殺人事件に発展することも「境界トラブル」の解決法
JIJICO / 2014年9月24日 10時0分
殺人事件に発展することも「境界トラブル」の解決法
公法上の境界と所有権の境は必ずしも一致しない
先日、境界トラブルを原因とする隣人同士の殺人未遂事件がありました。怖い話ですが、日頃、境界トラブルの相談を受ける弁護士からすると、このような事件報道にもそれほどの驚きはないかもしれません。それは、境界トラブルの当事者が抱える感情の大きさを実感しているからです。
実は、一般に「境界」と呼ばれるものには2種類あります。1つは、公法上の境界(筆界ともいいます)といって、国により確定されたものです。もう1つは、私法上の境界(所有権界ともいいます)で、土地の所有権の境を示すものです。弁護士などが「境界」という場合には、前者を指すことが多いのですが、この意味での境界は、国が定めたものですから、当事者が勝手に話し合いで定めることはできません。他方、所有権界については、単なる所有権の境の問題ですから、当事者が話し合いで自由に定めることも可能です。
公法上の境界と所有権の境は一致するのが理想なのですが、現実はそうとは限りません。たとえば、あなたが境界を超えて長年、隣の土地を占有していたという場合、時効取得により、境界を超えた他人の土地があなたのもの(所有地)になることがあります。この場合、土地はあなたのものになりますが、それによって境界が変わるわけではありません。公法上の境界はあくまで、元の場所のままです。そのため、境界と所有権の境を一致させるためには、現在隣の人の名義になっている土地の部分を分筆した上であなたに所有権移転する必要があるのです。
境界トラブルの多くは、所有権界の問題が本題
さて、では、境界をめぐるトラブルが生じた場合、どのように解決すれば良いでしょうか。境界トラブルの多くは、公法上の境界自体が問題になっているわけではなく、自分の所有地がどこまでかという所有権界の問題が本題です。その解決のために公法上の境界を確定したいという場合が多いのです。
所有権の境を決めるだけなら、当事者同士の話し合い、それでもだめなら第三者に入ってもらう簡易裁判所の調停手続なども利用できます。最終的には、所有権の範囲を確定させる裁判もできます。しかし、所有権の境の問題と公法上の境界がどこかという問題が密接に関係している場合には、公法上の境界を定めてもらう必要があります。この場合、1つの方法は、境界確定訴訟を行い、裁判所に決めてもらうことですが、裁判なので費用面を含めてややハードルが高く、解決まで数年かかることも珍しくありません。
そこで、平成18年に筆界特定制度という境界確定のための新たな制度ができました。この制度では、法務局に申請すれば、土地家屋調査士などの筆界調査委員が測量や現地調査などを行い、最終的に筆界特定登記官が筆界を特定してくれます。申請自体は比較的簡単で、申請手数料も数千円で済むことが多いですが、2つの点に注意が必要です。1つは、調査のため測量が必要になればその費用(数十万円程度)がかかること、もう1つは、この制度で筆界が特定されても、それに不満な当事者はいつでも境界確定訴訟ができてしまうことです。この場合には最終的な解決にならず、結局、訴訟が必要になります。
隣人と円満な関係にあるうちに境界標を設置しておく
ただし、境界確定訴訟になっても、前述のとおり、境界紛争の多くは、結局、自分の所有地がどこまでかという争いですから、訴訟の中で、所有権の範囲について和解が成立して、そのまま訴訟が終了してしまうことも多いのが特徴です。
以上のように方法はいくつかありますが、最も良いのは、境界トラブルを事前に防止することです。明確な境界標がない場合には、隣人と円満な関係にあるうちに、測量を行い登記簿面積や公図などと比較しながら、境界の場所を確認する書類に互いに署名押印して、境界標を設置しておくことをお勧めします。
(永野 海/弁護士)
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