バスが「スマホで呼べる」!? 仮想停留所は「8000か所」も! 「AIオンデマンド交通」導入で地方の交通はどう変わった?
くるまのニュース / 2023年2月6日 15時30分
長野県茅野市を走る交通サービスに全国の注目が集まっています。「AIオンデマンド交通」を大胆に導入してから約半年後の様子をレポートします。
■長野県茅野市の大胆な政策に地方都市交通の未来をみた!
八ヶ岳を望む、長野県茅野(ちの)市が2022年8月22日から社会実装した、AI(人工知能)を活用したバーチャル停留所方式のAIオンデマンド交通「のらざあ」に、全国から注目が集まっています。
社会実装から5か月以上が過ぎましたが、実際にどのような人が、どのような時間に、どのような場所と行き来しているのか、気になるところでしょう。
まずは「のらざあ」という言葉ですが、これは「乗ってみよう」という意味の方言です。
また、オンデマンド交通と言えば、ユーザーの要望に応じて自宅や自宅の近くまで迎えに来てくれる、乗り合い方式の交通システムとして数十年前から全国各地に普及してきました。
なかでも近年は、山間部で路線バスが廃止されてしまった地域で限定的に運用される、といったケースが多い印象があります。
最近では、AI(人工知能)を使って、複数の迎えに行く場所と複数の目的地との間を効率良く運行できるようなルートを計算し、それをドライバーに伝える仕組みが、ベンチャー企業が開発したシステムを用いて全国の数か所で始まっているところです。
そうしたなかで茅野市のAIオンデマンド交通、のらざあが注目されている理由は、市内の住民が多い地域のほとんどで路線バスを、のらざあへ一気に切り替えてしまったことでしょう。
茅野市の地図を広げてみると、JR中央本線の主要駅である茅野駅がある市街中心部と、主にその東側に拡がる住居地域があり、さらに市の北部には別荘地や登山などの観光スポットが点在しています。
のらざあ導入前まで、路線バスは、地元住民用の市街地のほか、定住者や二拠点利用者用の別荘地路線、そして登山などの観光客向け路線がありましたが、このうちの地元住民の利用が多いほとんどの路線がのらざあに転換したのです。
驚くのは、のらざあを乗り降りできるバーチャル停留所の数が、約8000か所もあることでしょう。
多くのバーチャル停留所が市街地とその周辺にあるということは、ユーザーにとっては、ほぼ自宅から駅、病院、銀行、役所、ショッピングセンターなどの目的地に行けますし、または目的地が友達の家だとしても、ほぼその場所に行くことが可能だということになります。
のざらあの運行は、地元の交通事業者である、アルピコタクシー、第一交通、諏訪 交通、茅野バス観光が共同で行い、AIに関するシステムは、アメリカVia Mobilityの日本法人が担っています。
料金は、3km未満が300円、3km以上5km未満が500円、そして5km以上が700円。また、75歳以上は一律300円、障がい者は上限300円で半額、小学生以下の子どもは半額、そして6歳未満は無料です。
運行時間は朝8時から夜19時まで。予約は専用アプリや電話で行い、予約可能なのは利用の1週間前から1時間前まで。
使用するのは、トヨタ「ノア」「ハイエース」「ハイエースコミュータ」など計8台です。
他の地域で展開されるAIオンデマンド交通の事例では、一般的に市街中心部で既存の路線バスを並存しながら、利用の様子を見て運行の区域を広げたり、台数を段階的に増やしていく流れが主流です。
それを茅野市のように、一気に路線バスから転換することに対し、全国の自治体や交通事業者が驚いているのです。
茅野市がこうした大胆な地域交通DXに踏み切ったのは、茅野市がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を重視する自治体だからだといえるでしょう。
■内閣府が推進する「デジタル田園健康特区」に選ばれた茅野市
実は、茅野市は内閣府が進める次世代のまちづくりを検討する「スーパーシティ」構想のなかで、現時点では全国で3か所しかない「デジタル田園健康特区」に選ばれるほど、地域DXに積極的な土地柄です。
では実際に、のらざあの利用状況について、茅野市から提供された詳細なデータを基に紹介します。
大型の路線バス車両ではなく10人乗り以下の車両を活用することで、普通2種免許による運行が可能となる利点も[撮影:桃田健史]
まず、のらざあ利用には事前登録が必要ですが、その数は2023年1月5日時点で6454人です。
年齢分布を見ると、20歳未満15%、20歳代11%、30歳代10%、40歳代14%、50歳代15%、60歳代11%、70歳代12%、80歳代10%、そして90歳以上1%。さらに、不明が1%となり、各世代で均等になっています。
ところが、予約件数を年利別で見ると、他の年代が1000件前後なのに比べて、80歳代は3603件、70歳代は2871件で、圧倒的に数が多いことが分かります。
また、予約方法でも年代で大きな違いが浮き彫りになりました。
スマホアプリの利用が20歳未満95.6%、20歳代95.8%で、この比率は年代が上がるにつれて減少し、60歳代は42.3%に。
それが、実際の予約件数が多い70歳代では18.1%、80歳代では4.4%となり、高齢者ではやはり電話への依存度が極めて高いことがはっきりと分かります。
また、登録者の居住地別では、市内在住66%、市外在住26%、市内別荘7%、そして不明が1%でした。
特に年末は、帰省する人によって市街在住の比率が上がりました。
次に利用者総数は1万5595人で、1台の車両に他の予約グループが乗り合う比率である「乗り合い率」は、11月と12月では32.2%となり、7割近くが乗り合わずにタクシーのように目的地へ直行していることが分かります。
利用者数を平日と土休日で分けてみると、12月は平日が約6割でした。
時間帯別では、平日は朝8時台が最も多く、次いで9時台、10時台となり14時頃までは安定して利用がありますが、15時以降ははっきりと減少する傾向にあります。
一方、土休日は8時台では平日の3分の1程度で、平日に比べると1日を通しての変化があまり大きくありません。
こうした利用時間の分布は、主な乗降場所に直接関係してきます。
最も多いのが茅野駅西口、次いで市街中心部にある諏訪中央病院で、茅野市東口、オギノ茅野ショッピングセンター、ショッピングサンターメリーパーク、茅野市役所と続きます。
その他では、医療施設や商業施設への移動が多くなりました。
移動距離としては、1km未満から10km以上と幅が広く、平均値をとると4.7kmとなっています。
こうしたのらざあの現状について、茅野市の関係者は「概ね想定通り」という感想を話しています。
ただし、「需要が多い時間帯には、運転手が休憩できないことも生じており、今後は運行関係者のより良い働く環境づくりと、利用者の移動の利便性とのバランスを上手く考えていきたい」とも指摘します。
このように、AIオンデマンド交通では、利用に関する細かいデータが収集できます。
茅野市はデータという確固たる「エビデンス(根拠)」に基づき、利用する人のみならずドライバーなど働く人も含め「人中心」という視点で、のらざあの改善を進めることになりそうです。
茅野市が展開する、のらざあの意欲的な取り組みに今後も期待したいところです。
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