散々渋ってきたのに……日本企業が「いまさら」賃上げに踏み切ったワケ
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年5月9日 8時0分
●なぜ急に賃金を上げるようになったのか
それにしてもなぜ、企業は急に賃金を上げるようになったのでしょうか。
まず、すでに賃金を上げようと思えば上げられる状態にはありました。図4は財務省『法人企業統計』による売上総利益(売上高-売上原価)の推移です。人件費の源泉である売上総利益は最近3年間、顕著に増えています。
次に「要素価格均等化」の圧力があります。要素価格均等化とは、自由貿易をする国々の間で、生産要素(商品やサービスの生産に用いられる要素。具体的には土地や労働、資本、経営者の能力、原材料などのことをいう)の価格が等しい方向に収れんして行くということです。近年の円安の結果、ドルベースでみた日本人の賃金は2022年、OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の78%まで低下しました。ここまで下がれば、日本だけが賃金が低い状況が、是正されても不思議ではありません。
そして、「効率性賃金」です。企業はもともと賃金を上げる動機を持っています。賃金が低ければ、働く人の職場定着率が下がり、採用や教育訓練にかかるコストが膨らみ、企業はかえって損をします。低い賃金で働いている人は、解雇されても失うものが少ないので、サボりも増えます。高い賃金で働いている人は、それを「もらって当たり前」とは考えず、誠実な労働や積極的な提案という形で会社に恩返しをしようとします。
もちろん払える範囲での話ですが、賃金は高い方が、企業にとって何かと有利です。このような考え方を、高い賃金は企業にとって効率的であるという意味で、効率性賃金といいます。
●有名企業が賃金を上げるのは「補償賃金格差」
企業が賃金を上げ始めた理由として「補償賃金格差」も考えられます。
週刊誌『ダイヤモンド』は、口コミデータを集計して、働き方に関する従業員の不満が多い「ブラック企業ランキング」を発表しています。投稿数と企業規模の間に相関があることを承知の上であえて言いますと、上位は日本人なら誰でも知っているような有名企業ばかりです。
それらの企業の口コミの内容をみると、「休日出勤が常態化している」「ノルマを達成できないと容赦なくクビになる」「ほぼ強制的にサービス残業をさせられる」「基本給が安く抑えられていて、ボーナスでとんとんになる」などがあり、相当厳しい労働環境であることがうかがえます。
興味深いことに、この「ブラック企業ランキング」で上位にランクされている企業はいずれも、今年大幅な賃上げを断行することが報道されています。これは補償賃金格差の好例です。補償賃金格差とは、劣悪な労働環境しか提供できない会社は、それを補償するだけの高い賃金を払わなければ働き手を確保できないという説です。
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