仏大統領選、ゼムール氏急浮上
Japan In-depth / 2021年10月11日 14時52分
ルペン氏とゼムール氏には確かに共通点が多く、票を奪い合う状況になっていることは否めない。特に、「移民」に関しては一致している点が多い。ルペン氏も、ゼムール氏の「移民」と「安全」に関する内容自体は2012年、2017年のルペン氏の選挙プログラムで言ってきたことと同じだと述べている。
しかし、ゼムール氏は、特に移民に関して過激な言葉を使うことで、より多くの人々の関心を引きつけている。過去には人種差別的発言で物議を醸したこともあるゼムール氏は、「不法移民だけでなく合法な移民の受け入れもやめるべきだ」「40年間移民を拒否してきた日本が、未来のフランスのモデルだ」「子供にフランス風の名前を付けさせるべきだ」などの発言で人気を集めているのだ。それに伴い、新著は9月の発行から10日余りで14万部を売り上げ、ベストセラーにもなった。また、ルペン氏の実父ジャンマリ氏は、ゼムール氏の言っていることは彼の考えと一致しており、ルペン氏よりも支持率を上げた場合にはゼムール氏を支援するという考えも示したのである。
一方、ルペン氏は、実父の国民連合の前身「国民戦線(FN)」創設者のジャンマリ氏と決別し、極端な人種差別的発言が多かったジャンマリ氏時代のイメージを払拭する「脱悪魔化」を進めてきた。その結果、2017年にはマクロン氏との一騎打ちとなるまでに至ったのだ。しかし、現在は、ゼムール氏の躍進を受けて、専門家からは「軟化戦略は逆効果だった」という声が上がっている状況だ。
「社会」「女性」「同性愛」に関しては二人の方向性は違う。ゼムール氏は会社が払う税金を下げるなど、企業に寄り添った考えを示している。一方、ルペン氏はガソリン税を下げたりなど、庶民を対象としている。また、ルペン氏は、女性に寄り添う姿勢をもち、同性愛も容認している。反イスラーム主義的姿勢に舵をきっているのも、イスラーム系の移民が同性愛に反対しているためでもある。しかし、ゼムール氏は、フェミニストに向けた批判も多く、女性に対して厳しい面が目立つ。また同性愛者に対しても否定的だ。
いずれにせよ、現時点ではゼムール氏は、まだ出馬表明もしておらず選挙プログラムも出していないので、あくまでもそう発言しているという段階である。
■フランスメディアがゼムール氏に熱狂している
しかし、ゼムール氏に一番熱狂しているのは、フランスのメディアかもしれない。
フランスでは平時より、政治家のテレビ上での発言時間は、CSA(放送行政監督機関)の監督の元、計測の対象になっている。政治的な立場が違う人々の意見が公平に流されることを目的とし、テレビ局は発言時間が一定に分配されるようにする規則だからだ。ゼムール氏に関しても、出馬してはいないものの政治的な議論の当事者とみなされ、テレビ局における発言時間の計測も開始されている。この結果、毎日出演していたニュース専門地デジ局CNewsへ出演も今まで通りにはできなくなった。
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