ヘイトスピーチ、法規制の難しさ
JIJICO / 2015年1月26日 11時0分
ヘイトスピーチ、法規制の難しさ
大阪市、日本政府に先駆けて独自にヘイトスピーチ規制策を模索
近年、街宣活動などで特定の人種や民族の差別を扇動する「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)が大きな問題となっています。橋下徹市長の下、大阪市では、弁護士などから構成される市の審査委員会がヘイトスピーチを独自認定した上で、事案を市が公表し、是正勧告を行ったり、ヘイトスピーチの被害者の訴訟費用を市が貸与するなどの対応策を検討しています。なぜ、大阪市はこのような対応策の検討を迫られたのでしょうか。
日本は、人種差別撤廃条約に批准しているものの、現時点で、ヘイトスピーチ自体を規制する法律などはありません。そのため、国連の人種差別撤廃委員会も、昨年8月に、日本政府に対し、ヘイトスピーチに関して、差別を禁止する法律の制定を行うよう勧告しています。このような中で、大阪市は、日本政府に先駆けて、独自にヘイトスピーチに対する規制策を模索しているわけです。
特定の団体や人物に向けられた場合には、現行法で規制が可能
ヘイトスピーチの規制の難しさは、冒頭のような街宣活動が人種や民族といった「一般的・抽象的な対象」のみに対して行われたときに如実に表れます。つまり、ヘイトスピーチといわれる差別的表現や憎悪表現も、人種や民族といった不特定な対象だけでなく、学校法人などを含む特定の団体や特定の人物に向けられた場合には、現在の日本の法律でも十分規制が可能です。
例えば、日本の市民団体が朝鮮学校(小学校)による隣接公園の不正使用に抗議し、授業中に校門前でヘイトスピーチ(街宣活動)を行った事件の刑事裁判では、ヘイトスピーチが特定の団体に向けられていたために刑法の威力業務妨害罪や侮辱罪が適用され有罪が確定しています。
民事裁判では、人種差別に該当する違法性を帯びているとまで判示
また、同じ事件の民事裁判では、上記、街宣活動でのヘイトスピーチやその際の動画をインターネット上に掲載した行為などについて民法の不法行為が成立するかが争われました。これも特定の団体(学校)に向けられた差別的言動であったため、業務妨害、名誉棄損と評価され不法行為の成立が認められています。
この判決では、「わが国の裁判所は、人種差別撤廃条約上、法律を同条約の定めに適合するように解釈する責務を負う」と明確に言及した上で、この事件での被告らの行為を、単に業務妨害や名誉棄損と認定するだけでなく、「人種差別撤廃条約1条1項所定の人種差別」とした上で、人種差別に該当する違法性を帯びているとまで判示したことが注目されます。
規制する法律をすぐに作れば万事解決というわけではない
もっとも、前述のとおり、上記事件のような処理は、被害者が特定の団体だったために可能だったものであり、ヘイトスピーチの対象が人種や民族といった抽象的なものにとどまる場合には直接的な規制は難しいのが実情です(ただし、街宣活動について騒音規制条例などの適用はあり得ます)。
とはいえ、ヘイトスピーチを規制する法律をすぐに作れば万事解決という単純なものでもありません。ヘイトスピーチをいかに定義するか、規制が拡大され「表現の自由」を侵害することがないか、国家権力による濫用を防止できるか(例えば、政府を批判するデモを規制するなど)など、とても難しい問題も抱えています。
冒頭の大阪市の政策にしても、本当に実効性があるのか、行政が特定の当事者に肩入れするものではないか、など議論すべき点があります。ヘイトスピーチの一般的な規制には、まだまだ議論が必要な状況にあると思います。
(永野 海/弁護士)
この記事に関連するニュース
-
維新が「選挙妨害」で改正案 「法律の範囲内」の主張に具体的行為を明記、罰則強化 東京15区補選受け 7月都知事選までの実現目指す
zakzak by夕刊フジ / 2024年5月8日 11時47分
-
選挙妨害、規制強化の動き=自・維前向き、慎重論も
時事通信 / 2024年5月7日 19時0分
-
なぜ「つばさの党」は逮捕ではなく、警告なのか…「選挙妨害は逮捕しろ」という主張に決定的に欠ける視点
プレジデントオンライン / 2024年5月1日 17時15分
-
【攻撃的な選挙演説】衆院補選での行為は是か非か?対策は?元検事『国家権力はできるだけ政治・選挙に介入しないのが原則』さらに「法改正は劇薬」とする見解も
MBSニュース / 2024年4月30日 17時17分
-
マジョルカ、チュアメニに対するサポーターの人種差別行為を確認…特定へ関係各所との協力を明かす
超ワールドサッカー / 2024年4月15日 8時0分
ランキング
-
1みそ汁に虫が混入 給食の提供を中止 野菜を4回以上洗浄したが除去できず 浦添市の7小学校
沖縄タイムス+プラス / 2024年5月9日 6時59分
-
2五輪マラソンメダリストを書類送検、駅構内で駅員らに平手打ちか…ケニア国籍のワイナイナ元選手
読売新聞 / 2024年5月9日 13時20分
-
3環境省、大臣に批判やまず 「大きな問題になるとは」
共同通信 / 2024年5月9日 19時21分
-
41都3県で余罪200件か 横浜市のマンションに侵入しバッグなどを盗んだ70歳の男を逮捕 集合住宅の1階や2階の無施錠の窓から侵入し犯行繰り返す 神奈川県警
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月9日 11時4分
-
5「自傷するなら山奥で」 精神科看護師が患者に暴言
共同通信 / 2024年5月9日 21時57分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください