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[千野境子]【20世紀最高のプリマによる日本への賛辞】~和食の魅力を誰よりも知っていたプリセツカヤ~

Japan In-depth / 2015年5月5日 23時0分

[千野境子]【20世紀最高のプリマによる日本への賛辞】~和食の魅力を誰よりも知っていたプリセツカヤ~

先頃、滞在先のドイツで急逝した20世紀最高のプリマ、元ボリショイ・バレエ団のマイヤ・プリセツカヤさんに、私は忘れ難い思い出がある。

それはもう40年も前の来日の際のインタビューでのこと。プリセツカヤさんはいきなり日本料理の魅力を語り始めた。「お刺身、お寿司、しじみ汁のあの味!美味しいし、太らないので体のためにもよいし、何よりも素晴らしいのは、食べたいなと思う物が食べたいなと思う時にピタリと出てくることの見事さ。とても頭のよい料理なのです。洋食はこれほど頭よく作られていませんし、中国料理はこの前一度食べたら気持ちが悪くなってしまいました」

今でこそ世界中にファンを持ち、ユネスコの無形文化遺産にも登録された和食だが、昭和50年当時、外国人の言う日本料理はせいぜいスシ、テンプラ、すき焼きの類が定番で、しじみ汁に感激し、頭の良い料理などという個性的な日本料理論は、そのバレエのように彼女にしか語れないものだった。

当時、肉と言えば草履のような硬い肉が一般的なソ連(当時)から来日したロシア人は、高価なしゃぶしゃぶを貪るように平らげ、招待した日本人を幻滅させたのを思い出す。プリセツカヤさんはすべてに特別だったのだ。

また彼女にすれば、頭の良い料理を作る日本人も当然、賢い。だからこうも言っていた。「感度の良い国民なのでしょうね。デリカシーやニュアンスを理解し、同じことを二度言わなくて分かってしまう。私は公演で沢山の国を訪れましたが、こうしたことはどこの国でもあることではありません。人間はともすれば謙虚な態度を弱いと思いがちです。でもそれは根本から間違い。謙虚さの中には偉大な充実が含まれています。日本人はその謙虚さで、あらゆることをまったく静かにやってみせるのです」。

40年後のいま、彼女の言葉をこうして採録すると、停滞の20年の後、いまだ自信喪失気味の日本人には静かなる励ましの言葉のように思える。回りの動きにいたずらに狼狽えることなく、これまでの歩みにもっと内なる矜持をもちなさいと。

考えてみれば、それはプリセツカヤさんのバレエにも通じるような気がする。その舞台は自然で謙虚さに満ち、静謐な美と呼びたいような雰囲気を醸し出す。「…彼女が踊ったあとでは誰の「白鳥」も退屈感がついてまわる。マヤの踊りは、古典の格調と優雅さを備えたうえでなおかつ新鮮でモダンである」とかつて作曲家の諸井誠氏は書いている。

そこにはプリセツカヤさんの人生も投影されている。両親はスターリンの粛清の犠牲となり、自らも共産主義体制下、厳しい監視下の生活を余儀なくされた。亡命しなかったのは、亡命で命を狙われる危険さえあったからだという。その苦難の人生の中でも凛としてバレエを磨いてきたのである。

訃報の後、インターネットの動画で彼女の代表作「瀕死の白鳥」を見ることができた。最盛期の踊りではなかったが、彼女が不世出のプリマであるとあらためて感じさせられた。

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