福島県いわき市の深刻な医師不足
Japan In-depth / 2016年8月26日 11時0分
上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
「とても充実した生活を送っています」
福島県いわき市のときわ会常磐病院に勤務する森甚一医師(35)は言う。
森医師は東京生まれの東京育ち。専門は血液内科だ。今春、東大医学系研究科の博士課程を修了し、四月に常磐病院に就職した。首都圏の大学病院からの誘いを断り、いわき市にやってきた。8月20日現在、森医師は血液疾患の患者50人と一般内科の患者80人を診ている。赴任から5ヶ月で患者は急増した。
いわき市の人口は35万人。東北地方では仙台市に次ぐ第2の都市だ。ところが、森医師が赴任するまで、市内に血液内科の入院治療ができるのは、いわき市立磐城共立病院だけだった。そのホームページによれば、3名の専門医が勤務し、年間190人程度の造血器疾患を治療している。血液内科は強い抗がん剤治療を実施する。治療には手間がかかる。わずか3人で、こんなに入院患者を診るなど、常識では考えられない。
なぜ、こんなことになってしまうのだろう。言うまでもないが、いわき市が医師不足だからだ。平成26年末現在の人口10万人当たりの医師数は172人。全国平均(234人)のおよそ3分の2だ。人口が同規模の福岡県久留米市(約30万、551人)の3分の1以下である。
久留米市でも医師は余っているわけではない。この医師数で、いわき市が何とかやっている方が、むしろ不思議だ。実は、そうではない。住民が認識していないだけだ。東日本大震災後、福岡県の理学療法士が浜通りにやってきた。「福岡と比べ、10年くらい遅れた感じです。福岡では、こんなに足が曲がって固定した人は見かけなくなりました」と言っていた。整形外科医や理学療法士が不足しているため、適切な医療を受けることが出来ていないからだ。
勿論、福島県やいわき市が何もしてこなかった訳ではない。多くの対策を実行中だ。例えば、15年3月には、磐城共立病院が福島医大に寄付講座を設け、整形外科医を派遣して貰えるようになった。福島県は卒後、福島県内の公的医療機関で働くことを条件に、福島県立医大の学生を対象に月額15万円を貸与している。
ところが、私は何れの対策も大きな効果は期待できないと思う。医師不足の福島県内での「ゼロサムゲーム」だからだ。むしろ、このようなやり方は弊害の方が多い。医師の絶対数が少ないところで、「争奪戦」を行えば、医師の調達コストは暴騰する。利権が生じる。その一つが前述の寄附講座だ。福島県立医大が被災地に医師を派遣する際に、自治体病院が県立医大に寄付金を支払わねばならないという事態に陥っている。このことに興味がある方は、以下の拙文をお読み頂きたい。
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