「私たちに不可能なんてことはない」Ahonen & Lamberg 来日インタビュー

NeoL / 2022年12月5日 17時0分

フィンランド出身のAnna AhonenとKatariina Lambergにより、2006年に創設されたパリ拠点のデザインスタジオ「Ahonen & Lamberg」。雑誌・SSAWのデザインを行うほか、カルヴェン、ミュベール、ジョンローレンスサリバンなど数々のファッションブランドのビジュアルデザインやロゴ制作なども手がけてきた。2006年から時を経て、16年間デザイン業界の変化を肌で感じてきた彼らに、女性デザイナーであること、消費サイクルが速まる世の中においてデザイナーとして意識すべきことなど話を聞いた。

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ーまずはおふたりの出会いについて伺いたいです。

Katariina Lamberg「実はパリを拠点にする前からフィンランドで会っていて、その後パリでも再会する機会があったんです」

Anna Ahonen「2006年に雑誌『Self Service』でお互い働いていたことが、一緒にスタジオを立ち上げるきっかけになりましたね」

― 2006年にスタジオを立ち上げたそうですが、家族でも友達でも恋愛でもない関係性を長きにわたり継続させているユニットもなかなか珍しいですよね。

Katariina「私たちも驚いてる（笑）いい意味でね。いま改めて思うと、仕事仲間として出会っていた出発点がそうさせているのかもしれないです。よく会う親友のような関係からスタートしていたら、やっぱりここまで長く続かなかったかもしれない」

Anna「プロジェクトのアイデアやコンセプトを話すとき、まずふたりで連携してからクライアントとも一緒に考えていけるようにしていて。でも、実行に移すときはそれぞれの仕事を分担してそれぞれの役割を担っているよね」

Katariina「そうだね。リサーチやブレインストーミングの段階は一緒にやるけど、パンデミック中にリモートワークにしたことで、プロジェクトや期間に応じて、作業を分担しています」

THE SISTERHOOD

― お互いに相手が得意にしていることを教えてください。

Katariina「とても興味深い質問ですね。『なんでも一緒にやってるのですか』と聞かれることが多いから」

Anna「Katariinaは、どんな問題に対しても他の人が問題を認識する前に、常に解決策を持っていて。しかもそれを見事に数学的な考え方でやってのけるんです」

Katariina「そうだね……（笑）。私の場合はより分析的で、Annaはもっとエモーショナルな部分で考えることを得意にしていますね。そうやって私たちは性質的には違うし、物事の捉え方も違う。だからこそ、うまくいくんです。、お互いにクリティカルに向き合っているので、アイデアを練る中で相手を納得させなければいけません。お互いに仕事仲間としてリスペクトがあるからこそ、このプロセスや関係性はとても大切なことだと思っています」

― それぞれ異なる性格ということですが、例えば展示や映画を一緒に観に行った時の意見もまったく違うものですか？

Katariina「あんまり普段一緒に展示に観ること自体少ないけれど、今回の来日のように遠出した時は一緒に行くこともあるよね。同じ展覧会でも時間が違えば、全く異なる感想を持つこともあって」

Anna「そうだね。視点が違うこともあるけど、必ずどこか共通する好きな感覚やテイストはあります。逆にそういった美的感覚や哲学的な面で違いがあったら、デザインスタジオとしてこれまで成り立ってなかったかもしれません」

― これまで幅広いジャンルのクライアントとお仕事されてきましたが、どのようなポイントで受けるか受けないか決めていますか？

Katariina「あまりNOと言う場面はないですね……」

Anna「すごくありがたいことだよね」

Katariina「私たちのスタイルや人間性を知っている人たちが、今までの仕事内容を評価してくださっていることが多いよね。彼らは自分たちのプロセスの一部として私たちに声をかけてくれます。また、小さなデザインスタジオとの仕事は、大手広告代理店とのアプローチとは違ってくる」

Anna「私たち自身も、異なるクライアント、ジャンルと新しいチャレンジとして仕事するのが好きなので、常にオープンマインドでいることを大切にしていますね」

Katariina「もちろん新しいジャンルのクライアントとの仕事はチャレンジになりますが、同時に私たちにとってもエキサイティングなことでもあります。私たちは長年にわたってフォトグラファー、スタイリスト、プログラマーなどさまざまなプロフェッショナルとネットワークを築き上げてきたので、それぞれのプロジェクトに最適なチームを見つけることができるのです」

― さまざまなネットワークを生み出すには、遊ぶことも大切だと思いますか？

Anna「もちろん。遊ぶ中で得るものがクリエイションにつながる場合もあります。新しい人たちと出会うことも好きです。一緒にいても、別々にいてもね」

Katariina「昨日の夜は、一緒に東京のハロウィンパーティに繰り出しに行ったよね。とっても楽しかった（笑）」

PRINTEMPS

― ひさしぶりの日本はどうでしたか？

Katariina「振り返ってみたら、最後に来日したのは2014年だったんですよね。当時はよく来日していたから、そんな長らく日本を訪れていないなんて思わなかったんですけど。当時に比べると日本は、外部に対してオープンになったなと感じます」

Anna「それはなぜかパリも同じくで、みんなフレンドリーになっているというか」

― 少し話が飛躍しますが、都市の開発や価値観のアップデートが行われると、地方都市との乖離が発生してきますよね。東京にいる限り、人権やジェンダーの平等性が強く謳われているように感じますが、地方に行くと必ずしも同じ熱量じゃないように感じます。

Katariina「興味深いですよね。中央部が盛り上がると、その周縁は反比例的にコンサバティブになるのかもしれません。それはとても怖いことです」

― 2006年から女性デザイナーとして活動する中で、業界のジェンダーバランスについてどのように感じていますか？個人的には「女性」デザイナーと形容すること自体もあまり言いたくないのですが。

Katariina「2006年以降、全体的に大きな変化が起きていると思いますね。グラフィックデザインの分野では、以前であれば大手広告代理店や古い価値観など非常に男性的な世界でした。数年前までは、有名なグラフィックデザイナー、編集長、アートディレクターのほとんどが男性でした。いまでは全く思いつかない光景ですよね」

Anna「そうだよね。当時を振り返ると、この数十年かけた変化は素晴らしいものだと思います」

Katariina「一方で、状況が良くなったとはいえ、まだ完全に平等になったわけではないとも感じています。例えば、アートディレクターとして活躍している男友達から、（少し前ですが）『こんな若い女の子二人が会社を経営するなんてありえないよ』なんて言われたこともあります。彼は肯定的な意味で悪気なく冗談のようにいったのですが、それでも違和感がありました。性別は関係ないはずですよね。
男性だけではなく、その眼差しは女性からも向けられることもありますね。『会社経営しているのに、お子さんいるの？！』と驚かれて。シングルマザーとして会社を経営するなんて不可能じゃないんですよ」

Anna&Katariina「C'est la vie〜！（セ・ラヴィ/これぞ人生〜！）」

― C'est la vie〜！（笑）私もクリエイティブ業界で働く中で、そのような眼差しを感じることもありますが、おふたりの姿勢を伺ってポジティブになれました。デザイン業界自体は、どのような変化があったと感じますか？

Katariina「私たちのクライアントでも音楽業界はかなり変化したと思いますね。以前は、バイナルやCDなどのパッケージデザインを多くデザインしていました。でも、いまデジタルが主流になったことでデザインのフォーマットがまったく違うものになってる」

Anna「いまでも紙の雑誌との仕事をしているけど、最近は印刷物がレアなものになってきているよね」

Katariina「印刷物には環境問題としての視点も出てきたよね」

SSAW

― 最近は落ち着いてきていますが、2010年後半を席巻したロゴブームについてはどう感じていましたか？

Katariina「いまに始まったことではありません。80年代後半〜90年代前半には、カッパやラコステなど色々なブランドがロゴを刷新していて」

Anna「単純にサイクルだと思います」

Katariina「ファッションのトレンドは何度も回帰していくもの。でも、明らかに年々そのサイクルのスピードが速くなっていることも同時に感じていてトレンドがより早く繰り返されているのがわかりますね。ファッションブランドが、以前は年に２回のコレクション開催だったけれど、多いところでは年に６回コレクション発表をしていて、それ以上の場合もある。さらに、その間にさまざまなスペシャルプロジェクトを行なっていますよね」

― もう少し遅い方がいいと思いますか？

Anna&Katariina「そうですね。今のスピードが決してポジティブだとは言えなくて」

Anna「もちろん作業としては速くできますが、時間をかければかけるほど、デザインが仕上がるまでのプロセスを楽しめるんですよね」

Katariina「仕事内容にもよりますが、もしクライアントのデザインアイデンティティやロゴを制作するとなると、プロセスに時間をかけることが理想的ですね。ビジュアルに落とし込めるように、相手が考えている本質やストーリーについて、しっかりと時間をかけて理解する必要があります。そういう意味では、荒士（ジョンローレンスサリバンのデザイナー・柳川荒士）は、ムードボードやキーワードを使って仕事をしていますが、彼が取り組むプロセスにはとても感謝しています」

― 誰でもツールを手に入れ、Youtubeで簡単に使い方を勉強できる時代だからこそ、デザインについて改めて問い直す時代にも突入しているのかもしれませんね。

Katariina「デザイナーは、どんなツールやメディアを使うにせよ、クライアントのアイデンティティや未来に向けたデザインについて、より大きな時間軸で考える必要があると私たちは考えています」

― 今後ローンチするプロジェクトがあれば、教えてください。

Anna「色々あるけど、まだ言えないものが多いよね。雑誌『SSAW』の最新号がそろそろ出版予定なので、ぜひ書店でみてください」

Katariina「そうだね。言えることとすれば……来年20周年を迎える、ジョンローレンスサリバンのために色々と計画中！ぜひお楽しみに！」

JOHN LAWRENCE SULLIVAN x Ahonen & Lamberg CAPSULE COLLECTION

text Yoshiko Kurata（https://www.instagram.com/yoshiko_kurata/）

Ahonen & Lamberg
Ahonen & Lamberg は、2006年にフィンランド人デザイナーのアンナ・アホネンとカタリーナ・ランバーグによって設立されたパリを拠点とする複合的なデザインスタジオ。
アートディレクション、クリエイティブコンサルティング、グラフィックデザインを中心に、グローバル企業、雑誌、ラグジュアリーブランドから若手アーティスト、ファッションデザイナーまで幅広いクライアントを持つ。
スタジオの目的は、印刷物、デジタル、製品、環境など、あらゆるメディアを通じて、クライアント特有の世界観を表現すること。仕事の核心に迫るリサーチと分析のプロセスに基づき、絶え間ない対話を行います。クライアント固有の背景や哲学、そして各プロジェクトのニーズを探ることで、革新的でテーラーメイドのクリエイティブ・ソリューションを生み出します。
Ahonen & Lamberg のデザイン理念は、クラシカルなデザインとオルタナティブなデザインのバランスをとることであり、常にエレガントでわかりやすく、かつ驚きに満ちたトーンを創造することです。

HP : http://www.ahonenandlamberg.com/
Instagram : https://www.instagram.com/ahonen_and_lamberg/

Ahonen & Lamberg is a Paris-based design studio founded in 2006 by Finnish art directors Anna Ahonen and Katariina Lamberg. They have been designing magazines, currently SSAW, as well as doing visual and logo design for numerous fashion brands such as Carven, Diesel and John Lawrence Sullivan. We asked them about being female designers and what they think designers should be aware of in a world of fast-paced consumption cycles.

- How did you meet at the first time?

Katariina Lamberg: Actually we met already in Finland before moving to Paris. And then, we met again in Paris, where we both were already living.

Anna Ahonen: We both worked in Self Service magazine before we started our own design studio in 2006.

- You have been working together already 16 years!

Katariina : We are surprised too! In a good way. Maybe we are still working together because we started to work together before becoming close friends. If we had started working together being already friends the situation might be different.

Anna : We work closely together when discussing ideas and concepts for the projects, and then with our clients.
But when we do execution we can separate the work and have different roles in the process.

Katariina : We do the research and brainstorming together, but also work remotely after learning that during the pandemic. We share the work depending on the project and timeframe.

THE SISTERHOOD

- Could you explain what each other is good at?

Katariina: That is a very interesting question because many times people ask us if we do everything together.

Anna : I feel that Katariina always have a solution for every problem, even before anyone else even recognizes the problem — and she does it in a beautifully mathematical way.

Katariina：Yeah, okay…I tend to be more analytical, and Anna handles the more emotional parts. Our minds are different and we see things in different ways. That is why it works. We are very critical towards each other and one has to convince the other before moving forward with an idea. We have a big respect towards each other, that is very important.

- As you mentioned, both of you have a different perspective, so when you visit some art exhibition or watch a film do you end up appreciating different things?

Katariina：We don't often visit art shows together. It happens when we travel, but not really in Paris. We can go to see same exhibitions but different times, and we can absolutely have different thoughts about them.

Anna: Yes we can. But even though our perspectives can be different, of course there is a common taste that we share. If we had big aesthetic or philosophical differences, we would not be here.

- How do you choose your clients and projects?

Katariina：It is quite rare that clients come to us and we have to say no…

Anna : We have been very lucky with that.

Katariina：It seems that people find us for what we do and who we are, and they already appreciate our work beforehand. They choose us to be part of their process. Also, it’s a different approach to work with a small design studio than a big advertising agency for example.

Anna : Also we are very open about the fact that we love to work with different clients, different fields and new challenges.

Katariina：It can be challenging to work with a client in new field, but it is also very exciting for us. Over the years we have developed a large network of professionals like photographers, stylists and programmers, so we can always find a perfect team for each project.

- Do you think it is important to play around to make new networks?

Anna : Sure. We like to go out and get inspired, meet new people. Together and separately.

Katariina: We went to a Halloween party together in Tokyo last night. It was a lot of fun! (Laughing)

PRINTEMPS

- Do you feel any different from the last time you came to Tokyo?

Katariina：The last time we visited in Tokyo was in 2014. Before we came here very often, and we didn’t even realize it has been that long! I think Tokyo feels somehow more open and international.

Anna : You can feel the same happening in Paris. People are more open.

- The topic jump a bit, but when the development and value of the central city develops, it can create a gap from the suburb. Now, we hear the voice of the rights and gender equality in Tokyo or Paris, but maybe it doesn’t happen outside the cities.

Katariina：Interesting. The central cities are doing better with the privileged bubbles, but on the other hand outside of these bubbles people might be more and more conservative. That's very scary.

- Do you feel any change in the situation of gender equality in the design industry as a female designer? I don’t want to judge to say female or male designer thought.

Katariina：Since 2006, there has been a big change in general. In the field of graphic design, it used to be very masculine world of big advertising agencies and old school values. Some years back, all famous graphic designers, editor in chiefs and art directors were men. And now it's not the case anymore.

Anna : Absolutely. There has been a change. That is great.

Katariina：Still though, we are not yet equal, even if the situation has changed for better. For example, our friend – a successful male art director – once sais to us: “How is it possible that two young women are running their own company?” He said it in a positive tone, as a joke, but still it was strange. Gender shouldn’t matter here. Often we have been also surprised (by women too) by comments like “You have kids even though you run your own company?!” It is possible to run your own business being two independent mothers!

Anna & Katariina : C'est la vie~!

- C'est la vie~! I feel the same situation while working in the creative industry, but I feel positive from your comments.

Katariina : As our client, the music world has changed a lot. We used to design a lot of CD and Vinyl covers. But now it's digital and the format is completely different.

Anna : We still work for paper magazines, but less and less things are being printed these days.

Katariina : There’s also the ecological point of view with the printing.

SSAW

- Logo boom happened until recently. What did you think about it as designers?

Katariina : It's not a new phenomenon. I remember Kappa, Lacoste etc logos everywhere in late 80s and early 90s.

Anna : It’s just recycling.

Katariina : Fashion world has always recycled everything, and now the cycle is getting faster and faster, you can see trends repeating more quickly. Also the pace is very fast, fashion brands used to have two collections per year, but now it’s more like six collection or even more. Plus you have different special projects in between.

- Would you like things to be slower?

Anna & Katariina : Yes. We don’t think that the current speed is positive.

Anna : We can work fast too, but we enjoy the process much more if we are able to take time for it.

Katariina : It also depends on the project, if we are working on a visual identity for a brand, it is ideal to have time for the process. Also for the client to understand their identity and story before we can put it in a visual form. With Arashi (creative director of John Lawrence Sullivan) we work with mood boards and keywords and we appreciate the working process with him.

- Now everyone can learn how to use the design tools that is digital, so it may be that we are entering an era in what design is.

Katariina : In our opinion, designers need to think a bigger time frame for the client’s identity and design for the future — whatever tools or media is used in the process.

- Do you have any upcoming project?

Anna : Yes, many, but nothing we can mention yet. The new issue of SSAW magazine, that we design, is out now, check it out, you can find it in the Tokyo bookstores.

Katariina : Well… John Lawrence Sullivan’s 20 years birthday will be next year, so we are planning to celebrate that with Arashi!

JOHN LAWRENCE SULLIVAN x Ahonen & Lamberg CAPSULE COLLECTION

text Yoshiko Kurata（https://www.instagram.com/yoshiko_kurata/）

Ahonen & Lamberg
HP : http://www.ahonenandlamberg.com/
Instagram : https://www.instagram.com/ahonen_and_lamberg/