トランプとキヤリア社の雇用維持取引は詐欺だ
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月9日 17時38分
企業の海外移転の影響を抑制するための方策は他にある。例えば、850人の雇用を守るために費やした700万ドルを全従業員の職業訓練に活用することもできた。どうせいずれは工場閉鎖に追い込まれるのだから。
【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク
海外移転に勤しむ企業に税制優遇措置を与えるより、労働者の再訓練を目的にしたプログラムを支援する方がよっぽど賢い公共投資だ。再訓練をすれば労働者は新しい仕事を見つけ、生産性を高め、キャリアの構築にもつながる。そうした人材に投資するタイプの投資は、労働者の長期的な経済的安定を確立するのにも役立つ。
労働者がより現代的な仕事に適した訓練を受ければ、経済全体が上向く。かつて鉄鋼業などが盛んだった「ラストベルト」と呼ばれる地帯で、成長率の高い産業を生み出して全体の需要を底上げする。インディアナ州の経済に必要なのはこういう取引だ。長期的な利益がないのに税収をみすみす逃し、労働者やその家族を置き去りにするのは得策ではない。
アメリカ大統領に就任すれば、トランプはこの種の課題に何度も遭遇するはずだ。今回のトランプの対応からは、彼が労働者世帯をないがしろにする米企業との取引を好み、労働者の人的資本やアメリカ経済全体の増強につながる投資を控えようとする姿勢が鮮明になった。
そのうえ、大企業が気前のいい連邦政府や州政府との場当たり的な取引を求めるあまり、労働者の雇用を人質に取るのを助長するような、悪しき前例を作ってしまった。
ビジネスの世界ならそれでいいかもしれない。だが国を動かすのに、トランプ流は通用しない。
アンジェラ・ハンクス(米国先端政策研究所副参事)、ケイト・バーン(同エコノミスト)
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