裁判員の死刑判決破棄、問われる制度の意義
JIJICO / 2015年2月11日 17時0分
裁判員の死刑判決破棄、問われる制度の意義
裁判員裁判による死刑判決を変更
裁判員裁判によって死刑判決が言い渡されたものの、高裁がこれを破棄し無期懲役とされていた2件の強盗殺人事件について、最高裁は、今月3日、いずれも上告を棄却しました。これにより、高裁による無期懲役の判決が確定することになります。また、9日には3例目となる決定もなされました。
裁判官だけで判断する二審や最高裁で、裁判員裁判による死刑判決を変更する今回のような問題をどのように考えれば良いでしょうか。
裁判員が関与した判決を変更してはならないというルールはない
日本の裁判員制度では、市民が裁判員となって裁判に関与するのは一審のみです。そして、裁判員が関与して下された判決について、裁判官だけで構成される二審や上告審がこれを変更してはならないというルールはありません。そのため、今回のように、裁判員が関与した死刑判決が控訴、上告されて無期懲役に変更されることは、もともと裁判員制度が予定している流れとも言えます。
しかし、いざこうした裁判員判決の破棄事案が続くと、市民の側からすれば、「何のための裁判員制度?」「それなら最初から裁判官だけで決めれば良いのでは?」といった疑問が出るのも当然かと思います。
「市民感覚」より過去の量刑とのバランスや公平性の観点を重視
さて、そもそも裁判員裁判では、どのように量刑(どのような刑を言い渡すか)が決められるのでしょうか?基本は、裁判官と裁判員の総数からの過半数の意見で決めます。ただし、その過半数意見には、裁判官と裁判員が最低1人ずつは入っていなくてはなりません。このため、裁判員裁判で死刑判決が出たということは、全体の過半数の意見であっただけでなく、少なくとも裁判官の1人は死刑判決を支持していたことになります。
にもかかわらず、今回の最高裁の判断では、裁判員を通じた「市民感覚」よりも、過去の事例で選択されてきた量刑とのバランスや公平性の観点を重視したわけです。また、今回の最高裁の言葉からは、死刑という最高刑を選ぶ際には、特に慎重に他の事例とのバランスを重視すべきである、という判断が伺えます。
当然のことながら、裁判員にせよ裁判官にせよ常に真理を導ける神様ではありません(だからこその三審制でもあります)。だとすれば、裁判員裁判の判決が変更されたというだけで、制度を批判するのは少々乱暴でしょう。また、裁判員や裁判官の構成により、同じ事案なのに大きく判決が異なる制度というのも、裁かれる側からすれば大問題です。過去の事案との均衡や、これまでに蓄積された基準の尊重も、ある程度はやむを得ないと思います。
「厳罰化を求める声」に正面から応える判断を示すことも必要
しかし、他方で、裁判員制度を創設し市民の感覚を刑事裁判に取り入れようとした趣旨は十分に生かされなければなりません。その中で、特に、近年、ますます高まっているように思える「厳罰化を求める声」をどのように考慮していくかが問われているように思います。
もっとも、そうした裁判員制度の趣旨を前提としても、特に死刑という峻厳な刑罰を選択する以上、裁判員による判断が、過去の事例や基準と大きく異なる場合には、「なぜ死刑判決なのか?」について、十分に説明できるだけの論拠は示されなければならないと思います。
また、逆に、裁判官だけで判断される上級審側も、裁判員判決の中で十分な論拠が示されている場合には、「過去の事例との均衡」という「お決まりの常套句」だけで片付けるのではなく、市民に対して、正面からその問いかけに応える判断を示していくことが、今後の裁判員制度の深化、発展を考えれば不可欠です。この両面から、今回の事件を改めてしっかりと検証していくことがとても重要でしょう。
(永野 海/弁護士)
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