日中間の危険な認識ギャップ
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月23日 18時55分
しかし、誤解は中国側だけにあるのではない。日本では、習近平はいつも歴史問題で日本に厳しいという認識がある。例えば、二〇一四年一二月、中国は初めて南京大虐殺犠牲者追悼式を開催した。また歴史問題か、と顔をしかめた日本人もいたことだろう。しかし、そこで習近平は何を語ったのか。「少数の軍国主義者が侵略戦争を起こしたからといって、その民族を敵視するべきではない。戦争の罪の責任は少数の軍国主義者にあるのであって、人民にはない」。毛沢東や周恩来らが唱えた、戦争責任者と一般国民を分ける「二分論」を否定する言説すら出ていたここ数年の状況を、元に戻したのである。
あるいは、二〇一五年五月、習近平は日中観光交流の夕べ(中国の呼称は「中日友好交流大会」)で演説した。二階俊博総務会長(当時)が、三〇〇〇人以上の日本人を率いて訪中した際のイベントである。そこで習近平は、「皆さんを通じて、多くの日本の人民に心からのご挨拶と祝福の言葉を申し述べます......日本国民もあの戦争の被害者です......子々孫々の世代に至る友好関係をともに考え、両国が発展する美しい未来をともに作りだし、アジアと世界の平和に貢献しなければなりません」と述べている。しかし、「侵略行為を歪曲、美化しようとするいかなる発言や行動も、中国国民とアジアの被害国の国民はこれを認めないし、正義と良心をもった日本国民もこれを認めないことを信じます」という一文もあった。日本の一部のマスメディアはそこを捉まえ、「歴史歪曲許さない 習主席」という見出しをつけて報じたのだった。
【参考記事】米中、日中、人民元、習体制――2017年の中国4つの予測
恐ろしいほどの認識ギャップの多くは、情報ギャップから生じていると言ってよいだろう。ここで、マスメディアが果たしている役割は大きい。先の日中共同世論調査によれば、中国人の八九・六%が日本についての情報を自国のニュースメディアから得ている一方、日本人の九五・八%が中国についての情報を自国のニュースメディアから得ているという結果が出た。ここで興味深いのは、自国メディアの報道が客観的で公平だと考える日本人が二〇一五年に一九・五%だったのに対し、中国人の七五・九%がそう考えていたことである。中国人のメディアリテラシーは、国内報道については相当高いと言われるものの、ナショナリズムが高まっているせいもあるのか、国際報道については批判的な受け止め方が少ないようだ。
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