金正男氏暗殺で「朝鮮専門家の特需」に沸く日本の報道
メディアゴン / 2017年2月23日 7時50分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
2月13日にクアラルンプール空港で金正男氏(とみられる)北朝鮮国籍の男が暗殺されて以来、日本の報道は朝鮮特需に沸いている。毎分視聴率がいいのだろう。トップは連日、金正男氏暗殺報道である。
もちろん、日本の報道がこの背後にあるものを、調査報道として独自情報を提供することはきわめて難しい。しかし、スパイが暗躍するこの事件はきわめて下世話でドラマのようにおもしろく視聴率を取る。
それでもやっぱり、出来るだけ長く放送したいというモノだ。そんなとき頼るのは、「朝鮮の専門家」のコメントになる。
これら、朝鮮の専門家による第1回目の「朝鮮特需」が起こったのは2002年9月17日。平壌を訪問した小泉純一郎首相が、朝鮮民主主義人民共和国国防委員長・金正日国防委員長との日朝首脳会談で日朝平壌宣言を結んだ時である。(今は有名無実化している)
この時、「こんなに日本には朝鮮の専門家がいるのか」と思うほどの多彩な人物が、メディアやテレビに登場した。第1次朝鮮特需である。
その後の交渉で、北朝鮮が生存していたとした5人の拉致被害生存者については、一時帰国を条件に2002年10月15日に帰国が実現した。この時、日本の報道は「これはあくまで北朝鮮側の主張である。他にも生きている人が存在するのではないか」とはっきり主張すべきであったと思うがそれは出来ていたのだろうか。
【参考】<北朝鮮で生存する30人の日本人>日本政府認定の拉致被害者も複数存在?
空港に到着した帰国者をタラップをのぼって迎えに行ったのは現在の安倍晋三首相である。この時タラップをのぼる安倍さんの心中を慮って、筆者は、安倍さんはきっと「次の、いや、次の次の総理は俺だ」と一歩一歩タラップを踏みしめながらつぶやいていると想像したが、その通り希望は叶った。
メディアはそれまで「朝鮮民主主義人民共和国・北朝鮮」と表記するのが決まりだったが、そのころから、「北朝鮮」だけで良くなった。
このとき、「専門家の朝鮮特需」は長いこと続いた。彼らの情報源はアメリカルート、韓国ルート、朝鮮総連ルート、中国ルート、極細いロシアルート、よど号グループルート、北朝鮮の出版物・放送分析ルート、脱北者ルートなど様々あったが、とくにアメリカルートと他のルートは専門家は仲が悪かったと記憶する。
日本のメディアでは共同通信が平壌支局をもっているが、日本人スタッフはおらず北朝鮮人のスタッフが運営している。ということで、日本の報道が北朝鮮の事情を独自取材する力はきわめて低い。今回の金正男氏暗殺報道でも同じだ。
マレーシア政府の発表を出来るだけ早くつかんで報道することと、朝鮮専門家の新たなスターを見つけることくらいである。
今回の報道できちんと伝えなければならないのはマレーシア政府の毅然たる北朝鮮への対応である。遺体引き渡しの拒否を、ディズニーランドにやって来た金正男氏を送還せざるを得なかった日本政府は出来るのか。4人の容疑者引き渡し要求は出来るのか。なぜこのような対応が出来るかについては特派員が取材できるのだからやって欲しいものだ。
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