時代劇の灯は消えるのか(上)年末年始の風物詩について その1
Japan In-depth / 2021年12月17日 10時14分
「そんなに金がないなら、接待役など最初から引き受けるな」
ということであったというのが、歴史家の間ではそれこそ定説になっている。百歩譲って、ケチだ貧乏だと言われて喜ぶ人はいないと理解できても、勅使到着寸前の殿中において目上の高齢者に切りつけるなど、言語道断。当時の法理に照らせば、浅野内匠頭は切腹、播州赤穂藩はお家断絶というのは、至極まっとうな判断に過ぎない。
ところがこれも、批判の対象となった。
「神君(徳川家康)以来の公法は、喧嘩両成敗であったはず」
というわけだ。ケンカではなく一方的な刃傷沙汰であったのだが、これも「仁政」「文治」の思わぬ副産物と考えれば、意外と分かりやすい話になってくる。
端的に言えば、ここ数年、交通事故や新型コロナ禍による医療崩壊に際して起きた「上級国民」バッシングと同じ構図なのだ。「上級国民」は悪質な事故を起こしても逮捕されず、病気になれば優先的に入院できるという、例のやつである。
江戸幕府が、多くの大名を取り潰し、その結果、浪人と呼ばれる失業者が大量に生まれた。
貧困に追いやられた彼らにとっては、今風に言えば「幕府の高官」であるところの吉良上野介が、刃傷に際してなにひとつ反撃しなかったのは「武士にあるまじき振る舞い」で、にもかかわらず浅野内匠頭だけが切腹を命じられたのは、これまた今風に言えば、武士の世界も格差社会だったから、というように受け取られたのである。
この結果、本来は「負け組の暴発」に過ぎないテロ事件が、主君の無念を晴らすべく身を捨てての仇討ち=吉良邸討ち入りという美談に作り替えられてしまったのである。
したがって私は、忠臣蔵、もとい「赤穂事件」には同調も同情もできないのだが、単に時代劇の題材として考えれば、こんな面白い話はまずないだろうと思う。前にも触れたが、登場人物が多士済々で最後は派手なチャンバラが見られるからだ。
史実との整合性を云々するのは、こと時代劇に関しては野暮でしかない、という考えもある。そんなことを言い出したなら、水戸黄門こと徳川光圀など、諸国漫遊どころか本当は生涯を通じて、水戸と江戸以外で暮らした経験が絶無に近い。資料で確認できるのは、若い頃に鎌倉を訪ねたことくらいである。
次回はこのドラマを中心に、別の角度から時代劇の面白さを考える。
(その2に続く)
トップ写真:1962年の映画「忠臣蔵」の1シーン 吉良上野介(初代松本白鸚)に斬りかかる浅野内匠頭(加山雄三) 出典:Photo by Toho/Getty Images
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