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Gilles de RaisがExtasy Recordsから発表した『殺意』は1990年代インディーズを代表する傑作アルバムのひとつ

OKMusic / 2023年12月13日 18時0分

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(okmusic UP's)

本文にも書いた通り、今週は先日ライヴを背景してきたGilles de Raisのアルバム『殺意』をピックアップする。現X JAPANが大ブレイクを果たし、LUNA SEAがメジャーデビューした1992年。彼らに追随するかたちでExtasy Recordsから『殺意』を発表し、その年の年間インディーズチャートで1位を獲得。翌年に発表した次作『BECAUSE』もまた年間インディーズチャート1位となって、1990年代前半において、Gilles de Raisは確実にシーンの頂点に昇り詰めていた。今なお脈々と続いているいわゆるヴィジュアル系の系譜における重要バンドであることは間違いない。

■時を経ても瓦解しないメロディー

2023年12月2日、縁あって、高田馬場CLUB PHASEにて、Gilles de Raisのライヴ『理由なき反抗2023-THE LAST SERENADE』を拝見した。彼らには1992年と1993年に取材しており(つまりメジャーデビュー前と後)、その辺りでライヴも観ている(はずだ)が、Extasy Recordsからインディーズ盤が出ていたことや、ポニーキャニオンからメジャー盤がリリースされたこと、あと、漠然と当時のヴィジュアルは覚えていたものの、音源の内容はもちろん、彼らの音楽性がどんなものだったのか、さっぱり思い出せない。継続的に仕事させてもらっていればともかく、30年もブランクが空いているとそんなものだ。“だったら事前に予習くらいしておけよ!”という話だが、12月2日直前に急きょ別の取材が入ってしまい、予習のための時間はそちらの取材準備に費やされてしまったのであった(言い訳御免)。

そんなわけで、ほぼ予断を持たないまま、新人バンドを観るような感覚で当日に臨んだ。しかし、正直言ってちょっと驚いたことに、聴き覚えのあるナンバーがいくつもあった。前述の通り、音楽性も覚えていなかったくらいだから、どの曲を覚えていたのか、そのタイトルも分からないのだけれど、自分でも不思議なくらいに耳馴染みがあった。筆者の記憶力がいいわけではない。変な話、記憶のなさには自信がある。そうではなく、それはそれだけGilles de Rais楽曲のメロディーが強靭であるということだろう。今回、彼らのアルバムをピックアップした理由はそこにある。気になって調べてみたら、Extasy Recordsから発表されたGilles de Raisの2枚のアルバム、『殺意』(1992年)と『BECAUSE』(1993年)は、それぞれその年の年間インディーズチャートで1位となっていた。名盤として紹介する意義も十分にある。どちらを紹介するか迷ったが、今回は表ジャケットのイラストも裏のタイポグラフィ(?)も印象的な『殺意』を取り上げてみたい。

おおよそ30年振りに聴き直した『殺意』。やはり…と言うべきか。まずはメロディーの立ち方に注目した。全体的にロック的なキャッチーさにあふれている。全部が全部そうだと言うのではなく、無論インストのM7「SLOW LINE」はヴォーカルレスだし、3拍子のM10「巴里祭」は歌メロというよりも楽曲全体の雰囲気重視ではある。さらに、実験的な匂いもするM5「BRAIN FOR DELIRIUM」、ハードコア色強めのM12「#19」辺りは、あえてキャッチーさを排除しているのだろう。しかしながら、それ以外の楽曲は、タイプの違いこそあれ、概ねサビでの歌メロのリフレインが楽曲の中心となっている。M1「SUICIDE」、M2「MOONLIGHT LOVERS」、M3「UP TO DATE」などはそれが明白だし、パンキッシュなM4「殺意」、M6「K3 NOISE」、M8「CYBER PUNK」、M11「FOLLOW ME」辺りも抑揚が薄いなりにロック的リフレインに忠実で、そこに高揚感がある。M5にしても、キャッチーさを綺麗さっぱり排除しているのではなく、1割くらいは残している。この辺はオールドスクールなR&R──初期The Beatlesとか、The BeatlesがコピーしていたR&R辺りの影響があるのではないかと何の確証もなく想像したが、実際のところはどうなのだろう。今さらながら興味深く思ったところである。

さて、その歌のキャッチーさにおいて、本作の白眉に感じたのはM9「崩れ落ちる前に…」だ。これは誤解を恐れずに言えば、キャッチーを通り越してポップと言って良かろう。BOØWYから発祥して数多のバンドに受け継がれていった日本のロックの保守本流(?)であるような気がする。M9ほどではないけれど、M2のサビにもそのテイストはあるし、M1、M2、M3のAメロからも──この言い方が適切かどうか分からないけれど、歌心的なものを感じさせる。その点で言えば、M10もそうだし、アルバムのフィナーレを飾るM13「PEOPLE OR PEOPLE」などもその範疇に入ろう。『殺意』は歌のメロディーがキャッチーであり、ポップであり、メロディーアスである。これだけメロディーがしっかりしていれば、如何な記憶力の乏しい筆者だったとしても、ちゃんと脳裏に刻まれるものだと、今さらながらに感心させられた。

■意欲を感じるサウンドメイキング

メロディーが優秀なだけでなく、サウンドのバラエティーさも本作『殺意』から如何なく受け取れるところである。ザっと見ていこう。軽快な頭打ちのリズムに乗ったM1「SUICIDE」で印象的なのはエッジーなギターサウンドである。そのドライな音は、それこそBOØWYであったり、REBECCAであったり、Gilles de Raisと同期であるいわゆるヴィジュアル系のバンドでも多用されていたもので、おそらくニューロマ由来だと考えられる。1980年代から1990年代まで脈々と続いてきた日本のギターロックの系譜である。

これは引き続きM2「MOONLIGHT LOVERS」でも聴こえてくるが、M2はシャッフルのリズムというのが面白い。ダンサブルでありつつも、途中、変拍子気味な箇所もあり、ダークな展開を見せるコード進行と相俟って、かなり興味深い構成だ。ひと筋縄ではいかないところに彼らの意志を感じる。

M3「UP TO DATE」はギターのアルペジオのアンサンブルで始まり、スラッシュメタル風に展開する。イントロがアルペジオというのは、当時のヴィジュアル系バンドが多用していたものなので、それ自体は珍しいものではないが、そのギターの音色、コードはギターシンセを使っているのだろうか。バロック音楽風というか、欧州の民族音楽的というか、宗教音楽的というか、他では聴けないものであって、今も新鮮に響く。

M4「殺意」とM5「BRAIN FOR DELIRIUM」は『殺意』でのGilles de Raisの本領発揮のナンバーと言っていいだろうか。ともにキャッチーさは薄いものの(M5は皆無と言っていいか)、サウンド、バンドアンサンブルにおいては奔放にやっている印象が強い。M4は男女のモノローグの掛け合いが乗った妖しいギターの音色から始まって、ハードコアパンク的な高速ブラストビートへと連なっていく。1980年代のポジティブパンクを彷彿させるものの、独特の展開とサウンドメイクからは単なるエピゴーネンに留まっていないこともよく分かる。M5もポジパン風だが、逆回転風から始まることや、印象的なギターリフが引っ張っていることを考えると、こちらはプログレからの影響だろうか。その前半の展開も面白いのだが、圧倒的に注目なのは中盤以降。何とシャッフルのR&Rがやってくる。1割くらいのキャッチーさを残していると前述したのはそこである。しかも、そこからノイジーでどこか実験的なサウンドコラージュ的なパートが訪れるという、こちらが想像だにしない奇妙奇天烈な展開である(これは誉め言葉)。徹底的に自分たちの思うところを形にした印象が強い。そこから、ヘヴィなギターリフものと言っていいM6「K3 NOISE」、メロディーアスなインストナンバー、M7「SLOW LINE」へと続くのだから、アルバム前半だけでも、相当にバラエティー豊かなことは言うまでもなかろう。

M8「CYBER PUNK」は文字通りパンクと言えるナンバー。間奏明けで楽器隊のみで多めにキメを入れてくる辺りもシャープでカッコ良い。M9「崩れ落ちる前に…」は正統派J-ROCKと言える歌メロと前述したが、イントロからAメロにかけてはスラッシュメタル風で、ダイナミズムのあるアンサンブルを伴っており、ことサウンド面には彼ららしさを注入している点を付記しておかなければならないだろう。M10「巴里祭」は三拍子であることもさることながら、全体を貫く異国的かつ郷愁的な空気感の構築がお見事。バンドが幅広い世界観を標榜していたことの証左であろう。M11「FOLLOW ME」はパンク、M12「#19」はハードコアパンクとギアが上がっていきながら、M13「PEOPLE OR PEOPLE」は、これこそがサイバーパンクと言ったほうがいいのではないかと思うような、レトロフューチャー感というか、テクノポップよりのニューロマというようなナンバーでアルバムは締め括られる。こういう要素を取り込んでいたのは、同時期の他バンドにはまったくなかったのではなかろうか。いたとしても極めて少数だろう。今回、最も面白く聴いた。イエロー・マジック・オーケストラの「SOLID STATE SURVIVOR」とThe Beatlesの「Eleanor Rigby」をマッシュアップしたような…とは、語弊も危険もあることは承知だが、とにかくGilles de Raisの先鋭的な指向を如何なく感じるところである。

また、ここまで主にギターサウンドや、ジャンル的な傾向について述べてきたが、忘れてはならないのはリズム隊の存在感である。多様な音楽性でありつつ、ダレることもよれることも飽きることもなく成立させているのは、ベースとドラムの個性も大きいと見る。ギターとのアンサンブルを考え抜いた感のあるベースフレーズと、一曲の中でも緩急を巧みに操りながらフィルインではオリジナリティーを見せるドラミングがあることで、全ての収録曲を芳醇なものにしていることも記しておく。

■“Gilles de Rais Project”として 再始動

最後に、名盤紹介から話題は少し離れるが、現在のGilles de Raisについて少し触れておきたい。ポニーキャニオンで3枚のアルバム、4th『Gilles de Rais』(1993年)、5th『JAPAN』(1993年)、6th『Crack A Boy』(1994年)を発表したのち、1995年に解散したバンドは、2017年に“Gilles de Rais Project”として再始動を果たしている。しかしながら、ひと口に再始動と言っても、そこまでの道程は決して平坦なものではなかったようだ。いや、今も決して楽な活動ではないかもしれない。というのも、2008年、JOE(Vo)が交通事故に遭って心肺停止となる重傷を負っていたというのだ。この辺は“Gilles de Rais Project”のウェブサイトに詳しいので、ぜひググっていただきたい。何とか一命をとりとめたものの、JOEに後遺症は残ったままだという。筆者は冒頭で述べた通り、ほぼ予断を持たないままに先日の高田馬場でのライヴを拝見したのだが、それだけに当初、Moi dix MoisのSeth(Vo)とのツインヴォーカルのスタイルであったことを“おや?”と思ったし、ツインヴォーカルと言っても、JOEはシャウト担当、Sethはメロディー担当といった感じでありつつ、しかも明確にパートが分かれているわけではない感じもあって、“これはどういうことだろう?”と思ってステージを観ていたところはある。ただ、彼のパフォーマンスというか、ステージでの佇まいは、ロックバンドのフロントマンそのものの熱さ漲るものであったため、ライヴそのものは集中して観ることができた。

そうは言っても、MCが滑らかなものではなかったところで異変は感じていたので、あとから、この日、ゲストとして出演していたシン・ドクサツテロリストのイチロウ(Vo)にここまでの顛末をうかがった。そして、理解した。彼によれば、JOEは話すのも大変そうだという。そんな状態でありながら、Gilles de Raisに加えて、JOEは、その高田馬場でのライヴでオープニングアクトを務めたC.I.JOE’S PUNXでもヴォーカルを務めている。今になって振り返れば、バンドメンバー、ゲストバンドも含めて、周りの仲間たちがJOEを盛り上げ、それに応えてJOEも凛とステージに立っている──そんな様子であったことも思い起こされる。現在のJOEのことを知らなかったことは、単に筆者の勉強不足かもしれない。多くのファンには、何を今さら…という話かもしれない。しかしながら、このコラムをお読みいただいた方の中で、Gilles de Raisの再結成、JOEの現在の状態を知らなかった方──とりわけ30年前はGilles de Raisをよく聴いていたという方の中にそういう方がいらっしゃるのなら、僭越ながら、今回紹介した『殺意』などの音源を聴くだけに留まらず、“Gilles de Rais Project”にアクセスするなり、何かしらアクションを起こしてほしいと考える。別にライヴに行けとか、新たな音源を買えとか言ってるのではない。X(旧Twitter)をフォローするのでもいいと思う。そういうアクションがJOEにさらなる力を与えるのではないだろうか。そう信じたい。

TEXT:帆苅智之

アルバム『殺意』

1992年発表作品



<収録曲>
1.SUICIDE
2.MOONLIGHT LOVERS
3.UP TO DATE
4.殺意
5.BRAIN FOR DELIRIUM
6.K3 NOISE
7.SLOW LINE
8.CYBER PUNK
9.崩れ落ちる前に…
10.巴里祭
11.FOLLOW ME
12.#19
13.PEOPLE OR PEOPLE



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