連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」特別編【対談:doriko × 脚本担当・松岡亮】
ニコニコニュース / 2021年9月1日 17時0分
2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載です。(本連載記事一覧はこちら)
今回は特別編として、超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』の劇中曲「ロミオとシンデレラ」のクリエイターであるdoriko氏をお迎えし、松岡亮氏との対談をお届けします。(進行は超歌舞伎プロデューサーの小野里大輔氏)
京都・南座にて9月3日(金)〜9月26日(日)「九月南座超歌舞伎」上演!
9月12日(日)生配信も決定!
・九月南座超歌舞伎公式サイト
https://chokabuki.jp/minamiza/
対談 「超歌舞伎 御伽草紙戀姿絵とロミシン」
──dorikoさん、オンラインではありますが、初めてお会いしてお話させていただく機会をいただき、ありがとうございます。早速ですが、「ロミオとシンデレラ」(以下「ロミシン」)を超歌舞伎の劇中曲に使用させていただきたい、というオファーをお受けになった時のお気持ちをお伺いできますでしょうか。
doriko氏(以下、doriko):
お話をいただいて、やはりまずは驚きましたが、ほぼ同時に、そうきたか、という気持ちになりました。
超歌舞伎はそれまで”和物”の要素がある楽曲を使っている印象を持っていました。ただ、一見、相入れないもの同士を組み合わせてみる、というのがニコニコの文化だったな、ということにも思いがいたり、数分後には納得感がでてきていました。
ニコニコに作品を発表する、ということは、ある程度、二次創作に広がっていくということが前提になっていて、それが一つの醍醐味と言える、と思っています。
松岡亮氏(以下、松岡):
実は、この『御伽草紙戀姿絵』より以前から、超歌舞伎の製作メンバー内では、「ロミシン」を劇中曲の候補として挙げさせていただいていました。
4作目を作るにあたって「超歌舞伎」の演出をご担当いただいている藤間勘十郎ご宗家からも「ロミシン」がいいのではないか、というご意見をいただき、満を辞してオファーをさせていただきました。
劇中曲が「ロミシン」と決まった時点で、「超歌舞伎」公演のひとつの肝となる最後の立廻りで「ロミシン」を流す、という演出プランがご宗家の中にも固まっていましたね。
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──今年4月の『御伽草紙戀姿絵』は配信でご覧いただいたと伺いました。改めて、ご覧いただいたご感想を伺ってもよろしいでしょうか。
doriko:
エンターテイメントだな、という感想を持ちました。正直申し上げて、歌舞伎についてはほとんど知識がなかったのですが、今年の超歌舞伎を観て「なんでもありなんだな」と驚きました。
最初にCGのオープニング映像から始まり、若い人でもわかりやすい掴みがあって惹き寄せられました。その後の「だんまり」のシーンでは、最初、大混乱しました。「だんまり」とは何か、という知識が無かったので「一体、これはなんなのだろう?」と思って観ていたら、コメントで解説が流れてきて、その意味を理解することができました。気がつくと、すっかり超歌舞伎に魅せられていました。でも、最後はミクさんの曲が流れてまるでライブのようになり……。新旧が融合した作品だと感じました。
今年はコロナ禍のため、観客は声を出してはいけない、などのルールがありましたが、獅童さんが盛り上げるフィナーレでは、まるで自分たちが参加しているような気持ちにさせてくれました。
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松岡:
ありがたい限りです。ご宗家も、私自身もそうなのですが、古典歌舞伎というものがベースにあります。これはもしかするとある種の怠慢なのかもしれませんが、「超歌舞伎」では多少難解でも、コメントで歌舞伎ファンの方の解説が入って補完されることで、ミクさんファン・歌舞伎ファンの双方に楽しんでいただけるという思いもあります。
doriko:
そうした考えは、まったく怠慢だとは感じません。僕自身がそうなのですが、趣味を楽しむ時には「もっと知識を吸収したい」とか「知らない人にも教えてあげたい」といった気持ちが出てくるものだと思います。超歌舞伎のコメントを見ていて、そういった楽しみ方の余地があることはいいことだな、と感じました。
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松岡:
dorikoさんがおっしゃられるように、ニコニコユーザーの方には「知る楽しみ」を大事にしてらっしゃる方が多いように感じています。だから「超歌舞伎」も年数を重ねるうちに、少し突き放した作品作りをして、お客様自身で物語展開や演出を掘り下げていただきたい、という想いが生まれました。そうした部分を、ユーザーの皆さん同士で学び合い、補完しあってくださるのは本当に嬉しいです。
獅童さんもたびたびインタビューなどでおっしゃっていますが、超歌舞伎のお客様は、皆さん、作品を真っ直ぐに受け止めてくださいます。
今年の超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』のチャレンジの一つが、袴垂保輔が腹を切る場面でした。あの場面では、ミクさんもおらず、退屈に感じるのでは、と少し心配もあったのですが、ご観劇いただいた感想などを拝見し、受け入れていただけたことが本当に嬉しくて。悩みに悩んだのですが、あの場面を作ったのは間違いではなかったと思えました。
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doriko:
実は『御伽草紙戀姿絵』の中で僕の一番印象に残っているところが、その、腹を切る、自害のシーンでした。家や名誉などに命をかける、ということは現代の価値観とはかけ離れているものですが、だからこそ面白く感じられました。自分たちが常識だと感じていることはもしかしたら絶対ではなく、現在特有の感覚なのかもしれない、と。
松岡:
今回、ロミシンの歌詞の、ヒロインがお父さんに反対されている恋をしている、という部分が『御伽草紙戀姿絵』で描く悲恋に重なってきています。dorikoさんには、あの歌詞を書かれたことがすごいな、という私なりの思いをお伝えをしたかったです。
doriko:
この歌詞は、口調としては軽く、ワードチョイスも「パパ」「ママ」「お菓子」など軽いものなのですが、最後は「私と生きてくれる?」と問いかけるという、気持ちとしてはとても重い歌になっています。「私は全て捨てていくからそちらもその覚悟で受け止めて」というお話ですね。ここが『御伽草紙戀姿絵』でミクさんが演じた七綾姫と重なるのではないかと感じました。
最初、七綾姫は頼光を軽くあしらっているけれど、その後の場面では恋を邪魔しようとする人間に対して、頼光と「添い遂げる覚悟」をはっきりと口にしている。そういうところにロミシンの価値観を意識してもらえたのではないかと思いました。
松岡:
はい、おっしゃる通りです。ロミシンの歌詞からインスパイアされ、アイデアをいただきました。これまでの超歌舞伎の作品の中で、一番、劇中曲の歌詞の中からセリフを紡ぐことができたと思っています。
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──内容の詰まった作品に出来たのは、楽曲の力が大きいところだと思います。ところで、初音ミクさんとdorikoさんはいつ頃お知り合いになったのでしょうか?
doriko:
初音ミクさんが生を受けたのが2007年の夏頃だったと思うのですが、僕はその年の冬に出会いました。
──早いですね。
doriko:
ニコニコ動画に初期にアップされたミクさんの楽曲を見て、自分も作り始めました。最近のミクさんのご活躍ぶりはすごいですね。
実は、初音ミクさんが初めて人前に立たれた音楽イベントに自分は立ち会っています。そこから10年ほど経って、現在は非常に自然体に振る舞われていて、初音ミクさんの進化を実感しています。いろんなミクさんを見てきたつもりですが、今年の超歌舞伎では、目の演技や表情なども素晴らしかったです。
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──獅童さんもおっしゃっていますが、ミクさんはなんでも出来てしまうし、忘れない、間違えない、素晴らしい女優さんです。
doriko:
はい。でも、もしかするとアドリブには弱いのかもしれないな、と思っています(笑)。
皆さんは、初音ミクさんを女優としてご覧になっていると思うのですが、そのご成長を技術の進化として捉えた時に、今回の作品が近松門左衛門の人形浄瑠璃作品「関八州繋馬」が元になっていることもあり、「超歌舞伎」はもしかすると、長い年月を経て、ミクさんによる人形浄瑠璃になっているのではないか?!というような考えに至りました。
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松岡:
dorikoさんにおっしゃっていただいたように、超歌舞伎ファンの方の中には、初音ミクさんという存在を「現代の文楽人形」ではないか、という考察をされている人もいらっしゃいますね。
doriko:
人形を動かすことも、ミクさんに演じてもらうことも、どちらにも高い技術が必要だとおもいます。個人的には、超歌舞伎は数百年を経た、歌舞伎と人形浄瑠璃の融合なのではないかと、結論付けています。
──実は今年、超歌舞伎では初めて、初音ミクさんがご自身の歌を披露されました。いかがでしたでしょうか?
doriko:
自分自身の曲があのように大きく披露されることも少ないので、楽曲を作った人間としては、とても楽しかったです(笑)。そして、歌舞伎の笛が重なると、すごくテンションが上がるんだなということも感じました。
自分の楽曲に誰かの手が入って、そこで発見があったりすることは、とても楽しく、嬉しいことです。ニコニコでは他者の作品をアレンジして発表するのはよくあることです。
「ロミシン」も様々アレンジされてきましたが、その中でも、こんなに素敵に仕上げて下さって、とても嬉しかったです。
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──今年9月には、京都・南座にて「九月南座超歌舞伎」公演が控えています。最後に、「九月南座超歌舞伎」への期待や、お客様へのメッセージを頂戴できますでしょうか
doriko:
南座は建物そのものに歌舞伎の雰囲気があると思います。幕張に比べ、より歌舞伎の雰囲気を感じられる中で、初音ミクさんがどのように演じられるのかが、単純に楽しみです。ミクさんの歌や踊りだけではなく、立ち振る舞いや表情といった部分まで注目いただきたいです。
個人的には、月夜の下でミクさんと俳優さんが歌い踊るシーンが、歌・踊り、そして、ミクさん・俳優さん・映像、と、超歌舞伎の美しさや要素が凝縮されている感じがしました。その美しいシーンを是非ご覧いただきたいと思います。
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松岡:
今日は本当にありがとうございました。そして、dorikoさんには、「ロミオとシンデレラ」という素晴らしい楽曲を世に出していただいたことに、感謝するばかりです。最後、頼光の大見得をきっかけにロミシンが流れるシーンは、稽古場でも本番でも、思わず涙が出てきてしまいます。楽曲の持つ力は凄い、と改めて感じました。
doriko:
僕からも、同じように感謝をお伝えしたいです。「ロミオとシンデレラ」を世に出した時には、こんなふうに歌舞伎になるなんて思ってもいませんでした。楽曲からの二次創作に優劣をつけるものではないですが、発表してから10年以上経った中で、最も記憶に残る作品の一つだと思います。本当に超歌舞伎の関係者の皆様に感謝申し上げたい気持ちです。
──ありがとうございます。この楽曲に恥じぬよう、我々もお芝居を作っていきたいと思っています。ぜひ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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・九月南座超歌舞伎公式サイト
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