なぜ、日本は<異端>の大学教授を数多く生み出したのか
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 19時10分
作家・評論家の世界から、社会人教授へ
作家や評論家という職業は、雑誌等への原稿執筆や著作の刊行によって生活費を得る生業であるとともに、一般大衆に文化の価値を伝える文化伝承者でもある。
あの明治の大文豪、夏目漱石は東京帝国大学講師で、京都帝国大学教授として招聘されながらも辞退し、小説を書くことを本業として選んで大学を辞め、朝日新聞の専属作家として作家の道を歩んだ「作家の鑑」ともいえる存在である。
ところが,最近の作家は本業では稼ぎがよくないのか、テレビのバラエティ番組でコメンテーターとして出演したり、テレビのCMに出たりなどして、作家の仕事が本業なのか、余技なのか、よくわからない人たちが増えてきた。
とりわけ近年は1990年末以来の長引く出版不況のせいか、作家専業では飯が食えない人たちが急増している。そのため、安定収入(最低でも、専任教授であれば年収1000万円)を得るために、ツテを頼って大学に専任教授としてもぐり込んで、作家や評論家を兼業している人が多い。
例えば、作家の島田雅彦氏は1998年に近畿大学文芸学部助教授となり、その後、2003年に新設学部である法政大学国際文化学部教授となっている。同じく作家の中沢けい氏も2005年から法政大学文学部教授である。
筆者と大学時代(早稲田大学)に同世代で、かつて『僕って何』(河出書房新社、1977年)で第77回芥川賞を受賞した三田誠広氏は大学教授になりたくて、通常は1回しかできない早稲田大学文学部文芸学科の客員教授を2回も(1997-2001年、2005-2007年)務め、ようやく近年(2011年)、61歳で武蔵野大学文学部教授となっている(2019年度より同大名誉教授)。
この点、異色なのは、早稲田大学文学学術院教授の堀江敏幸氏である。彼は早稲田大学第一文学部フランス文学科を卒業後、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学という経歴で、芥川賞(『熊の敷石』講談社、2001年)をはじめとするさまざまな文学賞(三島由紀夫賞[1999年]、川端康成文学賞[2003年]、谷崎潤一郎賞[2004年]、読売文学賞[2006年・2010年]、伊藤整文学賞[2012年])を受賞している。
彼はフランス文学研究とともに、小説や評論を執筆し、高い評価を得ているのである。その点、三田氏とは対照的である。
作家の高橋源一郎氏は大学除籍(横浜国立大学経済学部除籍)にもかかわらず、文芸評論家の加藤典洋氏(1986年から2005年まで明治学院大学国際学部に助教授・教授として勤め、2005年に早稲田大学国際教養学部教授として移籍し、2014年に退職している)の後任として、2005年に明治学院大学国際学部教授に就任している(2019年3月退職)。
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