夢破れて31歳で日本を出た男が、中国でカリスマ教師になった:笈川幸司【世界が尊敬する日本人】
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月25日 16時50分
<日本語スピーチコンテスト優勝者を200人以上輩出し、30カ国で講演。熱血日本語教師として知られるが、中国での歩みは公私ともにどん底からのスタートだった>
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その声は温和で、むしろ控えめな印象すら受ける。気遣いにあふれていて、電話による取材が彼の所用で中断したときは、何度も「すみませんでした」と謝ってくれた。
タフでなければ生き抜けないであろう中国で、熱血教師として名をとどろかせているとは思えない。だが笈川幸司(49)は、中国に1万8000人近くいる日本語教師の中でも、ユニークで異彩を放つ存在だ。
中国に渡ったのは2001年、31歳の時。遠距離恋愛をしていた中国人の女性と結婚するためだった。しかし、5年半待たされていた彼女は、笈川が北京に着いた翌日に別れを切り出す。笈川は自殺を考えるほど絶望の淵に立たされた(実際、病院で抗鬱剤を処方してもらい服用していたという)。
その女性と出会ったのは、日本で大学を卒業する前、母の勧めで中国に語学留学をしたときだった。1年半の留学から帰国後、笈川は国会議員秘書を経て、27歳で夢だった漫才師を目指す。だが厳しいお笑いの世界では芽が出ず、本人いわく「逃げるようにして」飛行機に乗った、そんな中での失恋だった。
それでも笈川は中国にとどまった。仕事の当てすらなかったが、翻訳の勉強をする時間を確保できそうだという理由で、朝から晩まで働く必要のない日本語教師をやろうと考え、人に紹介してもらってある大学で職を得た。だが実際に彼がやったのは、むしろ早朝から深夜まで全力を注ぎ込む日本語教師だった。
「それまでは楽をすることばかり考えていたが、夢を捨てて中国に行き、そこで『別れてください』と言われてからは、自分の価値観を捨てようと思った」と、笈川は当時を振り返る。「いつ死んでもいい。お金もいらない。もう価値のない人生だから、他人のために全部使おうと考えた」
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