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保育園を覆う「新自由主義」と闘った船橋市の父母たち...「民営化に歯止めをかけたと思ったが...」

ニューズウィーク日本版 / 2023年11月8日 10時55分

これまで公立保育園の運営費は国庫によるひも付きだったが、一般財源化され自治体が自由に使えるようになった。さらにその後、公立保育園の「施設整備費」が交付金の対象外となるなど、2006年度以降、公立の運営費はすべて一般財源化されている。

本書では、公立保育園をつくりにくくする、こうした国の政策を「兵糧攻め」と呼ぶ。実際、2007年には私立の数が公立を上回り、毎年200以上の公立園が全国で減り続けている。

そして、民営化とともに取り入れられた規制緩和が様々な保育事故の温床になった。規制緩和というのは、要は「詰め込み保育」のことだ。

はたして食い止めたのか?

この間、船橋では何が起きていたか。船橋市内には公立保育園が27園ある。全国的な動きと呼応して、ここでも行政は民営化に動き出した。

ただ、父母会などの粘り強い反対運動で行政の動きをなんとか封じ込める形になっている。その取り組みは2003年から2011年にかけて8年間に及ぶ息の長いものだ。

8年間の活動をまとめたある文書はこう総括している。

「船橋市の民営化施策が撤回されたわけではありませんが、実質上の船橋市主導による公立保育園の民営化策に一旦の歯止めをかけることができました。これは父母会連絡会や時間外保育士労組、市職労が先頭に立ち、市民と共に『公立園を1園たりと減らさない』『民営化保育園名を出させない』取り組みを進めてきた大きな成果です」

父母会活動に関わった当初、この話を聞いて、今時こんなことがあるのかと驚いた。

船橋は高根台団地や習志野台団地、芝山団地をはじめ旧住宅公団による巨大団地が点在し、公立保育園も多くがその一角に建てられたので、戦後の革新の余韻がまだ2000年代を過ぎても残っていたのかもしれない。

しかし、喜んでばかりはいられない。公立保育園の維持に気を取られている傍らで、私立保育園が激増していたのだ。

2002年には市内でわずか19園だった私立保育園は、2022年の時点で101園にまで膨れ上がったのである(今仲希伊子「父母会戦記:保育園がなくなる日」白水社webふらんす)。つまり、実質的には民営化したということだ。

こうして保育をめぐる風景が一変することで、子育てを公共の事柄として大事にする態度が地域社会から消えてしまったと感じる。行政は待機児童対策でひたすら私立保育園を増やし、保護者は預けられればどうでもいいと思考停止する。

『「子育て」という政治』にはこんな一節がある。

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