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コンビニはクリスマスも営業中/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2017年12月20日 9時11分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 「坂本くんさ、こっちからムリ言って頼んどいて悪いけれど、こんな天気だし、あんまりお客も来そうもないから、もう上がってもいいよ」「店長が帰れって言うんなら、おれ、帰りますけど」「いや、帰れだなんて」「だいいち、ワンオペでだいじょうぶっすか。店長、血圧高いし、明日、店の前、パトカーと救急車だらけ、とか、かんべんっすよ」「おいおい、おれを殺すなよ。坂本くん、あいかわらず冗談がきついよ。それより、お母さん、ひとりだろ」「いや、あにきが嫁さんと子供連れて、帰ってきてんっすよ」

 「じゃ、これ、ひとつ、持ってってよ」「店長、なにやってんすか?」「ちゃんと、おさつ、カメラに写して、レジに入金しないと」「あ、ありがとうございます。それにしても、今年も、ずいぶん売れ残っちゃいましたね」「明日中になんか、売り切れないだろうなぁ」「断れないんすか」「いろいろね」「あ、オレのバイト代もか。そうですよね、じゃ、次の入荷、出したら、すぐ帰ります。店長、腰も痛いんでしょ」「悪いね」「見てれば、わかりますよ。この店、人件費からなにから、いろいろギリギリでしょ」「……」「店長、この店、潰さないでくださいよ」

 「……お兄さんは、もう正月休みなのかい」「フリーランスですからね、東京に出て、そこそこ当たったみたいだし」「そうか。でも、坂本くん、バイトもいいけれど、ちゃんと勉強して、きちんと就職するんだよ。おれは人生、失敗した」「店長、なに言ってんすか」「自営なんて、甘くなかったよ」「店長も、前はサラリーマンですよね」「部下が不倫で揉めごとを起こしてね、みんな、まとめて辞めさせられたんだ。ま、会社としては、もともとリストラの口実を探していたんだろうけどね」「巻き添えっすか、ついてないっすね」「人生、ついてることなんかないよ」

 「店長、ほら、これ、ひらひらひら、はい、ご入金」「え、なに?」「おれも、一個、買いますよ。お客さん、だれも来ないから、店長、いっしょに食べちゃいましょう」「おいおい、悪いよ、坂本くん、おれが」「いや、こっちのは、ちゃんとあにきたちに持って帰りますから。こっちは、うちらで、ね。ほら、もう、レジ、打っちゃいましたし。じゃ、お茶、入れてきますね」「あ、いや、じゃぁ、そのコーヒーにしよう。おれが出すよ」「ずいぶん、ぜいたくっすね」


 ぴぽぴぽん。「うー」「いらっしゃいませ!」「……あのぉ、だいじょうぶですか、顔色悪いし、震えてませんか」「ちょっとカゼぎみかな」「クスリとかも、ありますよ」「まだもうすこし、運転しないといけないんだ」「配送ですか、年末はたいへんですね」「待ってる人たちがいるからね」「お客さん、じゃ、暖かいコーヒーはいかがっすか」「あぁ、それはいいねぇ」「坂本くん、じゃ、これで三つ」「はい、店長」「え?」「お客さん、ちょうどタイミングがよかったっすよ。ほら、このケーキ、ちょうどいま、食べようと思っていたんす。食べ残してもなんだし、店長、血糖値も、心配だし、よかったらぜひ」「あ、あぁ。じゃ遠慮なく」


 「長距離ですか」「ずっとね。ただ、もうちょっと疲れた」「その年だと、ちょっときついっすよね」「あぁ、もう年だね。でも、引退もできない……」「そう、それがたいへんなんだ。引き受けた以上は、ちゃんと最後までやらないと」「でも、店長、ムリして体を壊したら、元も子も無いっすよ。店、潰れますよ」「……」「……この、ケーキ、おいしいねぇ」「あんまり売れないんすけどね」「上の連中は何を考えているのやら……」「でも、もっと上の人が、いつかなんとかしてくれるじゃないかな」「お客さん、ずいぶん楽観的っすねぇ」「いや、そうかもしらんよ、坂本くん。そうでも思わないと、やってけないじゃないか」「……」


 「さ、じゃ、そろそろ」「あ、まだ仕事ですもんね」「ここで、こんなごちそうにあずかるとは思ってもみなかったよ、ほんとうにありがとう」「お客さん、ついてたっすね」「お体を大切に」「たいしたこともできないが、おふたり、ちょっと目をつぶってくれないか」「そのスキにミントとか、万引きするんでしょ」「おいおい、坂本くん」「いやいや、じゃ、こうしよう。あなたは私の右手、あなたは私の左手をにぎって、それで目をつぶって、頭を下げて」「こうっすか?」

   あなたがたが豊かな祝福に恵まれますように
   愛に満ちた年があなたがたに訪れますように


 「おはようございます! 配送ですっ!」「あれ? え? 店長、さっきのお客さんは?」「あ、あぁ……」「お、おれ、万引きだなんて、あの人に、なんてこと、言っちゃったんだろ、冗談になってないよ。あやまってこないと」「……そうだな」「いま、お客さん、出て行きませんでしたか?」「えっ、いや、だれも」

 「車の跡も無い……」「でも、ケーキは食べていったよ、コーヒーも飲んだ……」「手、暖かかったっすね」「あぁ、あれは働き者の手だな。さ、受け取りだ。坂本くん、トレイ、チェックして」「はい、店長! あ、配送さん、ケーキ、まだ一切れ、あるんだ。よかったら、ぜひ」


2016年のクリスマスのお話 「クリスマスケーキにロウソクはいらない?」

2015年のクリスマスのお話 「クリスマスの夜、サービスエリアで」

2014年のクリスマスのお話 「なぜサンタは太っているのか」

2013年のクリスマスのお話 「最後のクリスマスプレゼント」

2012年のクリスマスのお話 「サンタはきっとどこかにいると思うんだ」


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)

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