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日本在住の外国人、災害時の対応分からない

パラサポWEB / 2024年3月11日 7時0分

少子高齢化が進む日本では、大切な働き手となる外国人就労者が増加している。そんな中、課題となっているのが、在留外国人とのコミュニケーション。特に災害時には、言葉でのコミュニケーションをとるのが難しい外国人の方々が、どうしたらスムーズに避難できるかを日頃から考えておくことは重要だ。そこで広島県福山市では、在留外国人の方々の防災訓練意識を高めるため、スポーツを活用した防災訓練を行ったという。その詳細についてご担当者にお話を伺った。

急増する在留外国人。多様性社会への対応がマストに

出入国在留管理庁の発表によると、2023年6月末の在留外国人数は、293万9051人で、前年末に比べ14万8645人(4.8%)増と、増加傾向にある。少子高齢化が急速に進み、人手不足が深刻な日本では、在留外国人は重要な労働力であり、街を活性化する大事な一員でもある。その一方で、外国人であることを理由に、アパートへの入居や飲食店への入店を拒否されるなど、日本全国でさまざまな人権問題が発生しているのも事実。

そうした問題を積極的に解消しようとしている自治体のひとつが、広島県福山市。同市では技能実習生や、留学生などの在留外国人が増え、現在では約60カ国の外国人が暮らすようになったという。

「昨年度まで多文化共生・国際交流に関することについては市民生活課が担当していましたが,今年度から『すべての人の人権が尊重され,誰もが活躍できる社会=多様性社会』の実現のため,人権平和,男女共同参画の担当と共に新しい部署として多様性社会推進課が設置され、さまざまな施策や活動をしています」

と話してくれたのは、多様性社会推進課の多文化共生・国際交流担当次長、福島さんだ。

言葉の壁。災害時どのように動けばいいか分からない
「いろんな国の人と防災×スポーツ in Fukuyama」の実際のチラシ。すべてにひらがなでルビがふってあり、わかりやすいようになっている

福山市では市民協働による「多文化共生社会」を実現するため,福山市民や外国人市民などを対象に,2016年から「福山多文化共生大学」という講座を開始。「いろんな国の人と防災×スポーツ in Fukuyama」もその活動の一環なのだそう。

「2018年に起きた西日本豪雨(正式名称:平成30年7月豪雨)では大きな被害がありましたが、後日広島県がアンケートを行ったところ、災害時にどのように動けばいいかという情報が、外国人の方に届いていないということが分かりました。それを受けて、『福山多文化共生大学』では、防災をテーマにした取り組みを続けてきました」(福島さん)

スポーツで一緒に体を動かすことで伝わる、防災の知識
乾パン食い競争で盛り上がる参加者の皆さん

しかし、そもそも自然災害が少なく,災害への備えが必要だという意識が低い国の人や、日本語がそれほど得意ではない人たちには、座学だけでは伝わりにくい。

「さまざまな国の人がいる中で、どのように防災を伝えていくかを考えたときに、体を動かした方が興味を持ちやすいですし、頭に入ってきやすいのではないかということで、スポーツを取り入れることにしました」(福島さん)

福山市では市制施行100周年記念のマラソン大会をはじめ、以前からスポーツに関するイベントを積極的に行っていたが、コロナ禍によりその機会が減っていた。しかし、最近になって「スポーツ大会を開催してほしい」といった市民の声が聞かれるようになったことも、「防災×スポーツ」を思いつくきっかけのひとつになったそうだ。

「いろんな国の人と防災×スポーツ in Fukuyama」開催当日、会場となった福山市立南小学校の体育館に市内に住む外国人や多文化共生に関心のある日本人など約80人が集まった。参加者全員で防災に関する座学を受け、その後は座学の内容をもとにクイズが出題される「防災○×クイズ」や、パン食い競争ならぬ「乾パン食い競争」、非常用袋に防災グッズを入れるなどしながらリレーをする「防災リレー」などを行った。

競技では8チームに分かれて競い合った。リレーは1チームから5人の選手が出場し、3つのポイントに用意された課題をリレー形式でクリアしてゴールを目指すというもの。3つのポイントには以下の課題が用意された。

1ポイント目:1人の選手が防災グッズを防災バッグに詰めて運ぶ。
2ポイント目:2人の選手がフェイスタオルを使った簡易担架でバレーボールを運ぶ。
3ポイント目:2人のうち1人をけが人と見立て、もう1人が新聞紙とビニールテープを使って簡易応急処置をする。

これをすべてクリアしていち早くゴールしたチームが勝ちとなる。

同じチームになった人同士、交流を深める参加者のみなさん

「リレーは、防災グッズとはどういうものかとか、身近なものを使って簡易担架を作れることや応急処置ができるということを知ってもらうためのものでした。パン食い競争をテレビで見たことがあって興味があったという人もいて、すごく盛り上がりました」

そう話してくれたのは福島さんと同じ多様性社会推進課の木原さん。今回の参加者はとても楽しそうな様子だったそうだが、こうしたイベントでは気をつけなければいけないこともあると木原さん。

「たとえば食べ物に関しては宗教などによって食べられない物がある人もいますし、文化や習慣として、パン食い競争のように手を使わずに食べるのは良くないと思う方もいます。また、頭にはちまきを巻くのに抵抗がある、できないという人もいます。そうした場合、出来ない、嫌だということが言えるような環境を作る配慮も必要です。ただ、やはり今回のようなスポーツを使った試みは、体を動かすことで、防災知識を楽しく身につけてもらうことができますし、チームで一丸となることで絆が深まったり、さまざまな人が交流できるので、これは大きな成果だったと思います」(木原さん)

参加者のほとんどが外国人の方々だったそうだが、今回のイベントの成功を見て、今後は日本人の方にも参加をしてもらい、交流を深めるきっかけになればと福島さんは言う。

「今、福山市には約60カ国の人々が住んでいますが、英語圏の方ばかりではありません。日本人の市民の中には言葉がわからないことによって、近よりがたいとか、怖いといった先入観を持っている人も少なからずいらっしゃると思うんですが、こうしたスポーツを通したイベントで交流することで、心と言葉の壁を乗り越える、そんなことができたらいいなと思っています」(福島さん)


オリンピック、パラリンピックなどのスポーツの国際大会では、国や言葉、宗教や文化が違う人々が、スポーツを通してひとつになる姿を目にする。みんなで夢中になる、一緒に体を動かす、一緒に応援することで、人はひとつになれる。そんな風に、スポーツには心や言葉の壁を乗り越えさせてくれる力があることを改めて思い知った。これからますます多様化がすすむ日本社会で、スポーツは人々の理解と絆を深める重要なキーワードになるのではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

photo by Shutterstock

写真提供:広島県福山市多様性社会推進課

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