「嘘のない報道番組」こそ地上波のキラーコンテンツだ
メディアゴン / 2017年2月18日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
「だいたい、番組のことを『コンテンツ』なんて呼ぶ奴が増えてからテレビがおもしろくなくなったんだよ」
これは筆者が敬愛する先輩テレビマンの根拠なき(統計やマーケティングがないという意味で)偏見である。偏見だが、これに賛意を表するテレビマンは多いのではないか。筆者はというと、全面的に支持は出来ない。
キラーコンテンツ(killer contents)という言葉がある。語義は以下である。
『特定の分野を普及させるきっかけとなるような、圧倒的な魅力を持った情報やサービス、製品のこと』
ある分野において、集客する力のある魅力的な情報やソフトウェアなどのことだ。例えば、テレビ放送における、スポーツの人気チームの試合放映などがそれに該当する。
その「キラーコンテンツ」をサッカーJリーグ戦の放映権としていたのが、衛星有料放送「スカパー!」である。そして先日、筆者はこの「スカパー!」を解約した。広報誌など含めて7692円であった。理由はキラーコンテンツがなくなるからである。
様々な情報を総合すればスカパーに代わって放映権を得たのは英国の動画配信会社「パフォーム」社。リーグ戦は今後、同社の定額動画配信サイト「ダ・ゾーン」で生中継される。
今回の交渉で、パフォーム社がJリーグ側に提示した独占放映権料(地上波などでの一部の無料放送を除く)は、10年間で2100億円。Jリーグ側の17年度の放映権収入は、前年の約50億円から3倍以上の176億8200万円に急増した。
【参考】<伝え方の難しさ>テレビが真実を伝えたら、視聴者に真実として伝わるのか?
「スカパー!」では、昨年末からの1カ月間に約10万件の解約が発生した。全契約件数の3%にあたる。なぜ、「パフォーム」社はJリーグをキラーコンテンツと判断して10年間で2100億円もの放映権料を払うのか。
キラーコンテンツたるものにあってはならないのはヤラセやウソである。スポーツコンテンツにはウソがない。いまや世の中でホントだと言えるのはスポーツの対戦だけと言っても良いかも知れない。八百長だけを厳に監視しておれば良い。後はホントだ。ウソに倦んだ視聴者がホントを見るにはスポーツを見るしかない。
地上波でキラーコンテンツたり得るのは「報道」であると思う。まず、地上波が現在構築している取材体制にネットメディアなどが追いつくのは容易なことではない。優位なのは地上波だ、ヤラセやウソが忍び込んでくることを最も厳密に禁じられるのは報道局だ。
ドラマは当たっても3カ月で終わる。バラエティは女子どもしか寄せ付けない。
報道をキラーコンテンツにするために必要なのはスタッフの力である。その力を結集することである。正社員、契約社員、派遣スタッフ。その中には残念ながら「未だに」を「今だに」と書く人がいるのは事実だ。だがこれらの間違いは上の者が丁寧に指導すればいい。自然にスタッフ力は上がっていく。継続は力だ。
ところがこうしたスタッフのがんばりをヘナヘナと萎えさせてしまうのは、往々にして出演者である。こんな例がある。
フジテレビ「ユアタイム」のキャスターを務める市川紗椰氏が私企業キリンビールのCMに出演している。
日本テレビ「バンキシャ!」とTBS「あさチャン!」の夏目三久キャスターが、こちらは冒頭で触れた「スカパー!」のCMに出ている。
【参考】露骨なステマで崩れ落ちた「報道ステーション」の信頼感
事実を報じることが使命のキャスターは自分の番組に、利益誘導の疑いや、不祥事隠蔽の疑いがかけられることがあってはならず、その嫌疑をかけられないためにも、良心的ニュースキャスターなら、私企業の商業CMには出ないのが倫理である。自らのジャーナリズムの正当性に影を投げかけることになるからである。
テレビ局との契約書に禁止事項として書かれていないからCMをやっているという主張もあろうが、これは契約以前の倫理である。私はモデルだから、私はタレントだから、ニュースをやっているつもりはないと主張することも出来るが、それこそ悪あがきにしか見えない。
彼女らに求められるのは「長いものに巻かれる主義」ではなく、「李下に冠を正さず(誤解を招く様な行動はすべきではない)」なのだと筆者は思う。
それでこそ報道番組はキラーコンテンツに成長する。
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