鳥取の看護師6人一斉辞職騒動の裏にうごめく「介護業界の地獄絵図」
TABLO / 2015年6月17日 16時5分
鳥取県の県立養護学校の看護師6名が一斉に退職するという騒動が起こった。医療面でのケアを行う看護師がいなくなってしまったため、それを必要とする児童は保護者同伴で登校するか、学校外のデイケア施設に教員が赴く形で授業を行っているという。また、そのどちらも選択できない児童は授業を受けることができずにいる。
●児童の保護者に強くなじられるなどの受難
この学校には、登校に医療的なケアを必要とする児童が9人おり、それ以外にも日常の学校生活にサポートが必要な生徒が約30名在籍。それを非常勤の看護師6名で受け持っていたが、それでも人数が足りず、常にオーバーワークの状態で働いていたようだ。そんな中で児童へのケアが遅れたことを保護者に強くなじられるなど、看護師達の受難が重なり、6名が一斉に退職するという残念な結果となってしまった。この一件に対し、鳥取県の教育委員会は看護師の不足や体制の不備を認めている。
さて、これは何故か世の中に浸透していない情報なのだが、ハンデを持つ子供のケアや、老人介護の現場は、今やどこも地獄絵図となっている。養護学校か訪問ヘルパーなどの介護職かで違いはあるが、どちらも仕事は肉体的にも精神的にも辛く、労働時間も長く、さらに残業を言い渡されても他人の命が絡む仕事だけに断り切れず、かといって残業代が払われるとは限らず、それにもかかわらず薄給である。
また、ここから先は気を悪くする方もおられるだろうと前置きした上でお話するが、介護の業界は薄給&過酷という労働環境の酷さから "他でも通用する人材" から先にいなくなるという展開に陥っている。それを補填するために「頭数だけ合えばいいだろう」と、胡散臭い筋から他に行き場がないような未経験者を入れる施設や業者が増えてしまった。
人材派遣業者を通しても、条件面でどうしても折り合いを付けられず、他に選択肢もなくヤクザ者のピンハネ屋のような業者を入れてしまった現場すらある。そうした場所ではただでさえ人数が足りなくて過酷なのに、仕事場の同僚を誰一人信用できないという、地獄以外に表現のしようがない状況になっている。このまま悪化が進めば、介護職はブラックな派遣会社でもない限り手を出せない職業と化すだろう。それでは専門知識や技術を持つスタッフなど集まる訳がない。
例えば、これはあくまで例えばの話ではあるが、何より自分に医療的ケアが必要じゃないかと思えるほど心を病んだ女性や、常に誰かをイジメていないと気が済まない人間性に問題のあるオバハン、そして離婚歴2桁の女性に、窃盗癖のある家出少女などが回している現場で、マトモな介護が受けられると思うだろうか。あまりにも悪い言いようだと自覚しつつ筆を進めるが、しかしそれが業界の現実になってしまっているのである。看護師の退職などまだマシで、最も怖いのは素人しかいない現場で人災的な事故の犠牲者が出ることだ。
私がチラっと見知っているのは民間業者の話で、特別支援学校などの状況はそれほど詳しくないが、教員経験のある知人によると、苛酷さは学校も民間の介護職も大差はないようだ。よって、今回の看護師の一斉退職に対して 「無責任だ」と批判する気にはなれない。
退職を決めた方の中には、自分自身が壊れてしまうギリギリまで戦い抜いて、それでも力及ばず逃げるしかなかった方もおられるだろう。また、助けが必要な子供を置き去りにして自分だけ逃げることに心を痛めている方もおられるだろう。だが、養護・介護の現場は、そんな良心や善意を持った人間から順番に死んで行くような状況なのだ。逃げられるタイミングがあるならば、自分の命や人生を守るためにも、一時撤退も仕方ない選択だと言うしかない。間違っても、辞めざるを得なかった人間を安易に批判すべきではない。ハンデを持った子供や老人の命と看護師やヘルパーの命に差を付けるような言動は慎むべきだろう。誰も死にたくて働いている訳ではないのだ。
現在、衆院を通過しそうな『労働者派遣法』の改正案があちこちで取り上げられているが、人の命を預かるこうした業界の過酷・劣悪な労働環境についても、もう少し議題に上がってもいいのではないかと思う。今考えるべきは環境の改善であって、心身をすり減らした看護師やヘルパーを取り囲んで「シネシネ」と罵声を浴びせることではないはずだ。
Written by 荒井禎雄
Photo by 鳥取県立鳥取養護学校 Google Mapより
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
羽田美智子 2年前に父が他界、兄と母が先日骨折…命に寄り添う看護職を「心から尊敬」 看護イベント
スポニチアネックス / 2024年5月12日 14時50分
-
子ども虐待の通報件数は9.2倍に増加、要保護児童数は4万人超も「受け皿が不足」 “もうひとつの待機児童問題”に挑む拠点建設プロジェクトが支援を募集中
ねとらぼ / 2024年5月10日 10時30分
-
国境なき医師団で看護師として働く魅力とは? 5人の日本人看護師が語るリアル(前編)
国境なき医師団 / 2024年5月9日 17時44分
-
医療従事者の8割が辞職希望。中でも人手不足が顕著な看護師 看護師の資格・経験を活かし、異業種の経営者に転身できる働き方の提案を開始
PR TIMES / 2024年5月7日 12時45分
-
高校生の娘が「看護師」を目指しています。20代で「年収400万円」を目指せるようですが、激務とも聞くので心配です。やはりストレスなど大変でしょうか…?
ファイナンシャルフィールド / 2024年4月28日 2時10分
ランキング
-
1「Windowsがロックされました」ウイルス感染装う詐欺 広告押すとマウス操作不能に
J-CASTニュース / 2024年5月20日 12時0分
-
2日本はアメリカに奉仕する「デジタル小作人」である…巨大ITと正面から向き合わない岸田政権の大問題
プレジデントオンライン / 2024年5月20日 10時15分
-
3「コストコで買ってきたものを並べるだけ」でバカ売れ。大容量を使いきれない単身世帯からの需要も
日刊SPA! / 2024年5月20日 8時54分
-
4歌舞伎町「トー横」で一斉補導を取材中の女性記者に因縁か、暴力団組員を現行犯逮捕
読売新聞 / 2024年5月20日 11時23分
-
5寅子の言い方が「法律は…」から「法は…」に変わる深い意味 現役弁護士が感動した、寅子の視点が変わる瞬間
文春オンライン / 2024年5月20日 6時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください