偶然か、必然か…未解決事件の真犯人を奇跡的に描き出していた映画『殺人の追憶』|李策
TABLO / 2021年3月17日 9時8分
日本でも有名な韓国の猟奇事件「華城(ファソン)連続殺人事件」の真犯人、李春在(イ・チュンジェ)受刑者の8件目の殺人事件の犯人と誤認され、20年にわたり無実で獄中生活を送ったユン・ソンヨさん(54)に対し、韓国の水原(スウォン)地裁は先月19日、25億1700万ウォン(約2億4000万円)の刑事補償金を支給する決定を下した。
李春在が14人を殺害し、34件もの強姦および強姦未遂を行った同事件は、これを題材とした映画『殺人の追憶』(2003年)がヒットしたことで、日本でも広く知られることになった。また、監督のポン・ジュノが『パラサイト 半地下の家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドール、アカデミー賞で作品賞はじめ4部門を受賞したことで、世界的にも有名な事件となった。
韓流映画やポン・ジュノのファンの間では、『パラサイト』の成功後もなお、『殺人の追憶』こそが彼の最高傑作であるとする声が少なくない。そして、そうした根強い支持を支える要素の中には、『殺人の追憶』で描かれた容疑者像と、真犯人の類似性の高さがあるものと思われる。
一連の連続殺人とは別の強姦殺人(1994年)で無期懲役刑を受け、収監されていた李春在は2019年、進歩したDNA鑑定技術によって華城連続殺人の証拠と一致点が見つかり、自供に至った。
顔、出身地も同じ
これを受けて公開された高校生時代の写真、そして彼の素性に関する情報に接し、驚愕した映画ファンは少なくないだろう。映画の中で俳優パク・ヘイルが演じた有力容疑者パク・ヒョンギュのキャラクターと酷似していたからだ。
何よりもまず、顔が似ている。パク・ヘイルの方が男前ではあるが、目鼻立ちは「同じタイプ」と言えるだろう。
また劇中、ソウルから派遣されたソ・テユン刑事(キム・サンギョン)
はパク・ヒョンギュに対し、「お前が軍から除隊してここの工場に来た後から、地元で事件が次々と起きているんだ」と迫る。実際、華城の事件は李春在が軍を除隊し、帰郷した直後から起きていた。そしてなんと、李春在の出身地は、映画でパク・ヒョンギュの出身地として設定された所と同じだった。
一方、李春在は1986年5月に発生した6件目の事件以降、3回も捜査線上に浮かびながら、逮捕を免れた。原因のひとつは、8件目の事件(1988年9月)現場で採取された証拠の血液型鑑定だった。
国立科学捜査研究院が現場に落ちていた陰毛を鑑定したた結果はB型。李春在の血液型はO型だった。DNA鑑定の結果が一致せずパク・ヒョンギュに対する捜査が挫折した映画のストーリーと、よく似た経過を辿っていたわけだ。
警察のでっち上げ
当時の血液型鑑定は不正確だったことが後に判明しているが、この間違いにより犠牲者が生まれた。
無実でありながら投獄されたユン氏だ。ただ、8件目の事件は連続殺人とは別件であるとされ、李春在に対する疑いは残った。それでも、6件目の事件現場に残された足跡のサイズ(25.5センチ)と李春在の足のサイズ(26.5センチ)が異なっていたことなどから、捜査線上から遠ざかっていく。
ちなみに、映画にはパク・トゥマン刑事(ソン・ガンホ)が犯人の足跡をねつ造するシーンがあるが、ユン氏の不当逮捕の裏にも捜査当局による様々な「でっち上げ」があった。
それにしても、現実の事件と映画にここまで共通点が多いのは何故なのか。李春在が真犯人であると報道された後、その顔写真を見たポン・ジュノは「非常に奇妙な感じがした」と語っている。一方、映画制作にあたり多くの事件関係者をインタビューしたと明かしているものの、それで犯人像が見えた、といった趣旨の発言は見当たらない。つまり、李春在とパク・ヒョンギュの類似性は「偶然の産物」ということになる。まさに奇跡的な偶然だ。
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それでもここまで似ていると、ポン・ジュノら制作陣は関係者たちへの取材の過程で、無意識のうちに真犯人の手掛かりに触れていたのではないか、と思わざるを得ない。(取材・文◎李策)
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