差別化が難しく、その分、広告で引き寄せたいという要求が強まっています。そのために広告のつくり手は、商品の訴求ポイントをどんどん鋭くして、消費者の欲しい気持ちを刺激します。また、時代のフワフワとした空気を先読みして、ずばり一行のコピーに表現したり、流行をつくり出したりします。

私たちはよく、特段に優れた商品・事業に遭遇すると、「これは〇〇の概念を超えている」とか「こんな使い方があるなんて知らなかった」「常識をくつがえされた」「この商品コンセプトにやられた」「このビジネスモデルは画期的だ」などと表現します。そのように優れた商品・事業というものは、コンセプトの次元からすでに優れていたといえるでしょう。もちろん商品技術は重要です。しかし、技術はある商品コンセプトのもとに置かれることで輝きを放ちます。ある意味、技術は世の中にあふれていますが、そのすべてが日の目を見るわけではありません。

時代とともに人びとが抱くコンセプトは変わり、変わりゆく技術もそれが有効に用いられるコンセプトを欲しています。また、コンセプト自体を消費する社会にもなりました。そんななかで、ごく一般的な物事のとらえ方、論理秩序、枠組みに依っているだけの思考では、担当商品に力を与えることはできません。既成のコンセプトに対し、つねに鋭い思考の投げかけを行うというコンセプチュアル能力は、商品がますますコモディティ化する流れにあって、いやまして重要になっています。

◆物事のとらえ方を精錬する6つの方法
物事のとらえ方を研ぎ澄ませ、とらえた内容(すなわちコンセプト)を精錬していく方法はさまざまあるでしょう。ここではとくに、ビジネスの現場で役立つ観点を取り上げ、下の6つに分類して紹介します。

[1:結合・分離]
 a)掛け合わせる
 b)足し算する
 c)引き算する

[2:視点の移動・創出]
 a)見る位置を変える
 b)枠の外からながめる
 c)寄って見る/引いて見る
 d)観点を起こす

[3:ものさし変更]
 a)目盛りを変える
 b)目盛りをなくす
 c)目盛りをつける
 d)白黒反転させる

[4:置き換え]
 a)土俵を変える
 b)文脈を変える
 c)形態・様式を変える

[5:研ぎ澄まし]
 a)エッジを立てる
 b)造語する
 c)メッシュを密にする

[6:喩え]
 見立てる

きょうはこの1番目の「結合・分離」について解説します(2番目以降は次回からの記事で解説します)。


◆[1:結合・分離]1-a)掛け合わせる

何か一つの概念に凝り固まって、その囲いから抜け出られないとき、異種の概念を掛け合わせてみると、予想外の発想が生まれ、新しい概念の誕生につながることがあります。「A×B→新しい何か」の変化です。

例えば「回転寿司」。寿司は職人がカウンターで握って出すものという固定概念に、ベルトコンベアー(工場で部品を流す装置)という概念を掛け合わせた結果、寿司屋の概念を大きく変える店舗が生まれました。また、イチゴと大福を掛け合わせた「いちご大福」は和菓子の概念を広げました。ウォルト・ディズニーは、アニメーション映画と公園を掛け合わせ、『ディズニーランド』というテーマパークをつくり出しました。『ディズニーランド』は単なる公園ではなく、まったく新しい概念と呼んでいいものです。

 ・「寿司×ベルトコンベアー」→回転寿司
 ・「イチゴ×大福」→イチゴ大福
 ・「アニメーション映画×公園」→ディズニーランド

経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、「イノベーション」という概念を広く普及させたことで有名です。彼はこの言葉を使う以前、「新結合」という表現を論文に使っていました。イノベーションは「技術革新」と訳されることも多くなっていますが、シュンペーターがもともと含ませたニュアンスは、異種のものを結合することで何かを生じさせるということです。また、古くは哲学の世界では、ヘーゲルが「止揚(アウフヘーベン)」という概念を提示しています。これも基本的には、矛盾する要素の対立から事物の発展は起こるという見方で、発展として現れた事物のなかに、もとの性質が高次元の形で保存されているという洞察です。いずれにせよ、異なるものが交わるところに何かが起こるのです。

◆1-b)足し算する
「A+B+C」と足し合わせていく複合化のとらえ方です。アプリをいくつも詰め込めるスマートフォン、いくつもの商品群を一つの建物に集める百貨店などはこの発想の典型です。上でみた「1-a:掛け合わせる」と異なっている点は、要素を合わせることで何か別のものに化けさせる意図はないことです。

◆1-c)引き算する
引き算の発想で革命的な商品を誕生させた例といえば、何と言ってもソニーの『ウォークマン』です。「あれも・これも」という複合化は、実はだれもが考えやすい発想で、その方向にいくとむしろ特長や個性を失うことにつながりかねません。コンセプトを明快にしたければ、むしろ大胆な削除を選ぶほうがよい場合があります。成功の鍵は「Less is more.」(より少ないことが、より多いこと)。能や茶道は極限まで動作を省いています。しかし、そこにこそ多くの情報が隠されており、豊かなおもむきがあります。『ウォークマン』にしても、単一機能に絞ったことでかえって、音楽を持ち運ぶという豊かな体験が可能になり大ヒットになったのでした。引き算の成功例として他に、立ち乗り自動二輪車の『セグウェイ』をあげてもいいでしょう。


いま、もしあなたが自分の担当する商品・サービスについての概念を精錬させたいと思ったら、まず「結合・分離」させてみることです。すなわち、

 □〈担当商品・サービス〉×〈異種のもの〉→新しい何か
 □〈担当商品・サービス〉+〈異種のものA〉+〈異種のものB〉→新しい何か
 □〈担当商品・サービス〉-〈要素A〉-〈要素B〉-〈要素C〉→新しい何か

このようにしなやかさをもってコンセプチュアルに考える能力は、一部の人にかぎらず、だれしもみずからの仕事において必要なものです。担当する商品・サービスをつねに向上させていくためには、つねに自分のなかのコンセプトを柔軟的に見なおし、精錬していく思考力が不可避だからです。


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