治療の帰りに食べたくもない弁当4つを“また”万引き 裁判で語られた彼女が「盗み続ける理由」
TABLO / 2019年8月5日 15時40分
今江ひろ子(仮名、裁判当時56歳)が初めて万引きをしたのは約15年前、40歳くらいの時でした。それから何度も万引きを繰り返し、前歴8件罰金前科1犯という犯歴を重ねました。それでも彼女は再び万引きで逮捕され正式裁判で裁かれることになってしまいました。
今回、彼女が万引きをしたのは弁当4つ、販売価格合計3600円です。目撃者であり逮捕者でもある店員さんの話では、
「人目もはばからず堂々と持参の紙袋に商品を隠しこんでいた」
ということでした。
犯行当時の状況については彼女も、
「盗ってる時は周りにたくさん人も従業員もいました。防犯カメラがあるのもわかっていました。見つかるかもしれないとは思ってました」
と供述しています。
また弁当を万引きした理由については、
「何故弁当を盗ったのかはわかりません。お金には困っていません。食べたいとも思ってませんでした。その時は家の冷蔵庫に食べ物も入ってました。4つも一人で食べきれないですし、家に持って帰っても多分棄てたと思います」
と話していました。
万引きという行為自体にスリルを感じて欲しくもないものを盗んでしまう、という人もいますがそういうタイプでもないようです。
何度も万引きを繰り返す彼女はクレプトマニア(窃盗依存症)を疑われ、専門の病院に通院していました。しかし医師の話では、
「クレプトマニアの診断基準を満たしてないですし、病気としては認められない」
ということでした。彼女も自分をクレプトマニアだとは思っていません。
それでも病院に通ってグループミーティングに参加したり治療を受けていましたがその効果はなかったようです。今回の犯行は病院の帰りに立ち寄った店での万引きだったのです。
参考記事:病気なら万引きしても仕方ないのか 元マラソン選手・原裕美子さんの判決公判に裁判傍聴人が感じること | TABLO
なぜ突然万引きするようになったのか?
「刑務所に行くのは怖いです。でももう私は刑務所に入らないとわからないんだと思います」
と話してはいましたが、刑務所に行ったからといって万引きをやめられる保証もありません。
40歳頃に初めて万引きをするまで、1度も万引きをしたことはなかったそうです。そんな彼女が何故万引きをしてしまうのでしょうか。
万引きを繰り返すようになる前、彼女は夫と二人でドイツで生活をしていました。しかし、妊娠・出産をきっかけに夫をドイツに残して帰国することを選択しました。それが転機となりました。
「ドイツで息子を産んで帰国してきた頃からひどいうつになりました。抗うつ剤と睡眠薬とアルコールと…自分が何をしてるのかわからなくなるようなことはありました」
生活環境が変わったこと、初めての育児、そんな要因で心のバランスを崩してしまったのかもしれません。夫はドイツにいて、親族とは縁が切れていた彼女には困った時に頼れる人もいませんでした。
帰国してきてから数年後、彼女は唯一そばにいる存在だった息子を幼くして亡くしてしまいました。
「息子を亡くしてからはいつも自己嫌悪に苛まされていて、自暴自棄になってたと思います」
この頃から彼女は日常的に万引きを繰り返すようになりました。
証人として出廷したクレプトマニア患者の支援団体の方は、
「彼女の場合、病気というより自分を壊したいというような破滅衝動があってそれが万引きにつながったんだと思います。話を聞くかぎりとても孤独な生活をしているようです。まずは孤独にならないように話をよく聞きたいと思ってます」
と話していました。
実際に彼女は病院以外ではほとんど人と話さない生活をずっと送ってきていました。
「最近、誰かの前で感情をあらわにしたことってありますか?」
と裁判官に聞かれた時には、
「ないですね…一人でいる時に勝手に涙がでてきて止まらなくなることはあります」
と答えていました。
彼女は万引きで何を手に入れようとしたのでしょう。盗んでも盗んでも、失ってきたものはもう取り戻すことはできません。それでも盗まずにいられないという彼女の背負った業は、裁判所が下す刑罰よりもよほど大きなもののように思えます。(取材・文◎鈴木孔明)
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