世界の経済・安保に重大な影響 慶應義塾大学法学部 細谷雄一教授
Japan In-depth / 2016年7月25日 15時0分
「細川珠生のモーニングトーク」2016年7月23日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth 編集部(Aya)
慶應義塾大学法学部教授の細谷雄一氏を迎え、テリーザ・メイ氏が新首相に就任したイギリス情勢、その世界への影響について聞いた。
イギリスではEU離脱を巡る国民投票の結果を受け、キャメロン前首相が辞任を表明し、「サッチャー氏以来の鉄の女の到来か」とも言われているメイ氏が新首相に就任した。細川氏も「厳しい政治家と言う印象を受けている。」と話した。
細谷氏は、「氷の女王と呼ばれているくらい、冷たいというか実務的。サッチャー氏と非常に似ているが、決定的に違うのは、サッチャー氏はイデオロギーが強い。それに対してメイ氏は、善悪で考えるというよりは、目の前にある仕事を効率的にこなしていく実務家肌。」とメイ氏の資質を評価、彼女が国民投票の結果を受けて、離脱に向けて淡々と実務をこなしていくとの見方を示した。
イギリスのEU離脱はヨーロッパ全体にどのような影響を与えるのか。細谷氏は、イギリスのEU離脱がEUにとってもイギリスにとっても大きな衝撃であると話し、その理由の一つとして、「イギリスの政治の中、経済の中にEUは深く埋め込まれている。イギリスの貿易は47%がEUとの貿易で、イギリスの貿易はEUなしには成り立たない。」と話した。
さらに、「イギリスは外交が強い。国連安保理の常任理事国でもある。インテリジェンスの面でも、世界中の情報を収集している。イギリスは、自由主義的で開かれたイデオロギーを持っているので、EUが世界に向けて開かれた市場となるために、イギリスの役割は大きかった。」と述べ、EUの中にイギリスが組み込まれ、イギリスの中にもEUが組み込まれた密接な関係だったと分析。これを取り除こうとすると均衡が崩れて、様々なところで歯車がおかしくなることは必至だ、との考えを強調した。
「イギリス経済とEU経済がこれによって確実にマイナスのダメージを受ける。イギリスのGDPが3.5~5%も下がるというのは大変なマイナス。」と細谷氏は経済面でのダメージについて懸念を示した。(これにより)ドイツ以外の国の経済が悪化することが考えられ、特に大変なのはイタリアだと予測した。近年、中国の経済成長が鈍化している中、中国、アメリカを超える世界最大市場であるEU経済がおかしくなれば世界経済全体に影響がある。
さらに、安全保障の面でも影響が懸念される。イギリス、アメリカはシリア問題でともにイスラム国の活動を抑止してきたが、「イギリスとアメリカが同時に内向きになることでテロを抑える動きが難しくなる。」との見通しを細谷氏は示した。また、「英米両国は、ロシアや中国が国際法を守らないときに厳しい態度をとってきたが、(英米両国が)そういう行動をとらなくなると世界が無法地帯になる可能性がある。」と、全世界的な影響を危惧した。
しかし、「メイ氏は非常に有能な指導者であるから、この難しい時代に、いかにしてダメージをコントロールするか、場合によってはそれをイギリスの利益に結びつく方向に持っていくかを考えている。国際的な責任やイギリス経済を考えても、今のイギリスではベストな首相。」とメイ氏に期待を示した。
今後、安全保障の環境は悪化していくかと細川氏が問うと、細谷氏は、「その方向はほぼ間違いない。イギリスもアメリカも今非常に内向きで、持っているリソースを海外に使わず、国内に使いたい。」と話した。国際社会全体がテロに対して有効な対策をとれていないからテロが起きるが、実際にテロが起きると外国人を国に入れたくないとますます内向きになっていく傾向にある。そうなると、テロのソフトターゲット化、つまりテロをやりやすいところで起きるようになってしまう。日本でもテロリストがテロを起こしやすいと思えば、テロが起きる可能性が高まってくる。
「2020年の東京オリンピックに向けて、日本独自で情報収集能力を高めるかが重要になってくる。」と細谷氏は述べ、「より一層、自分たちが自分たちの安全を守るという自覚を持たなければいけない。独自に情報収集をして、テロが起きないためにどうしたらよいか自分たちで考えることが重要。」と訴えた。細川氏も、「世界地図を広げてつなげて、遠くで起こっていることではなく、それがどんな風に日本で影響があるかを学んでいかなければいけない。」と話した。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2016年7月23日放送 の要約です。)
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