傾聴怠り自滅したヒラリー 米国民上から目線のゴリ押し拒絶
Japan In-depth / 2016年11月12日 1時4分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
英国の欧州連合(EU)離脱決定など、想定外のことが立て続けに起こる2016年。そんな今年の最大のブラックスワン(あり得ないことが現実化すること)は、不動産王で富豪の米共和党大統領候補であるドナルド・トランプが、当選してしまったことだ。
そして、トランプと争った民主党大統領候補のヒラリー・クリントン元国務長官が落選した理由は、民主党のリベラルエリート層が「接戦にはなるが、戦勝する」という、大戦期の帝国陸軍のような希望的観測を信じて大敗したことにある。では、なぜ特権層は水面下で進行する地殻変化を見ようとせず、民意を読み誤ってしまったのだろうか。
まず、彼らは政敵と妥協したり、和を重んじるより、二元論のワナに自ら陥ることを選んだ。自ら「進歩派」を名乗るリベラルなエリートたちは、極右のトランプ支持者や極左のバーニー・サンダース支持者の生活上の切実な困りごとや懸念に心を砕いて傾聴することを拒否した。それどころか、「彼らはクレイジーな候補者に熱狂する愚衆だ」と見下した。なぜなら、「進歩派」の名が示す通り、自分たちこそ最も進んだ考えを持つ者たちであり、自分たちと同じ考えを持たない者たちは定義上、教導が必要な「遅れた」者たちであるからだ。
「進歩派」は多様性を説いたが、「遅れた」者たちの多様な意見は尊重しなかった。自分たちこそ真の民主主義を知っており、自分たちにしか民主主義は理解や実践ができないと、彼らは宗教的熱情をもって信じた。だから、彼ら以外に民主主義はなく、トランプやサンダースの支持者は、自動的に否定されるべきポピュリズム(大衆迎合主義)の信奉者、つまり異端ということになってしまう。
確かに、トランプの言動は滅茶苦茶だし、サンダースの理想は極端な社会主義だ。だが、彼らの支持者は「進歩派」のオバマ大統領の下で実施された経済政策の恩恵をほとんど受けることができず、過去8年の間、苦しんできたのである。オバマやヒラリーの「進歩的」政策は、ヒラリーが癒着する財界や裕福層を、より豊かにしただけであった。
それに対するトランプやサンダースの支持者の不満の表明を、リベラルなエリートは「正しい見解ではない」として、まともに取り合わなかった。そのようにして自分たちの人間性が否定されたと感じた白人中間層だけでなく、ヒラリー支持に回ると思われていたエリートの大卒白人女性の多くまでがトランプに投票したのは、民主党エリートの根源的なおごりや傲慢さに原因があったのだ。
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