1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

「遺伝」という言葉の誤解を解こう――行動遺伝学者 安藤寿康教授に聞く(その1)

ニューズウィーク日本版 / 2017年2月21日 15時10分

例えば、肥満傾向の強い遺伝子セットを持って生まれた人が痩せようと思ったら、そうでない人に比べて相当頑張らないといけないということです。

誤解されがちなんですが、持って生まれた性質は絶対に変わらないということではありません。あくまでも今のある社会における相対的な位置が、その社会で取りうる環境資源のバリエーションのもとで、どの程度変わりやすいかということ。

仮に身長の遺伝率が100%だとしても、社会全体が飢餓状態から飽食の時代に変わるなど、集団が全体として変われば、身長は伸びます。だけど今のその集団の中にある栄養の取り方のちがいやダイエット法の選び方くらいでは身長の順位は変わらない。一卵性双生児はそれぞれ同じ順位のまま、身長が高くなるという意味なんです。



子どもは、どの程度親に似るのか?

――ただ、子どもがどういう遺伝子セットを持って生まれるかということに関して、親の遺伝子セットの影響もあるわけですよね?

安藤:はい、先ほど述べた遺伝率は、同世代の子どもにおいてどの程度遺伝子セットのバリエーションが現れてくるかを示しています。

一方、親の世代から子どもの世代へどうやって遺伝子セットが伝達されるかという話もあります。IQの場合、子どものIQは両親の中間値より平均寄りの値を取る確率が高くなります。例えば、両親ともにIQが120同士だった場合、その子どものIQは120ではなく、もうちょっと低くなる確率が高くなるわけです。同様に、両親のIQが80だったなら子どものIQはそれよりもよくなる確率が高くなり、こうした現象を「平均への回帰」と言います。

遺伝率の高い形質ほど子ども世代の分散は小さくなる、つまり親に似る可能性は高くなるとは言えます。ただ、これはあくまで確率の話ですし、そこに環境の影響も加わってきますから、子どもが実際にどんな形質になるのか事前に予測できるわけではありません。親に才能があるからといって子どもに才能があるとは限りませんし、親に才能がないからといって子どもに才能がないとは限らないんです。

――一口に人間の形質といっても、いろいろありますよね。知能や運動能力もあれば、性格もありますし、顔の美醜だってそうでしょう。どれも同じように親から子どもに伝達されるものなのでしょうか?

安藤:遺伝は大まかに、相加的遺伝と非相加的遺伝に分けられます。
相加的遺伝というのは、1つ1つの遺伝子の影響は小さいけれど、それらが累積すると効果が大きくなる、そういう遺伝パターンのことです。一方の非相加的遺伝は、相加的遺伝では説明のできない遺伝パターンを指します。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください