【大予測:資本主義】国家に企業が従う統制経済復活 その3
Japan In-depth / 2017年1月10日 18時0分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米トランプ次期政権は、新自由主義的で企業・富裕層にやさしい政策を捨てようとしない民主党リベラルエリートへの、中間層や労働者階層の反発から誕生した。ところが、1月20日に発足する「内閣」の顔ぶれを見ると、財界や富裕層出身者でガチガチに固められている。
もっと不思議なのは、富豪で不動産王であり、新自由主義の恩恵を最も被ったドナルド・トランプその人が、「政治が経済を支配する」統制経済を、実現しようとしていることだ。
「計画経済」になれば、企業活動の効率が落ち、「米国を再び偉大にする」どころか、没落させないか。メキシコや中国に流出した製造業の工場を米国に呼び戻しても、借金まみれの米家計の貯蓄不足による構造的な需要・消費不足は解消できないのではないか。また、保護貿易で米経済の規模が縮小し、景気後退に突入しないか。
だが、すでに事態は、企業の効率云々などという、生易しい段階をとっくに過ぎている。トランプ次期大統領への期待から、金利やインフレ予想は上昇し、株価もイケイケ局面にあるものの、世界経済のファンダメンタルズを見れば、負債にあえぐ家計や国家財政、需要の慢性的な低迷、企業による投資の手控えなど、長期停滞の根源的な原因は、何一つ改善されていない。
もっと深刻なのは、1980年代以来の資本主義の中心的教義であった「自由貿易で生活が良くなる」「グローバル化で未来が明るくなる」というウソが、世界中で信を失い、大衆迎合主義の同時台頭を招いたことだ。民衆の支持を失った資本主義の代替が見つからないなか、資本主義は崩壊の危機に直面している。
揺らぐ資本主義の正統性を回復させようと、グローバル・エリートたちはいくつかの「自浄案」を提示した。ひとつは、「グローバル化による経済格差拡大の弊害を、より大きなグローバル化で克服する」、つまり毒をもって毒を制するというもので、『21世紀の資本』で一躍時代の寵児となったフランス人経済学者のトマ・ピケティ氏などが唱えた。
たとえば、ピケティ氏は格差問題解決のため、政府間協力による富裕層課税の捕捉率向上を訴えるのだが、その国際課税協力の執行機関として構想するのが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の欧州版である環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)だ。だが、TPP同様、官僚や多国籍企業が完全密室で、一般市民を排除して協議する自由貿易協定のTTIPが経済格差を解決するという奇異な主張は、欧米の民衆の共鳴を得られず、ピケティ氏は「過去の人」となった。
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