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なぜ海難事故を防げたのか? 沖縄土着の霊能者「ユタ」インタビュー

TABLO / 2014年10月23日 16時0分

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 前回お伝えした「海難事故を予知したユタのA氏」に、ユタについて色々と伺ってみた。私のような実証主義に偏った人間でも興味深く聞ける内容なので、オカルトに嫌悪感を持っている方にこそ読んでみて欲しい。

※ただし、以下はA氏の主観のみで語られている内容なので、同じユタという肩書を持つ人間でも、違う答えが返って来る場合があります。またA氏は沖縄の方言が強いため、解る範囲で筆者が標準語に直しています。もしかすると誤訳があるかもしれませんが、その点は予めご了承ください。

ーーそもそもユタとはどういう存在なんですか?

「一番近いのはシャーマンや霊能者かな? 今はどれだけ本物がいるか知らないけど、イメージとしては恐山のイタコとかね。カミサマから力を預けられたひとだよ」

ーーユタは沖縄にしかいないんですか?

「沖縄とか、あの辺りの島にしかいないみたいだね。それに沖縄から離れたら力がなくなると考えてるユタが多くて、あまり島から出て行きたがらないんだ。だから昔はユタは風土病だと言う説もあったんだよ。他には両親や祖父母から役目を受け継ぐ場合が多いから、遺伝子の病気で幻覚が見えてるだけだなんて言われることもあるね。昔は病院で色々な検査を受けさせられたひともいたそうだけど、脳の動きが普通じゃないってところまでしか解らなかったんだって」

ーーユタの役目とは何でしょう?

「カミサマから預かった力を、世のため人のために使うのがユタの役目。だから私利私欲のためだけに使う、例えばお金儲けとか、ひとを騙したりとか。そういうことをしたらカミサマに怒られちゃう」

ーーでもユタって料金設定がありますよね?

「そりゃ生活しなきゃならないから、お金を貰う場合もあるけど、あんまりふんだくるとカミサマが怒るよ。少しなら許して貰えるけど、あんまりたくさんはダメ」

ーーAさんの言うカミサマってどういう概念なんでしょう? 何か怖い目に遭わされるんですか?

「そりゃおっかないよ! 常にカミサマに見られてるし、神垂れの時に酷い目に遭ったもん!」

ーー神垂れ?

「ユタになる時って、まず神垂れ(カミダリ)が起きるの。何か原因不明の健康不良が起きたり、周囲の身近な人間が不幸になったり、ひとによって様々。そういう良くない出来事が有り得ないくらい立て続けに起きるのがユタにならなきゃいけないって合図なんだけど、それに逆らうとおっかないことになるんだ。ユタになりたがらなくて発狂しちゃったひととか、原因不明の突然死をしちゃったひともいるよ」

ーーAさんもそういう怖いことが起きたんですか?

「ボクの時は、突然カミサマらしきひとが現れて『ユタになれ』と言われたところまでは覚えてる。そのあとは記憶が途切れ途切れなんだけど、何日間か高熱が出て朦朧として、最後は夢遊病になっちゃったみたい。ウチの家系にはユタが多くて、周りにすぐ気付いて貰えたからマシだったけど、とにかく怖かったことだけはハッキリ覚えてる」

ーーその神垂れというのが起きて、どうすればユタになれるんでしょう? ユタになれば不幸が止まるんですか?

「カミサマに『ユタになります。預かった力を人々の役に立てます』と誓って修行を始めるんだ。気付くと神垂れも終わってる」

ーー修行ってどんなことをするんでしょう?

「それは教えられないよ。ただ沖縄のあちこちの島にユタの修行場があるんだけど、そういう場所は入っちゃダメ。もし観光地じゃない変な場所に立ち入ろうとして現地のひとに怒られたら、その時は素直に出て行って。何か怖いことになっても責任が取れないから」

ーーでは具体的に、Aさんにはいったい何が見えているんですか? 例の船の事故の時とか、どこまで見えていたんでしょう?

「あの事故の時は船が燃えてるのが見えたよ。未来を見る時は日めくりカレンダーをめくっていく感じで、1ページめくるごとにその日に起きることがバ~っと出て来るんだ。現場に居合わせたみたいに見える時もあるし、ニュースや報道番組を見てる感覚の時もある。でも、いくつもある選択肢のどれを選んだらどの道に行くっていう枝分かれがあるから、情報量がとても多いんだよ。だから訓練して本当に見るべきものだけ見るようにしないと発狂しちゃう。そういうのも修行の内に入ってるの。気にしなきゃいけないモノと、気にしちゃいけないモノの区別の付け方とか」

ーー未来を予知して、それを変える事ができると考えてよろしいですか?

「違う違う! 未来を変えるなんて事は試すのもダメ。例えば100才まで生きるひとを50才で死なすとか、その逆とか、それはユタがやっていい範囲を超えちゃってる。ボクやボクの家族がやるのは、悪い何かが憑いてるなと思ったらお祓いをするとか、何かその人の人生の分かれ道が見えた時に、どういう道を選ぶべきかアドバイスをするとか、そういうところまで。事故の時は大変な事になりそうだったからお守りを渡したりもしたけど、それも未来を変えるんじゃなくて、あれ以上悪いものが寄らないようにするため。結局はボクのアドバイスを聞いたひとが自分で判断して良い選択肢を選んでくれないと何にもならない」

ーーそういえばユタは女性しかなれないと聞いた事があるんですが

「それは祝女(ノロ)とかじゃない? 琉球の神事をやってた巫女さん。でもも今は琉球という国がないから、その血筋のひとも在野に下りてるんじゃない? ユタは昔から男性もいたよ」

ーー根本的な話かもしれませんが、ノロとユタの違いって?

「どちらも神人(カミンチュ)だけど、祝女は琉球の儀式とか、そういう公のことをやるひとかな? ユタは市井で人々の相談を受けたりアドバイスしたりするひと。お役所と民間企業だよ(笑)」

ーーユタでお金を貰うのは制約があると仰ってましたが、それで食べていけますか?

「ユタは職業じゃないかもよ? 普段は自給自足の生活をしていて、ひとが訪ねてきたら見てあげるとか、普通に別の商売やってるひともいるし。ユタだけで贅沢な暮らしができてるひとは危ないかもね」

ーービジネス色が強いとカミサマに怒られるんですね?

「そうじゃなくて、そういうひとはユタかどうかわからない。本当にカミサマの力を預かっているなら、カミサマの言い付けに逆らえないはず。だからカミサマが絶対に怒るようなレベルの贅沢をしてても平気なユタがいたらおかしい。考えられるのは、そのひとはカミサマに怒られない立場のひと、カミサマから力を預かっていないひとってこと。ようは偽物かもしれないってことさ」

ーーユタを名乗っているひとの中で、偽物・詐欺師の割り合いってどれくらいなんですか?

「そこまではわからない。評判の悪いユタなら具体的に何人か知ってるけど(笑)。昔から霊感商法に騙されたとか、たくさんお金を脅し取られたとか、そういう苦情が多いみたいだよ」

ーーユタにとってカミサマってどう怖いんですか? 殺されるとかたたられるとか?

「とにかく怖い。おっかない。ユタには絶対にしちゃいけないことがいくつかあるんだ。さっき言ったあまりにも酷いお金儲けとか、ほかには自分で自分を見るとか。そういうことをしようとすると、怖い!怖い!怖い!って感情しか湧かなくなっちゃう。上手く言えないけど、死ぬ死なないの恐怖とは少し違うと思うな」

ーーAさんのような当たるユタと知り合うにはどういう場所で調べればいいんでしょう? Aさんはネットで検索しても何も出ていませんよね?

「そりゃそうさ。誰か人づてに頼まれたとか、直接の知り合いとか、そういう偶然に縁が出来たひとしか見てないもの。自分にとってユタが本業なのかって言われたらどう答えていいか解らない。もし必要があったら勝手に繋がるから、無理に調べてあっちこっち行くことはないよ。 変なひとに騙されちゃうかもしれないし」

ーー勝手に繋がるとは、自然と出会えるとか、そういう意味でしょうか?

「そうだよ。そのひとに本当にカミサマのアドバイスが必要だったら、何もしなくても勝手に縁が繋がって良いひとに会えるんじゃない? あなただってユタを探してボクと知り合った訳じゃないでしょ。だからそういう出会いがないというなら、それはそのひとにアドバイスは必要ないってことじゃないかな」

ーーでも悪い出来事が重なって心を病んでしまって、藁にもすがりたいのに良い出会いがないってひとも多いと思いますよ?

「じゃあ沖縄に旅行に来た時に、地元のひとと仲良くなって聞いてみる? ただユタを嫌ってるひとも多いから、ユタの話をして嫌な顔をされたらしつこく聞かない方がいいよ。そういうのも全部カミサマが決めてるんだから、強引なことはするだけ無駄だと思うけどなあ。それにボクらは他人の未来は変えられないからね? さっきも言ったけど、最終的にはそのひとの努力とか、心がけ次第なんだから」

ーーところで、そんな消極的なユタ活動でもカミサマに怒られないんですか? もっと積極的に世の人を見てやれとか。

「今のところは何もないよ。怖い目にも遭ってないし。でも、もしカミサマにもっと大勢のひとを見てやれって怒られたら、その時は改めるよ(笑)」

 A氏との会話で印象に残っているのは、金儲けにまったく興味がない(むしろタブーと考えている)という点と、とにかく "カミサマ" という存在に対する恐れ(畏れ)が強いという点だった。ただ、A氏が何を指してカミサマと呼んでいるのかは最後まで解らなかった。おそらくA氏にとって、カミサマとは感覚として感じる 「常にそこにいるモノ」「常に自分を見ているモノ」なのだろう。

 最後に私見を述べさせていただくと、詐欺やインチキを嫌うあまり、非科学的な事象すべてを頭ごなしに全否定するのでは面白くない。このA氏のような特に害のない人物なのであれば、ひとまず認めてしまった方が心にアソビが出来て良いのではないかと思う。

 A氏は「1年間の内200日くらい大地震が起きると予言している預言者」などとは違い、これというモノが見えた時でもない限り何かを押し付けてくるタイプではない。そもそも自分から金銭を要求しないし、必要だと思わない限り何も言って来ない。ついでに言えば有名になりたい、TVに出たいといった野心もなさそうだ。そんな人物がまるで見て来たかのように海難事故を事細かに言い当てたのだから、よくいる下手な鉄砲を打ちまくって、たまたま当たった時だけ大騒ぎするタイプのインチキとは違うと考えるべきだろう。

 ユタや霊能者の類に依存し過ぎるのはよろしくないが、「人知の及ばないモノもある」という考えを頭の片隅に置いておく方が、自分自身の思い上がりを戒めることにもなるだろうし、かえって健全なのではないだろうか?

 ちなみに、私がA氏に将来のアドバイスをいただいた際に、特に強く言われたのはこのような内容だった。

「アンタはね、○○ちゃん(女房)に捨てられたり別れたりしたら、ホームレスやることになるよ。アンタがスケベ心を出して浮気して、愛想尽かされて出て行かれて、何も上手く行かなくなって、助けてくれるひともいなくなって、ダンボール抱えてホームレスになる道も見えてるから。 アンタが何とかやっていけてる理由は、○○ちゃんに守られてるからだってことを忘れちゃダメだよ」

 ここまで言っておいてなんだが、このユタはインチキに違いない。

Written by 荒井禎雄

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