草なぎ剛×白石和彌監督『碁盤斬り』 「いままでで一番かっこいい自分」に大満足
ORICON NEWS / 2024年5月18日 8時30分
俳優の草なぎ剛は、主演した映画『碁盤斬り』を「代表作になった」と朗らかに語った。落語の演目として長く親しまれてきた「柳田格之進」を題材にした時代劇だ。監督を務めたのは、『孤狼の血』などで知られ、時代劇は初挑戦の白石和彌。2人に同作について聞いた。
【画像】白無垢姿のお絹(清原果耶)など映画『碁盤斬り』場面写真
■映画『碁盤斬り』ストーリー
娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らす柳田格之進。彼は、身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われた身だった。しかし、かねてから嗜む囲碁にはその実直な人柄が表れ、江戸で多くの知己を得る。ある日、旧知の藩士により、彦根藩での悲劇の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。
■鬼気迫る草なぎさんの格之進は本当にかっこよかった
――初めての白石組はいかがでしたか?
【草なぎ】『孤狼の血』のようなバイオレンスな世界観の白石監督が初めて時代劇を撮ると聞いて、ビビッときましたし、参加できてヤッター!うれしい!って感じです。僕らが“新しい地図”を広げて間もない頃、慎吾ちゃん(香取慎吾)が白石監督の『凪待ち』に出ることになって。始めたばかりのSNSに慎吾ちゃんが白石監督と撮った2ショットや撮影現場の写真を投稿していたんですよ。あの人見知りの慎吾ちゃんが!?もうそんなに仲良しに!?って、内心びっくりしていたんです。それで勝手に仲間意識を持ってしまい、僕と同い年だと知ってからは、ますます親近感を覚えました。今回の現場ではチームを引っ張っていくエネルギーに尊敬の念を抱きましたし、映画への情熱がとにかくすごい。それに、いつも僕のことをたくさんほめてくれるんですよ(笑)。
――白石監督は草なぎさんとのタッグいかがでしたか?
【白石】同い年という話が出ましたけれど、僕らは高校生ぐらいの頃から同い年の人がSMAPにいる、と思って見ていましたから。香取さんや草なぎさんと仕事でご一緒していることが、いまだに不思議な感じがするんですよね。僕は監督になってからずっと時代劇をやりたいと思っていて、ようやくチャンスが巡ってきた1本目を草なぎさんというスターと一緒につくれたことが、本当に夢のようです。
――時代劇をやりたかったというのは?
【白石】子どもの頃から時代劇をたくさん観てきましたし、日本の映画史は時代劇とともに発展してきましたから。日本の映画監督として、時代劇を1本も撮らずに終わっていいのだろうか、という思いはずっとあったんですよね。
――長年時代劇をつくってきたスタッフと初めて仕事するのは大変だったのでは?
【白石】なんかそういうイメージありますよね(笑)。でも、そんなこと全然なくて。ものすごくウェルカムな雰囲気でした。初めてでわからないことがあったら何でも言ってくれ、どんなことでも僕たちが何とかするからって。その道一筋のプロたちが初めての僕でもやりやすい環境を整えてくださった。感謝しかないです。
――どんなところで時代劇と現代劇の違いを感じましたか?
【白石】光源の違いは大きかったですね。江戸時代の室内照明はろうそくや行灯なので、限られた光源でどれだけの表現ができるのか、現代劇とは違う工夫が必要でしたし、かなり攻めた画づくりができたと思っています。普段はフレームからはみ出るような荒々しい映画を、と思っているんですが、今回は美しい映画を撮りたいという思いがありました。
【草なぎ】そう、なんか本当にかっこよく撮ってくれたんですよね。いままでで一番かっこいいな、自分って思った(笑)。代表作になったと思います。監督、呼んでくれてありがとうございますって言いたい、というか今言えた(笑)。
【白石】いやあ、こんなことあります?最高の言葉ですよ。
――そもそもなぜ主人公の柳田格之進役を草なぎさんに演じてもらおうと思ったのですか?
【白石】柳田格之進は、藩を追われ、長屋暮らしの浪人に身をやつしているけれど、元々は彦根藩で献上品をつかさどる「進物番(しんもつばん)」を務めていたという設定にしました。正直一徹な性格で、誰にもおもねらない。後半、自分と家族を陥れた敵を追い、あだ討ちの旅に出て、ひげもはやしっぱなしで身なりもボロボロになっていくんだけど、武士としての品格は保たれている。そんな格之進のイメージが、大河ドラマ『青天を衝け』で草なぎさんが演じた徳川慶喜と重なったのと、何より草なぎさん自身に備わっているものだと思っていたんです。僕の目に狂いはなかったですね。鬼気迫る草なぎさんの格之進は本当にかっこよかったです。
【草なぎ】いやぁ、品格があるのは育ちがいいからかな。埼玉の春日部、『クレヨンしんちゃん』の街の出身なんだけど(笑)。役者って一人でやるものじゃないから、衣装を着せてもらって、ヘアメイクをしてもらって、白石監督とカメラマンの福本淳さんが相談しながらうまく撮ってくれて。皆さんの力をお借りして、芸能生活30周年にして一番の品格が出ちゃいましたね(笑)。僕としては、撮影中は結構必死でした。
■時代劇にはグローバルにつながれる要素がある
――新たに気づいた時代劇の魅力は?
【白石】歴史を研究されている方々によって新たな発見があったり、新しい事実が確認されたりしていて、いろいろ調べていくことが楽しかったですね。調べてわかっていることや長年時代劇が培ってきたものをベースにしつつも、最終的にはもはや誰も見ることのできない過去の世界なので、物語を最大限面白く見てもらうために大胆な嘘をつくこともできる。ファンタジーな世界として魅せることができるんですよね。それに、身分制度があった江戸時代を舞台にすると、現代にも通じる格差、ヒエラルキーの問題も潔く描ける。シンプルな作品づくりがしやすいと感じました。
――真田広之さんが手がけられた日本の戦国時代を描いたドラマ『SHOGUN 将軍』がアメリカで大ヒットしたように、本作も海外で受け入れてもらえるのではないかと思ったのですが…。
【草なぎ】僕も楽しんでもらえるんじゃないかと思う。“世界の白石”になりますよ!
【白石】“世界の白石”はともかく、海外の映画祭に参加すると、どこの国へ行ってもなんで日本人なのにサムライ映画をつくらないのか?と言われるんですよね。日本では若い世代が時代劇を見なくなって、あまりつくられなくなっているんだよね、と話すと、海外の人たちは日本のサムライや忍者の話をもっと見たい、って言ってくれる。世界に目を向ければ、時代劇のニーズはまだまだあると思いますね。
【草なぎ】時代劇にはグローバルにつながれる要素があるし、日本の若い世代の人たちにもっと見てもらいたいと思う。それには、この『碁盤斬り』のように面白い作品をつくることが大事で、僕は、自分で面白くないなと思った作品は人にすすめないけど、これは本当に面白いと思ってるから。テンションがあがりすぎて、あんまり言うと嘘っぽく聞こえるかもしれないけど、本当に満足のいく作品ができたと思っているんです。
前半の静かに碁を打っているところから、事件が起きて「動」に変わっていくところが実に面白い。國村隼さん演じる源兵衛さん(萬屋源兵衛)と中川大志くん演じる弥吉の掛け合いがまるで落語の口演を見ているようなシーンもあって、新しい時代劇って感じもするんですよね。とにかく映画館に足を運んでいただけたら、損はさせない。きっと響くものがあると思います。
【白石】草なぎさんがおっしゃってくれたように、前半と後半で違う映画を見ているように感じてもらえるといいなと思っていました。それに、草なぎさん演じる格之進をはじめ、清原果耶さん演じる娘のお絹、國村さんの源兵衛さん、ほかどのキャラクターも生き様に美しさをはらんでいて、見ていると、心が洗われるんですよね。とはいえ、僕の作品はエンターテインメントなので、楽しんでいただけたらうれしいです。
――本作は、英語タイトル『BUSHIDO(ブシドウ)』として、4月に開催されたイタリアのウーディネ・ファーイースト映画祭で上映され、批評家により選出されるブラック・ドラゴン賞(Black Dragon Audience Award)を受賞。また、フランスでの配給も早々に決定。フランスの配給会社、ART HOUSE FILMS(アートハウス・フィルムズ)の代表を務めるEric Le Bot氏は「演出も俳優陣の芝居もとてもいい。この映画は侍映画の伝統を引き継いでおり、とてもエレガントでよくできている」とコメントを寄せている。
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