EUを生んだカトリック左派 しぶとい欧州の左翼 その2
Japan In-depth / 2017年1月21日 23時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
EU(欧州連合)の初代委員長で、共通通貨ユーロの導入はじめ現在の「統合されたヨーロッパ」の実現に大きな功績を残したジャック・ドロールは、1925年パリ生まれ。14歳の時に第二次世界大戦が勃発し、パリもナチス・ドイツ軍に占領された。年上の友人の多くは、対独レジスタンスに参加して命を落としたという。
実は農民だった彼の父親も、第一次世界大戦に動員され、ドイツ帝国軍の砲撃で瀕死の重傷を負わされた。その戦傷が直接の原因だったのかどうかまでは明確な記録や証言がないが、戦後すぐ離農して、パリの労働者街に移住している。このため、終生ドイツ人を憎んでいたそうだ。
ジャック・ドロール(以下ドロール)自身も、思春期に上記のような体験をしていることを思えば、大のドイツ嫌いになっても不思議ではなかった。しかし、そうはならなかった。
シャルル・ドゴール将軍率いるフランス亡命政府は、戦争に勝った後も、復讐からはなにも生まれないとし、ソ連の脅威に対抗する意味もあったとは言え、「ドイツとの歴史的和解に基づくヨーロッパの平和的連帯」を模索するようになったからで、ドロールはこの思想に共鳴したのである。
その一方、熱心なカトリック信者であった両親の影響で、13歳の時にCFTC(フランス・キリスト教労働者同盟)に加入している。
いわゆるカトリック左派の全国組織だ。カトリック左派と言われても、一般の日本人にはいささかイメージしにくいであろうが、キリスト教の教義に照らせば、貧富の差は悪に他ならないので、これを正してゆくべきである、とする思想は、結構古くからあるらしい。
中南米のカトリック教会の中からは「解放の神学」と呼ばれる思想が台頭し、ニカラグアでは左翼政権誕生に寄与するなど、国際的な注目を集めた。フランスのカトリック左派もまた、労働者や零細農民を貧困から解放するためには、教会を中心とした慈善活動だけでは限界があるとして、政治活動に力を入れ、この結果「第二の左翼」の別名を授けられるまでになっていた。
ドロール自身、自分の政治的な立ち位置が左翼であると自認しながらも、「マルクス主義に心惹かれたことは一度もない。フランスの左翼でこういうことを公言するのは、私くらいなものだろう」
と語っている。そんなドロールだったが、社会党(第一の左翼?)の方では彼を放っておかなかった。
1974年の大統領選挙で、左翼統一候補となったものの、中道右派のジスカールデスタンに敗れたミッテラン社会党主は、CFTCの中心的存在となっていたドロールを、社会党ナンバー2として迎え入れたのである。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
ドイツ右派、再び第1党の勢い 東部州議会選、国政に不満
共同通信 / 2024年9月19日 17時1分
-
贖罪で移民を受け入れたドイツが直面する苦境 中道を標榜するが、過激なポピュリズムに向かう人も
東洋経済オンライン / 2024年9月11日 16時0分
-
最年少→最高齢に交代、仏首相「想定外」人事の背景 73歳のタフネゴシエーター、バルニエ氏の素顔
東洋経済オンライン / 2024年9月10日 10時0分
-
フランス全土でデモ、マクロン氏の首相選出に抗議
ロイター / 2024年9月8日 14時50分
-
マクロン仏大統領、首相選出振り出しに 左派は抗議行動を計画
ロイター / 2024年8月27日 20時15分
ランキング
-
1中国外務省「中国には反日教育はない」
日テレNEWS NNN / 2024年9月23日 22時5分
-
2トランプ氏、銃撃の地で再び演説へ=大統領選1カ月前の来月5日―米報道
時事通信 / 2024年9月24日 7時16分
-
3イスラエル、レバノン市民に電話で退避警告 国営通信社
AFPBB News / 2024年9月23日 18時31分
-
4「我々の規律は日本人を殺すこと」中国の地方政府幹部がSNS上に書き込みか
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月24日 4時7分
-
5英労働党大会で財務相が演説 不人気の財政緊縮策を正当化 首相の支持率低下鮮明に
産経ニュース / 2024年9月24日 8時38分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください