成人したら国外退去、中米の子供たちの末路
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月26日 15時30分
<密入国した未成年者が18歳でアメリカを追放に。だが故国で待つのはギャングによる脅迫と暴力だ>(写真は、カリフォルニア州で開かれた不法移民の子どもたちの強制送還に反対する集会)
今年1月の寒い朝、ノースカロライナ州に住むウィルディン・アコスタ(19)は学校へ行こうと自宅を出た。その瞬間、待ち構えていた移民関税執行局(ICE)の職員3人に手錠を掛けられ、車に乗せられた。
ホンジュラスから移住した両親を追って、危険な旅の末にアメリカに不法入国したアコスタにとっては、残酷な出来事だった。未成年(18歳未満)でなくなったため、国外退去処分の対象となったのだ。
アコスタが密入国したのは14年。その年、アコスタと同じく成人の同伴者なしに、メキシコ国境を超えてアメリカに入った未成年者の数は7万人近くに達した。
米税関・国境取締局によれば、昨年10月~今年7月までにメキシコ国境から不法入国した未成年者は5万人弱。中にはわずか5歳の子供もいる。
中米各国ではギャング団の激しい抗争が続く。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が14年に発表した調査によると、11年10月以降に中米諸国からアメリカに密入国した未成年者の58%が、故国で横行する暴力を密入国の理由に挙げた。
【参考記事】ヨーロッパを追われアメリカに逃れるロマの人々
オバマ政権は、過去2年間に未成年者として不法入国し、その後に成年に達した若者の国外退去を最優先課題に掲げている。だが故国へ送り返されれば、ギャングに加わるか、殺されるか、二つに一つだ。
ICEは昨年、同伴者なしで不法入国した中米出身者1000人以上を強制送還した。そのうち、ホンジュラスへ戻された者は400人を超える。
ホンジュラスでの生活は恐怖の連続だ。対立するギャング団「マラ18」と「マラ・サルバトルチャ」がのさばり、麻薬取引絡みの流血事件を繰り返している。さらに近年、彼らは地元住民に「戦争税」の支払いを要求し、払わなければ拷問または殺害すると脅している。
脅迫を逃れるために故国を離れた者が送還されれば、組織の標的にされる。特に狙われているのがキリスト教の信者だ。
ギャングは長年、キリスト教信者を不可侵の存在と見なしていた。だが次第に教会を敵と捉えるようになり、信者は攻撃のターゲットになった。
送還されれば殺される
敬虔なキリスト教福音派信者の一家に生まれたアコスタもそうだった。17歳のとき、おじと2人のいとこが教会に通っているとの理由でマラ18の下部組織に殺害された。教会へ行くのをやめないなら、次はおまえの番だと警告されたという。
怯えたアコスタは母親と相談し、アメリカへ行くことにした。密入国業者には、アメリカに入ったら国境警備隊の元へ出頭しろと言われた。メキシコとカナダの出身者を除く未成年の不法入国者は、アメリカ国内の家族または後見人に引き渡される規定になっているからだ。
送還されれば殺されると、アコスタは恐れている。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが指摘するように、腐敗まみれのホンジュラスの警察は頼りにならない。一方、ホンジュラス当局は14年以降、身元保護を口実に児童保護団体による送還者の受け入れを禁じている。
アコスタは現在、ICEの施設に収容されている。今年6月の卒業を目指して学校の課題を施設宛てに送ってもらっていたが、卒業はかなわなかった。
今は、いつ送還されるかと不安を募らせる毎日だ。「常に命の危険を感じている。僕の夢は打ち砕かれてしまった」
[2016.9.20号掲載]
スティーブ・フィッシャー
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