「カネ不足」に悩むISISの経済危機
ニューズウィーク日本版 / 2015年10月6日 18時30分
テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)は昨年6月、イラクとシリアの広大な領域を制圧し、イスラム国家の樹立を宣言した。このとき彼らは支配下に置かれる人々に約束した。
「これはムスリムの国だ。抑圧されたムスリム、孤児、夫と死別した女性、そして貧困にあえぐ人たちのための国だ」
ISISの「報道官」を名乗る人物は、イスラム法に基づく統治を行う「政府」の方針をそう説明した。「イスラム国の人々は生命と財産の安全を保障され、(従来の国境を越えてビザなしで)自由に移動できる」
ISISの支配地域の事実上の首都となったシリア北部の都市ラッカは当初、お祭りムードに包まれた。それからほぼ15カ月。ISISもまた、世界中の新政権が例外なく悩まされる現実に直面している。公約を掲げるのは簡単でも、実現は困難を極めるという現実だ。
「ISISは貧しい人々の味方だと言い、彼らにカネを与えると約束したが、そのカネで武器を買っている」と、歯科医志望のサイフ・サイードは批判する。
サイードはISISの支配下に置かれたイラク北部の都市モスルの大学に在籍していた。だがイラク政府がそこで取得した学位を公認しない方針を打ち出したため、首都バグダッドに脱出した。
油田の制圧で資金源を確保できると踏んでいたISIS。しかしその後、想定外の事態が相次いだ。石油の国際価格は急落。追い打ちをかけるように、ISISの拠点と石油関連施設を標的にした米軍主導の有志連合の空爆は激しさを増した。
流入する資金が減ったため、ISISは支配地域で暮らす推定800万人の住民から重税を取り立てるようになったと、専門家は言う。支配地域の住民の証言もそれを裏付けている。
医師や技術者が次々に逃げ出していることに加え、女性の就労が厳しく制限されていることも経済の足を引っ張っている。
こうした要因が重なって、ISISの支配地域では戦闘員と住民の所得格差が広がり、住民の不満が高まっている。
「住民は税金の支払い、とりわけ(ISISがさまざまな名目で取り立てる)罰金の支払いに苦しんでいる」と、モスル在住の30歳の医師アフメドは証言した(彼は反ISIS組織に参加しているため、実名を伏せて電子メールで取材に応じた)。
弱者救済の寄付金も流用
昨年6月にISISが制圧するまで、モスルの人口は約200万人だった。医療、交通、水道、電気など市の公共サービスの利用料金はISISの支配が始まってから大幅に上がった。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
パレスチナ、財政破綻に直面=イスラエルの歳入移転減額で―世銀
時事通信 / 2024年5月24日 21時41分
-
【動画】イラク:復興の道のりを歩む都市モスル 国境なき医師団は、いつも必要とされる場所に──
国境なき医師団 / 2024年5月24日 12時28分
-
イスラエルはハマスの罠にはまった...「3つの圧力」に追い込まれたネタニヤフ、ガザ戦争の出口は見えず
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月21日 17時16分
-
ミャンマー、ロヒンギャが犠牲か 反軍政が攻勢、西部の町を制圧
共同通信 / 2024年5月20日 18時33分
-
イスラエル軍、ガザ南北で攻撃強化 ラファで国連職員死亡
ロイター / 2024年5月14日 10時7分
ランキング
-
1欧州3カ国、パレスチナを正式承認=イスラエルは反発
時事通信 / 2024年5月28日 21時25分
-
2北の「軍事偵察衛星」打ち上げ失敗、ロシア支援の新型エンジンに問題か…韓国の専門家の見方
読売新聞 / 2024年5月28日 19時18分
-
3「民間人保護」要求高まる=国際社会、一斉に批判―ラファ空爆
時事通信 / 2024年5月28日 20時40分
-
4イスラエル軍、ラファ中心部に到達か=避難民密集地に新たに攻撃と報道
時事通信 / 2024年5月28日 23時38分
-
5《ボーイフレンドも毒牙に…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の死亡が確認「男女見境ない」暴力の地獄絵図
NEWSポストセブン / 2024年5月28日 11時21分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください