北朝鮮ミサイルテストと安保理 その3 中国のジレンマ
Japan In-depth / 2016年2月13日 23時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
北朝鮮に対する経済制裁が効果を表せない大きな理由に中国の躊躇がある。それは中国がジレンマに悩んでいるからである。また、北朝鮮内における中国の影響力が衰えていることもこれに拍車をかけている。中国にとっても、北朝鮮の核開発やミサイル開発は望ましいものではない。そのような開発は朝鮮半島を不安定化させるものであるとの認識を持っており、中国は国連安保理決議による経済制裁には賛成した。しかし、過度の制裁は北朝鮮の挑発行為を招くものであり、事実、北朝鮮は突然韓国に対して都合の良い時に砲撃を仕掛けたり、ロケットを打ち込んだりして緊張を意図的に高めている。
中朝貿易は、2013年には年間65.5億ドルとされ(KOTRA、韓国統一部推計)、2009年以来40パーセント成長しているとの分析もある。中国から北朝鮮への石油の輸出は年間50万トンくらいと言われており、ロシアからの原油の輸出量は年間約10万トンである。
北朝鮮は石炭や鉄鉱石などの鉱物資源を中国やロシアに輸出している。他の大手貿易国は韓国が2013年に11.4億ドル、ロシアが1億ドルであることから、中国が最大の貿易相手国となる。また、北朝鮮は労働者を国境が接している吉林省や遼寧省、そしてロシアの極東地域にも派遣しており、そこから入る収入は相当な額になると推測されている。
金正恩体制で実質的にナンバー2の地位にあり叔父にあたる張成沢が2013年に粛清されたことは中国にとっても大きな痛手だった。張は若い金正恩の後見人のような役割で、中国とも良い関係を築いていた。北朝鮮を安定させる親中派の人物が突然いなくなったことで、中国の影響力にも影が差した。
これを象徴する出来事が、2015年10月の朝鮮労働党創建70周年の記念行事に中国共産党政治局常務委員で序列5位と言われている劉雲山を参加させた際、北朝鮮側は中国側に対して次の核実験の準備について何も知らせなかったことがある。核実験後、中国は事前に知らされていなかったと公式に述べ、その苛立ちを表明している。
(北朝鮮ミサイルテストと安保理 その4 各国の独自制裁 に続く。北朝鮮ミサイルテストと安保理 その1 「スマート制裁」効果なし、北朝鮮ミサイルテストと安保理 その2 経済制裁の抜け穴 も併せてお読みください。全5回)
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